第3話 盗賊どもは修学旅行で買った木刀で十分です

 俺は王国の王女マーガレット姫さんと一緒に散らばってしまったあいつらを探すことにした。アイツらにもそれなりに能力があるのなら、一応召集しておきたい。ちゃんと仕事をしてくれるかどうかは置いておいて。


「マサキ様。一体どうやって見つけるというのですか? 追跡魔法とかは使用できませんよ」

「そこは大丈夫だ」


 心配そうな顔を浮かべる姫さんに対し、俺は迷いなく進んでいく。王城のあの召喚された部屋では東西南北それぞれに道があった。


 俺は南の道を出ていったが、他のやつらは他の出口へ全力ダッシュしていた。記憶が正しければ、れんげは西に走っていったはずだ。


 俺は姫さんと近衛騎士たちとともに、王城を出て西の街へを向かっていた。途中まで馬車で向かい、城下町から離れた西の町に止まった。


「おばちゃん、この姫さんがここにある商品全部買うってよ」

「えっ、私そんなこと一言も…………」


 そして、大通りで果物を売っていたおばちゃんに声をかけた。俺が適当なことを言うと、目を細める姫さん。


 別にふざけてるわけではないぜ、姫さんよ。これもれんげを見つけるために必要なことなんだよ。


「ほんとうかい! にいちゃん!」

「ああ。ところでお姉さん」

「お姉さんなんて、まぁ」

「お姉さんに決まってるだろ。綺麗なんだから」

「あはは、にいちゃん、あたしらをたぶらかすのがうまいね。それでなんだい? その様子だと聞きたいことをあるんだろう?」

「ああ、さっきこの通りを『妖精さんがぁ――――!!』って叫んでる金髪女子見かけなかった?」

「ああ、その子なら40分前ぐらいにここを通ったね」

「どっちに行った?」

「西だったよ。知り合いかい?」

「ああ、腐れ縁だ。ありがとう、お姉さん」

「こちらこそまいどあり~」


 ジト目で頬を膨らませる姫さん。その姿もかわいらしいが、姉さんの笑顔とは月と鼈。悪いな、姫さん。決してブサイクとは思っていないが、姉さんと比べるとどうしても………な?

 

「マサキ様、さっきのなんですか?」

「俺なりの交渉術だけど?」

「……………」

「なぜ黙る?」

「そんなことはできないと思っていましたので」

「変人4人の面倒を見てるんだぞ。このくらいできないと問題が乱立する」


 ていかのヤクザ壊滅寸前事件の時は本当に苦労したんだから………。


「マサキ様も大概変人ですが………ところで、マサキ様。さっき商品全部買う必要ありました?」

「全部買っておいた方がおばさんもすんなり話してくれるだろ? 嘘とかつかれたら面倒だしな………なに、姫さん。そんな俺を睨んで……この国は結構な財政難なんなのか」

「別にお金には困っていませんが………」

「ならいいだろ。食べきれない分は俺が使うから」


 元の世界では見たことのない食材があったし、持って帰って調理とかしてみたい。姉さんが喜んでくれるかもしれない。


「あの、勝った次いでに教えてほしいんだけど、雄叫びをあげて、全力ダッシュしている女の子見なかったか?」


 さらに俺たちは別の人へと聞き込みを行う。


「なんでまた買わないといけないんですか………」


 もちろん、姫さんには商品を買ってもらって………次に聞いたのは肉を売っていたスキンヘッドの褐色お兄さん。見た目からするに30代ぐらいだろう。


 お肉は意外にも衛生的で氷の中に保存されていた。氷がガラス代わりとなり、透き通った氷を通して肉の状態を確かめられた。


「ああ、いたぜ。金髪のじょーちゃんがヤバい目をして、森に走っていったぜ? あの子クスリでもやったのか? あの目は確実にハイになってた」

「マジですか」

「ああ、大マジだ。あんたら、見るからにあのじょーちゃん捕まえに来たんだろ? さぁ、生きな。さっさと捕まえてあげた方がいいぜ。あのままだとどっかに落っこちて死んじまう」

「………………お、教えてくれてありがとう。助かったぜ」

「こちらこそ! 姫さんまいどあり~」


 ナンテコッタ。

 れんげ、薬中扱いされてる。

 激ヤバ女子高校生じゃないか。


 あいつはクスリなんて飲んでいないだろうが…………そんなにヤバい目をしていたのか。早く見つけないとな。


「金髪の女の子というのは……」

「ああ、確実にれんげだ。アイツ以外にいない」


 そうして、おっちゃんに教えられた通り、西の森を進んでいくと。


「え! このかんむり、私にくれるの!?」


 色とりどりの花が咲く花畑中央にいた少女。手のひらよりも小さな妖精たちに囲まれ、花冠を被り笑う1人の彼女。眩しいほどの太陽の光に照らされたその姿は神々しく、思わず絵を描きだしたくなるほど美しい。


「わぁ…………」

「綺麗だ………」


 姫さんや兵士たちみんなが少女に見惚れていた。

 だが、俺は――――。


「何しとんねーんッ!! お前ッ!!」


 背後から少女の頭チョップ。綺麗に決まった。


「いったぁ――!! 誰よ!! 折角妖精さんたちが私に冠くれたのに!」


 へぇ、れんげの幻覚ではなかったのか。

 妖精さんがいるのは本当だったんだな。


 れんげの周りで、蝶のような羽を羽ばたかせながらクルクルと飛んでいる妖精たち。彼女たちはぷくーと頬を膨らませていた。俺に怒っているのだろうか?


「………って、柾じゃない? あと何で関西弁?」

「…………関西弁はテンションが上がって………じゃなかった。お前はこんなところで一体何をしてたんだよ」

「ん? 何をしてるって、そりゃあ異世界に来たのよ? 妖精に会いに来てたに決まってるじゃない?」


 あたかもその考えが当然かのように話すれんげさん。疑問を浮かべるな。これ以上ツッコむな。堪えろ、俺。


 すると、姫さんがれんげに近づいた。


「レンゲ様、とてつもない魔力をお持ちですね………どおりで妖精たちに好かれるはずです」

「魔力? コイツが?」


 そうは見えないけど…………。


 姫さんは俺の問いにコクリと頷く。


「ええ、トップの魔術師以上に魔力をお持ちですよ。やはり、レンゲ様は聖女様でしたか」

「聖女? アタシが?」

「はい。この神聖力に魔力、妖精たちがこんなにもあなたを好いているのです。聖女に間違いありません」

「ほんとぉっ!?」


 聖女と呼ばれ嬉しくなったのか、れんげは瞳をキラキラと輝かせ、姫さんに詰め寄る。


 ………………あーあ、姫さんよ。こいつに調子に乗るような事言わんといてくれ。暴走が怖いから。


 その瞬間、地面に影が現れる。小さな影だったが、次第に大きくなり、増えていく。


「ひゃっほー! 姫についていてよかったぜぇっ――――」


 見上げると、いかつい男どもが空か振ってきていた。男どもがドスンと地面を揺らして着地。


「きゃっ」


 そして、れんげを捕え、彼女の首にナイフを突きつけていた。


 ………………なんか分かりやすい展開だな。


「聖女を返してほしくば、金を出せ! 王女様よぉ!」

「そうだ! 金を出せば、解放してやる!」


 何と典型的な…………やられるフラグ立ちまくりじゃないか。

 この展開は姫さんがゴリラになって戦うか、それともれんげが背負い投げ一本決めるか…………。


 と俺は遠目から観客として見学しようとしていたのだが………。


「はい! 柾! 木刀よ!」


 どこから出してきたのかれんげが俺に一本の木刀を投げてきた。鞘には見事な字で「日景」と彫ってある。どこで買ってきたんだよ、こんなもの。


「てめぇ、捕虜の分際で何してるんだ! 切られてぇのかっ!」

「うるさい! モブのあんたたちは黙って! アタシは今柾と話しているんだから!」

「て、てめぇ!」

「うるさい! モブ!! アタシが主人公なのよ! おだまり!!」

「ぐ、ぐぬぬぅ………………」


 れんげに説教され、途端に黙る盗賊たち。


 おい、そこは黙るなよ。

 お前ら、盗賊だろ。

 もっと偉そうにしろよ。 


 相手は脳に異常がないか病院に行かしたいほど心配な脳内お花畑女子だぞ。


「柾! それは中学の時の修学旅行で買った木刀よ! 安心して! そう簡単には壊れないから! 強力な魔力込めたから、モーゼの真似事をしても大丈夫よ! 買っておいてよかったわ!」 

「買っておいてよかったじゃねぇわ!」


 木刀でガチ武器持つ盗賊と戦えるかっつーの!


「木刀を取り出せたのなら、お前が戦えばいいだろうが………」


 魔力はトップ魔術師様レベルなんだろ。チート能力持ってんだろ? 大丈夫だ、お前なら主人公を張れる。


「何言ってるの! 柾! ここは聖女のアタシを助ける勇者の展開でしょっ! ちょっとは空気を読んでよ!」


 ………………。

 勇者が聖女を助ける?

 ああーん? 

 どこの誰が聖女だって?


「このロマンチストがァ――――ッ!! 俺はお前が聖女なんぞ認めないッ――――!! ヒロインとも認めぬ――――ッ!!」

「なんですって!!」

「ヒロインは姉さんただ1人! この木刀でお前の頭しばいてやる――――ッ!!」


 日頃の鬱憤も込めて、かちわってやるっ!

 

 俺はふざけたことを抜かす幼馴染1号機れんげに向かって、木刀を握り締め走り出した。





 ★★★★★★★★


 今日はもう1話更新します!

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