第4話 不穏
午後二時半、日差しが照り付ける中、出発して一時間が経過した。暑いし空腹だし、ちょっと休みたい。
「炎天様、ちょっと休みたいです」
「うん、わかった」
狐の耳へ顔を近づけ炎天様が
「あの木陰へ」
と言うと狐はゆっくりと減速し、大きな木陰入って止まり、しゃがんだ。翔太と炎天様は狐から降り、木の根元へ腰を下ろした。
「それにしても、認識されないなんて、どうなってるんですか?」
「認識はされてるよ、ただ、何も違和感を感じてないだけ、これが普通だと思わせているだけだよ」
「そうですか、なんだからよく分からないけど、それなら安心だ」
翔太は目を瞑って上を向き、木にもたれかかった。ミーンミンミンと鳴く蝉の声、目を閉じていても感じる木漏れ日にゆったりと流れる時間、こんなに田舎っていいものだっけ、なんだか眠くなるな……いやだめだ。なんとか目を開けるがやはり眠気が勝ちそうだ、うとうとしながら眠気と闘うが、だめだ、これから渋谷へ行かないと……頭がぼんやりして意識が落ちていく。
そしてどれくらい時間が経っただろうか、暑い日差しは雲に隠れ、涼しい風が流れている。
なんか揺れてるな、ふわふわもしてる。目を開けると白い毛の上にいた。景色も動いてるし体は揺れてる。
「ん……」
体を起こすと炎天様の背中と狐の白い毛があった。そうか、あのまま寝たのか、で、狐に乗せてくれたのか、ぼんやりとした頭のまま目を擦った。
「ああ、起きたんだね。もうすぐだから飛ばすよ、掴まってね」
「わかりました……」
しっかりと白い毛を掴み、身構えた。
「いいですよ」
「よし、行くよ!」
炎天様がそう言った瞬間、狐がグン!
と加速した。また落ちないだろうなこの人、でも落ちても大丈夫って言ってたし、まあいっか。ドドドッドドドッと狐の足が地面を蹴る音がする。風が涼しい。
しばらく走っていると狐に乗ったまま東京都内に入り、渋谷のハチ公前へ着いた。二人は狐から降り、炎天様が狐の頭を撫でながらありがとう。と言うと狐はゆっくりと消えていった。翔太は降りてすぐ周りを見渡していた。
「うわぁ……」
大きい建物ばかりだ、人も多いし見ていてワクワクする。これがテレビでよく見るハチ公かぁ、記念に写真撮っておこう。スマホをハチ公の像に向け、シャッターを押すとカシャ、という音と共に写真が保存された。
「さあ、力魂をを探そうか」
「りきこん?」
「力の塊のことだよ、まだ言ってなかったっけ?」
「聞いてないですけど」
「そうか、じゃあ覚えておいてね」
「わかりました、でもどうやって探すんですか?」
翔太が周りを見ながらそう言った。
こんな広いのにどうやって探すんだ?
そもそも自分に見えるのか?
疑問が湧いてくる。
「これを使って」
炎天様は袖から片眼鏡を取り出した。だがレンズの度数が入っていない、ただのガラスのようだが。
「なんですかこれ、レンズに度数入ってないし」
「それを通して周りを見て、何か光が見えたら教えてほしい、わたはこのまま見えるから問題ないんだ」
「なんだかダサいですね」
「いいじゃないか、力魂が見つかれば他の場所へ行くんだ、誰も気にしないさ」
「そうですね、さっさと見つけましょう!」
「よくある場所としては建物の角や人が集まる場所の近くだ、一緒に探そう」
「はい!」
さっそく度なしのレンズを使ってハチ公前を見たが、何も光るものはない、周囲をぐるりと見渡しても何もない、人が集まってるけどここにはないのか?
そもそもあったら炎天様が気づいてるか。他を探そう。
「ここにはないからあっちへ行こうか」
炎天様はデパートがあるビルを指差した。
「いいですね、楽しそうだし人もいる、これなら見つかる気がする」
二人はビルへと入るとフロアマップを見て同じ所を指差した。四階パワーストーン売り場だ。まさに力魂がありそうな場所だ。さっそくエレベーターへ乗り込み、四階のボタンを押すとドアが閉まり、上へと動いた。
「簡単に見つかりそうですね!」
「そうだね、これなら少しくらい遊ぶ時間ができる、何かやりたいことはある?」
「いっぱいあるけど、せっかくだしここでしか食べられないようなものを食べに行きたいです!」
「いいね、私も久しぶりに何か食べたい」
「えっ普段は食べないんですか?」
「食べなくても問題ないし、あまり興味がなかったから」
「そ、そうですか」
そうか、神様だから食べなくてもいいのか、食費ゼロはいいな。いや、そういう話じゃないのか。ピンポーンと音が鳴りドアが開くとちょうど目の前にはパワーストーンショップが。エレベーターを降りてショップの前まで行き、さっきの片眼鏡で見渡して見るが、小さなコーナーが故に物が密集していてわかりづらい。
「どうかな」
「炎天様は見つけました?」
「いや、なんだか色々ありすぎるしキラキラしててどれがどれだか分からない、もう少し細かく見てみよう」
「そうですね、さっさと見つけて、美味しいもの食べに行きましょう!」
翔太は店の奥の角から片眼鏡を使ってゆっくりと歩きながら見渡している。炎天様は翔太とは対角線上のコーナーへと行き、翔太に見えないようにパワーストーンを持った。翔太には見えていないのを確認するとパワーストーンに手をかざし、ボソボソ、と何かを唱えた。すると炎天様の手から光が出現し、石にくっついた。翔太の方を振り返り、こちらを見ていなかったことを確認すると炎天様は、パワーストーンを持っている手を上に上げた。
「あったよ!」
「えっ」
翔太が炎天様の方を見ると光の乗ったパワーストーンがあった。
「やった!」
「うん、これで少し時間に余裕ができたね、これを買ってきてくれないかな?」
「いいですよ、値段も千円ピッタリだし、買ってきます!」
翔太がパワーストーンをレジに持って行き、会計を済ませた。
「よかったーあったー!」
「ふふっよかったよかった、さあ、何か食べようか!」
「はい!」
「何か近くにないかな?」
「あっあそこに牛カツってありますよ、行きましょう!」
翔太が炎天様の手を引っ張って走り出した。
二人は牛カツ屋に入り席についた。
「んーいい匂い」
「本当に美味しそうな匂いがするね、私はカツって食べたことないんだけど、美味しそうだね」
「しかも牛カツだから珍しいし美味しいはずです!」
「それは楽しみだ!」
しばらくして厨房の奥からカツが運ばれてきて二人の前に置かれた。
「はい、牛カツ二つ」
「いただきます!」
翔太はよほど空腹だったのがすぐに食らいついた。
「すごいいい匂いがするよ、いただきます」
一口食べるとサクッとした衣の中からミディアムレアの牛肉から肉汁が溢れ出した。
「すごい、久しぶりだな、こんなに美味しいものを食べたのは」
そうして二人は牛カツを堪能した後、店を出た。
「いやーすごく美味かったですねー」
「そうだね、満足だよ」
「次はどこに行って力魂を集めます?」
「次は西へ行こう」
「西って言うと、関西ですか?」
「そうだよ、あっちの方にあると思うんだ、行けるかい?」
「いいですよ、行きましょう!」
「よし、決まりだ」
炎天様はまたパン!
と手を叩き、もう一度大きな狐を呼び出した。二人は狐に乗り、炎天様が
「西へ」
とだけ言うと狐は緩やかに加速した。
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