第3話
フィロソフィア・マシ―ナを壊したくなったので工場の壁ごと包丁で殴り殺した。二人暮らしに潮時を感じていた頃合い、近所付き合いも程々に彼女としか語り合うことは無かった訳だが、その関係ももうお終い。人間と違って余計なことを話さないから、皆は愛想が悪いと言うけれどやがて機械的な生活に終着し、まともな倫理観を抱えていたのは終末一色だけとなった。繰り返すバグが唯一の芸術、私はそれを認知するだけで満足に足りてしまうのであった。今日も彼女の為にとびっきり美味しい朝食を作る。機械音痴である彼女が目玉焼きすら作れないのだ。この先どうなるかなんて考えるまでもない。さあ、そろそろ起こそう。
いつものように扉を開けた瞬間、視界いっぱいに広がる赤い液体が飛び散る。それはきっと終末の色に違いない。だってこんなにも鮮やかだもの。
終末色に染まった世界で吐き気がやってくる。朝起きてすぐに感じる違和感。何かが違う、何だろう?分からない、でもおかしいんだ。昨日までとは違う世界は灰色で色彩が失われていた。それなのに、今日だけは違う。まるで絵具をぶち撒けたようなカラフルさだった。そんなことを考えているうちに彼女はやってきた。私はおはようと言いながら、挨拶をする。いつも通りだ。
しかし異変はすぐに起こった。ドゴォン!突然大きな音がした方へ振り向くそこには窓が割れており壁には巨大な穴が出来上がっていた。そしてそこに居たのは、人型のロボットらしきものが立っていた。
一体何を考えているのか分からない、しかしその見た目は明らかに普通ではない明らかに異常な物だというのは見て分かった。次の瞬間にはロボットはその手にある銃のような武器を構え発砲していた。弾丸は私の横を通過し後ろにあったベッドへと直撃した。弾かれたようにベッドが吹き飛ぶ。
思わず腰が抜け尻餅をつく、恐怖という感情が一気に襲いかかり震えが止まらない。怖い……誰か助けて欲しい……逃げたい、死にたくない……!その時頭に浮かんできた言葉はそれだけだった。気づけば体は勝手に動いていた。玄関のドアを開け一目散に逃げ出そうとしたが、外を見た瞬間、絶望という言葉しか浮かんでこなかった。
外に広がっていたのはこの世の終わりを思わせるかのような景色が広がっていたのだ。見渡す限り死体だらけだった。どこを見てもその光景が広がっているのだ。地獄とはまさにこういうことを言うのだろうか。私はただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
そんな中再びロボットがこちらに向かってくる。今度は私に向けて銃弾を放ってきた。私は咄嵯に身を屈める。その直後すぐ目の前を銃弾が通過していった。
一瞬にして死を覚悟してしまった。今更後悔しても遅いがもっと早く外に出ていれば良かった。どうして今まであの子と一緒に暮らしていたんだろうか?そもそも何故私が殺されなければならない?意味がわからない理解できない、私はこれから死ぬ運命なのか?そんな事を考えながら伏せたまま動くことが出来なかった。ゆっくりと顔を上げるとその時には既に目前に迫っていたロボットは腕を振り上げていた。
(ああ……これが死というものか)
私は自分の最期を感じ取った。
バキィッ!!! その鈍い音と共に衝撃が走る。殴られたのだと認識するまで少し時間がかかった。痛覚などとうに無くなっていたはずなのに今は頭が割れそうな程の痛みを感じた。そのまま地面を転がり建物に衝突しようやく止まった。何が起こったか分からなかったがとにかく逃げるしかなかった。立ち上がり必死に走った。だが足が思うように動かない鉛のように重い。
もうダメだと思ったその時奇跡が起きた。瓦礫の中に道があったのだ。私は一心不乱にそこへと走り抜けた。息が切れても足を引きずりながらもそこへ向かっていった。やっと辿り着いたそこは行き止まりだったがそれでも構わなかった。ただ生きる為なら何でも良いと思っていたからだ。
そしてついに私は見つけた。あの子は建物の影に隠れるように倒れ込んでいた。血溜まりの中でピクリとも動いていないその姿を目にして初めて実感した。この人は死んだのだという事を。
すると突然私の体が宙に浮かぶ。ロボットが持ち上げているようだ。このまま殺されるのだろうか?嫌だ死にたくないまだ生きていたい…………あれ?なんでそう思ったんだろう……こんな所で死んでたまるかって思ってる自分がいる……あぁなんだそういうことだったのか……私は…… 私は生きたいんだ……!だから絶対に生きてやる。その瞬間ロボットの腕から何かが飛び出たと思うと同時に激痛が襲ってきた。それはまるで神経に直接電気を流し込まれているようだった。
意識を失いそうになる中最後に見たものは赤黒く染まったロボットの姿だった。
目が覚めたら病院にいた。何が何やら分からない状況だったが医者の話によるとどうやら私は事故に巻き込まれて記憶喪失になったらしい。そして隣にいる少女のことは何も覚えていないと言われた。正直どうでもよかった。それよりも生きていられる事が嬉しかった。
退院した後は両親の勧めで家で暮らすことになった。何も思い出せない私にとっては好都合だった。何せここは安全なのだ。それにこの家はお金があるようで生活には困らなかった。むしろ贅沢な暮らしをしていたのではと思ってしまう程だ。
そんな生活をしばらく続けていたある日、いつも通り買い物を終えて帰ってくると家の前には警察車両や救急車が止まっていた。一体何かあったのかと思いながら扉を開ける。するとそこには真っ白な部屋で包帯でぐるぐる巻きになっている人達がいた。その中に両親がおり私は駆け寄った。
両親は涙を流しながら無事で良かったと言ってくれた。しかし何か様子がおかしい、まるで私のことを心配しているのではなく、別の何かを心配しているようなそんな気がした。何より私の姿を見てもあまり驚いていなかった。私はそこで察しがついた。恐らく私は記憶を失う前に事故を起こしていてその怪我で入院でもしていたのではないかと。そうでなければこんなにも大量の治療器具や警察の車、両親の落ち着き払った態度は説明がつかない。私はそれについて聞こうとしたがすぐに止めておいた。
その後色々話を聞いたが結局私には関係の無い話だったので聞き流していた。しかしどうしても聞いておきたいことがあった。それは私のことについてだ、今の私の年齢、家族構成、名前、そしてなぜここに来たのかを……私のことを知りたかった。知らないことが多すぎた。私は思い切って聞いてみた。どうして私の体はそんな傷だらけなんですか。一体何をしたらそうなるんですか。母は黙り込んだまま下を向いていた。父は母の様子を気にしながらも答えてくれた。どうやら私が轢かれた場所は工事現場の近くらしく、足場が崩れ落ちてきてそこにたまたま居合わせてしまったそうだ。それだけならばそこまで大した怪我ではなかったのだが問題はその先にあった。落下してきたコンクリートの塊が頭に直撃してしまい、そのまま気絶、さらに運悪く頭をぶつけた時に頭蓋骨が割れてしまい脳にまでダメージがいきその結果記憶を失ったという事だった。
つまり私は不運という事に巻き込まれただけで、ここに運ばれるまでの経緯は全て不幸な偶然の産物だったというわけだ。私にとって幸運なことはその現場に人がおらず死人も出なかったことだろう。
私自身何故生きているのか不思議でしょうがなかった。あの時間違いなく死んでいたはずだ。それがどうして今こうして生きていられているのか、全くわからないことだらけだ。だが今は生きていられることに感謝しよう、この命ある限り精一杯生を全うしたいものだ。
そういえば最近妙に視線を感じる。それも悪意のある眼差しを向けてきているように感じる。誰だろうか?まぁいい、きっと気のせいだろ。私はこれからもこの家で生きていく。どんな事があっても……たとえ世界が終わってしまったとしても…………そしていつか終わるであろうこの世界にサヨナラを言うために。
さて、そろそろ行くとするか。今日もいつものように仕事があるんだからな……そうだなとりあえず今日の晩御飯は何にしようか、冷蔵庫には何があったかな。
あーもう朝ごはんの時間じゃないか。やばい急がないと。ガチャリパタンッバタンッ。
(((キィイイ)))
ドンガラガッシャーン!!! ゴホッゲホゴッホゲッホオェエエエッフゥウうぅうぇえええっぷふっ。おはようございます皆さん、私はフィロソフィア・マシ―ナです。本日で16歳になりました。身長156cm体重40kg胸のサイズDカップスリーサイズB78W56H80髪の色は黒髪ストレートロングで腰辺りまで伸びているよ。目は二重瞼の大きな瞳で鼻筋は通っていて顔立ちも整っていると思う。肌の色も白くとても綺麗だとよく褒められるけど、自分じゃあまり分からないんだよねぇ。体つきの方だけどね、胸は大きい方ではないけれど形が良くハリもあって触り心地も良いって言われてるしウエストも細くくびれていてお尻の形もいいらしいよ。脚もすらっと長くて程よい肉付きなんだとか、そんな事を言われた事があるような気がするんだけど……。
自分で自分の容姿について説明してもあんまりピンとこないっていうかね……うん、でも客観的に見たら結構可愛いんじゃないだろうかとは思うんだけどどうなんだろうね。ただやっぱりまだ幼さが残ってる感じはあるよね。背が小さいからなのかなぁ。
それとこれは自慢になるかもしれないんだけど私って結構モテるみたいだよ。街に出てナンパされたり告白された事もあるしね。でも今のところ誰かとお付き合いするとかそういうことは考えてないの。だって今の生活を維持するだけで精いっぱいだからね。こんな生活してると色恋沙汰なんて余裕無いからねぇ。そもそも好きな人とかいないし興味もないんだよね。強いて言うなら私の家族が一番好きだよ。それこそ世界中のどの人間よりもね。
そうそうこの間変なお客さんが来たんだよね。黒いローブを着た男の人でね、いきなり家に訪ねてきて来たと思ったら開口一番、こう言ったの。「お前の命もらいに来た」って言って襲いかかってきたの。びっくりしたわ本当に驚いたもん。まさか知らない人が家の中に入ってくると思ってなかったし、しかも刃物を持ってたから危なく刺されそうになったところをお父さんに助けられたんだったね。あれには感謝しかないよ。あともう少し遅かったら死んでたかもしれないしね。それでその後は警察を呼んだりと大変だったのを覚えている。結局その男は捕まらなかったみたいだけど。また来ないと良いのだけれどもね……あぁ思い出したら寒気がしてきたぞ。
それでは今日も一日頑張ろう。まず朝ご飯を食べないといけないから下に降りるとしますか。リビングに向かう前に洗面所で顔を洗い歯磨きをして髪を櫛でといて整える。よしこれで大丈夫だろ。今日もよろしくお願いします。
((ガチャリ))キィイイ……バタァアン!!??ドアが勝手に閉まったのか勢い良く開きすぎてすごい音がなった。それに驚いて思わず転びそうになるところだったぜ。一体誰がやったんだろうか……まあ犯人の目星はついているのだが。あの野郎またやりやがったな。玄関に行き扉を開けようとすると鍵がかけられていたようだ。これじゃ出られないじゃないかまったくもう。仕方ないので窓から外に出ることにした。この家の二階は一階に比べて部屋数が少ない為広く感じるんだよねぇ。
さて窓を開けるとするかな。ここは二階だし問題ないだろうと思い手をかけると、ガシャンッという音と共に手が弾かれた。ガラスの破片が散らばっていたようで怪我してしまったではないか。何してくれるんだ全く。まあこの程度ならすぐに治るからいいんだけどさ。それよりも問題はあの馬鹿をどうにかしないとね。さてどうやって懲らしめようか。
そう考えているうちに奴が階段を降りてくる足音が聞こえてきた。どうやらこちらに向かってきているようだ。コンコンッ。誰かが部屋の戸を叩きノックをする音が聞こえる。おそらくあいつだろうと予想していたので特に驚きはしなかった。
私は黙って椅子に座りながら腕を組み、目を閉じてじっとしていた。
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