第4話 女児向けアニメの魔法ステッキは最強武器になったらしい
「さすが勇者様です!」
「よっ! 最強勇者っ!」
「ヒュー! 惚れちまいそうだぜっ!」
背後から聞こえてくる賞賛の声。振り向くと、姫さんと兵士たちが拍手を送ってくれていた。
まさか木刀にこんなに力があるとは…………。
目の前で倒れた盗賊たちと手元の木刀。まさか一振りすれば壊れてしまいそうな木刀が盗賊全員をあっさり倒してしまうほど、強い武器だったとは信じられない。
意外と動けてしまった自分も信じられない。
ここずっと運動なんてしていなかったのに。
「やっぱりできるじゃない………!」
どういう立場なのだろうか、ゆっくり拍手するれんげ。その悪役みたいな拍手やめろ、師匠ずらすんな。俺が戦う羽目になったのは全部お前のせいなんだからな。
「にしても、この木刀は俺の手に馴染むな………」
少し反れた茶色の刀。見た目素朴だが、これだけ戦って傷一つないとは………普通にかっこいいかも。
「ほーんとそれに魔法付与しててよかったわ」
「魔法付与?」
「うん、その柾の木刀に魔法を付与してたの。何もしてなかったら、とっくに壊れていたわ」
そういや、渡してくる時に魔法がどうのこうのって言ってたな…………まさかこいつが魔法で木刀を強化したのか?
「あはは、信じられん………」
成績はよくともファンタジー儀式にはことごとく失敗していたやつだぞ。ありえん、ありえん。
「魔法を使うと言っても、どうやってやったんだよ」
「これを使ってやったの」
れんげが見せてきたのはこてっこてのピンクステッキ。先端には大きなハートと星、月があり、女児向けのものだとすぐに分かるデザイン。
「朝アニメの魔法ステッキおもちゃじゃねぇか………ああ、なるほどな。使えるなんて嘘なんだな。本当はそこら辺にいる妖精に魔法を使わせたんだろ? 醜い嘘はつくんじゃない、悲しくなるぞ………」
「何言ってるのっ! 嘘じゃないわよっ! 正真正銘私の魔法! このステッキはどんな魔法だって使えるんだから!」
そう言って、れんげはステッキをくるりと回し、構える。
「プルガーティオー!」
光の粉が散り、全てが金色の輝いていた。不思議と気持ちが安らいでいく。何だこの温もりは…………。
見ると、妖精たちがバカはしゃぎしている。嬉しさのあまりか、サングラスでエアーギターをかましてるロック妖精がいた。ここの妖精たち、随分とはっちゃけてるな。
れんげはドヤ顔で俺の方を見る。
「うふふ! 見て! これが浄化魔法よ! 私を聖女って認めなさい! 柾!」
「浄化?」
「ええ! さっき妖精さんが教えてくれたの! 聖女は浄化魔法を使えるの!」
浄化………お祓いとかみたいなものなのか? 神聖力を高めるとか?
「わっ、わぁ――――!!」
突如奇声を上げた姫さん。ものすごい勢いでれんげに駆け寄り、ステッキをなめまわすように観察し始める。よだれもでかかっていた。先ほどの姫さんとの印象とはまるで違う。
………………そう、オタクのような反応。
「レンゲ様! このステッキはレンゲ様がお作りにっ!?」
「いやぁ、作ったわけじゃないよー。私の部屋にあったものを持ってきただけよ」
「えぇ!? レンゲ様のお部屋にこんなものがっ!? …………あぁ、さぞかしレンゲ様のお部屋には高級魔道具で溢れているのでしょうね…………」
「………これ、そんなに凄いものなのか?」
「『凄い』で済ませれるものではありませんよ! 私には高度な鑑定眼があるわけではないので明確に分かるわけではありませんが、女神の加護がかかっている気がします!」
「つまり………最強武器ってこと?」
「はい!」
「やったー!」
ロックをかます妖精たちとともに、れんげは万歳で大はしゃぎ。れんげのことを何一つ知らなければ、さぞかし無邪気でかわいらしい見えたのだろう。
案の定、れんげのことを聖女として見始めている兵士の中には何人か頬を赤く染めているやつもいた。騙されてるぞ、兵士ども。
まぁ、俺には何一つ魅力的には見えないが。
「てか、れんげ。このステッキはどこから持ってきたんだ? 転移した時、お前こんなもの持ってなかっただろ?」
「もちろん、このバックから取り出したのよ!」
「バック?」
そう言って見せてきたのは、紺色の肩掛け学生カバン。れんげが普段から使っているもので、持ち手にはうさぎや猫キャラのキーホルダーがつけられていた。
「転移させられる前、ヤバいかもと思って一応バックも一緒に持ってきたの」
「へぇ」
そういうところはちゃっかりしてんだよな、こいつ。
「それでね、このカバンの中に手を突っ込むとね、私たちたちの世界の物を取り出せるのよ! すごくない!?」
「ほぉ」
試しに、俺もれんげのバックに手を突っ込む。しかし、取り出せたのは筆箱だけ。取り出そうとしていた自分のスマホを掴むことはなかった。
「取り出せないんだが………なんでお前は取り出せたんだ? 取り出す前に何をやった?」
「めっちゃ願う?」
「『めっちゃ願う』………え、それだけ?」
「それだけに決まってるじゃない」
「………………はぁ」
「えっ、何で柾なんかにため息疲れないといけないの………?」
めっちゃ願って、自分の部屋の物取り出せるとか。
…………それもうフィーリングじゃん。根拠ぶっ飛ばしじゃん。チートじゃん。
女神の加護がかかってるってことは女神様がれんげにチートを上げたのだろうが………なぁ、女神様、こんな脳内お花畑女にチート能力授けてどういうおつもりですか?
僕にその能力くださいません?
あなたの望み通り、さっさと厄災片付けにいきますんで。
「それで、柾は何しにきたの?」
「あのじじぃが話していただろ、俺たちに『厄災退治』をしてほしいって。それでお前を捕まえに来た」
「そういえば、最初にそんなこと言ってたわね。あのおじいちゃん」
「ああ、だから手伝ってくれ」
聖女だとは認めたくないが、浄化魔法が使えるれんげがいれば、一瞬で仕事が片付きそうな予感がするんだ。
しかし、れんが横に首を振った。
「いやよ。私は妖精さんたちの遊ぶの。厄災なんかに付き合ってる暇はないわ」
「………そうか。じゃ、厄災が片付いて、元の世界に帰れるようになったら、お前だけ置いていくよ………そういえば、この前お前ライブのチケット当たったんだってな? 使わないんだったら、俺と香雪で行くから。じゃあな」
そのライブ全く興味ないけど。
「なっ、なんであんたに使われないといけないのっ! のライブは絶対に行く! 私も帰る! 妖精さんたち連れて帰る!」
あー、こういう時はちょろいよなぁー。
暴走した時の処理はほーんとめんどくさいけど。
「そうと決まれば、ていかたちも集めないと! 柾、時間がないわ! さっさと行くわよ!」
「はいはーい」
そうして、幼馴染1号機れんげを回収した俺たちは、次の回収人を探しにお花畑を去った。
★★★★★★★★
明日も更新します!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます