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「そっか……だから、君は逃げ出したんだね」
僕はやっと真実にたどり着く。
どうして彼が、現場にも家にもいなかったのか。自分の置かれた状況に戸惑って、そこから離れたのかと思っていたが違ったのだ。
「怖かったんだね。君は親の姿を見るのが」
「別にそんなんじゃねぇよ」
彼は椅子から立ち上がり、僕に向かって怒鳴りつけてくる。見下ろす彼の目に、怒気と困惑が混じっていた。
「君の親が何度も頭を下げたのは、何でだと思う?」
僕は彼を見上げて問う。彼は黙ったまま、僕を睥睨していた。
「それは君の責任は親の責任でもあるって、きちんと分かっているからなんだよ。どうでもいい、好きにすれば良い、そう思うなら、放っておいたっていいはずだ。でも、君の犯した失態にきちんと対応していたんだろう? だからこそ、君も後ろめたい気持ちがあったんだ」
「親なんだから当たり前だろう」
「当たり前じゃないから言ってるんだよ。僕はそういう子をたくさん見てきた。親から育児放棄されたり、暴行されて命を落とした子達をね」
そんな子供達を僕は見つけては、弔ってきたのだ。今でも思い出すだけで、痛ましさを感じてしまう。
「ご両親は君にちゃんと向き合ってきたんだ。だから今度は、君が親と向き合う番だと思う」
最後なんだからさと付け足すと、彼は唇を強く噛んだ。
それから僕の隣にどさりと腰掛ける。
「お前は……俺のこと、最後まで見ててくれるのか?」
「もちろんだよ。僕の本業は葬儀屋だからね」
目的地への駅名がアナウンスされる。都内とは違い、男性の間延びしたような声が車内を満たした。
駅から徒歩三十分。本来であれば車で行くところだが、彼は心の準備をしたいのか徒歩を希望した。
僕は懐中時計を確認し、残りが四十分三十五秒だったことで了承した。
終始無言だった彼は、躊躇しているわりには足取りは速い。僕はハンカチで額から流れる汗を拭きながら、彼の隣を歩いていた。なんといっても、僕の服装は喪服だ。夏場でもきちんと、上着を羽織らなければならない状態だった。
広い駐車場と、葬儀場が見えたことで僕は汗で湿った指先でネクタイを引き締めた。
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