第4話 「ウィギレス」

フェンリファルト皇国・ディフェクタリーキャッスル


私、東坂慎次君、葉賀雲 影家(はがくも かげいえ)君、東堂あかねのウィギレスメンバー4人は任務を終え、皇都へと帰還した。

旧エルドルド領で横行していた非人道的な行いは、クラスメイトの後藤駿平君の指示によるものと断定。

強制捜査の末、事件は解決し初陣としての成果は果たした。だが被疑者死亡と、つらい報告をせねばならない。

皇都は今、陽宝院光樹(ようほういん みつき)君の指揮のもと、私たちが住んでいた日本のような街並みへと工事が進められている。

ディフェクタリーキャッスル内に設けられたウィギレスの司令室に入ると私たちは驚かされた。

内装は、刑事ドラマに出てくるオフィスのような仕上がりになっている。

そこではすでに、新しい仲間たちが働いていた。

彼らはすべてこの異世界の若者たち。交番のお巡りさんのような役目をしていて皇都内の治安維持に務めている。

みんな、ウィギレス専用に作られた制服を着用している。

デザインは日本の警察官をイメージした青い制服。

デスクの上には、私たちの分の制服が用意されていた。

さっそく袖を通してみる。

Yシャツのボタンをとめて、上着を羽織り、私は敬礼のポーズで制服姿を披露した。

「様になっている」と、吹き出すあかね。

馴染めないぎこちなさに照れながら、私とあかねはひさびさに笑みをこぼした。

「ど、どうだ⋯⋯」と、東坂君も顔をあかくしながら制服姿を見せてくれた。

忍者風の戦闘服が基本服の葉賀雲君も気に入った様子だ。

お揃いの制服を着るとチームの一体感が生まれる。

そして東坂君は私たちのリーダー“長官”に任命された。

そこへ「ご苦労だったね」と、陽宝院君がやってくる。

「報告書は読ませてもらったよ。この世界にやって来た時から覚悟していたとはいえ、同級生を失うというのはやはりつらいものだね」

「ごめんなさい⋯⋯」と、私は頭を下げる。

「月野木さん、気に病まないでほしい。謝るのは僕の方だ。

友であっても取り締まらないといけない、つらい仕事をお願いしているんだからね」

陽宝院君は、フェンリファルト皇国では、首相の地位にある。

詠凛(えいりん)学園の生徒会長だった彼の仕事はこの国を私たちが元いた世界のように近代化すること。

武力こそが正義のこの時代にあって法治国家の樹立を目指している。

そのために法の整備を急ピッチで進めている。

殺し殺されるのではなく、法の下で裁くという仕組みを確立したいというのが彼の願いだ。

不意なことだったとはいえ、私たちは、被疑者を死なせる失態を犯したのだ。

「気がかりなのは右条晴人君だ。ディオール⋯⋯この世界に伝わる神の名だ。何を持って神と称するのか」

「いずれにせよ後藤を殺したのはハルトだ。取っ捕まえて話は聞く」

「女王陛下の治世を乱すことを考えていないといいんだが⋯⋯」

女王陛下とは、この異世界で私たちがはじめて出会った少女。ニュアル・ウルム・ガルシャードのこと。

私たちより幼い10歳の彼女を、私たちの王としたのだ。


***

謁見の間

ニュアルはひざまづく陽宝院と鷲御門 凌凱(わしみかど りょうが)を前にして、玉座に鎮座している。

彼女の傍には常に摂政のギール・アウルスが立っている。

ニュアルが生まれたばかりの頃から仕えているという50を過ぎた紳士。


***

女王陛下は、フェンリファルト皇国の建国に際して、私たちがやってきた世界のようにしてほしいと、陽宝院君に国の内政を任せ、

ジェネラルの地位にある鷲御門君には、外敵を退け、各地で起きている戦乱を武力を持って鎮めよと、双方に勅( みことのり)を授けたのだ。

このとき以来、陽宝院君と鷲御門君のやり方に隔たりが生まれた。

鷲御門君たちの軍勢は国内外問わず、その勢力を広げている。一方で、後藤君のように傍若無人な振る舞いをする仲間が目立ってきている。

陽宝院君はウィギレスに捜査権を与えることで傍若無人な振る舞いをみせる鷲御門派の仲間を牽制しようという狙いがある。

そもそも私たち2年B組を2分するような勅命が下りたのは、力で上回る2年B組が、女王陛下の権威脅かさないようにと、陽宝院君と鷲御門君の力関係を拮抗させることで

私たちを一枚岩にさせまいとするギールさんの意思が働いている。


***

「戻ってきたばかりで申し訳けないが、君たちに新しい任務がある」

「任せてくれ」と、東坂君が即答する。

「トゥワリス国の内乱で、近隣の領国に物資が入らないような状況が続いていた。

最近になって、その物資が入ってくるようになったんだが、今度は異様なまでに価格が高騰しているという噂だ。そのことを調査してきてくれないか?」

「はい!」と、私たちは敬礼で答える。

さっそく現地へ向かおうとする私に、陽宝院君が「これは護身用だ。持っていてくれ」と、ピストルを手渡してきた。

「ようやく開発に成功した」

パラメーターがあるのなら、私のステータスは攻撃力、防御力はゼロ。HPに全フリだ。

他にあるのは自己修復能力が高いくらいだ。

陽宝院君は、私を心配してのことだろう。

以前も、私が戦闘に巻き込まれることの無い、城内で働ける仕事を用意してくれていたが、私のワガママで断った。

ピストルはちょっと気がひけるが今回ばかりはいただこう。


***

街道を進む、荷馬車の一団。

そこに飛んできた砲弾が着弾。

あたりが火の海に包まれる。

警護の男たちが剣を手に取り、警戒しながら「急いで物資を救い出せ」と仲間たちに指示している。

そこへメイスを振り上げたクライム・ディオールが襲いかかってくる。

重たいはずのメイスを軽々と振り回して瞬く間に警護の男たちを薙ぎ払うクライム。

炎を背に立ち上がるクライムの姿に、荷馬車の一行たちは「悪魔だ!」と、叫びながら物資を置いて散りじりに逃げて行く。

「クライム見てくれ!」と、ライルが物資の入った箱を指し示す。

「なんだこのマーク⋯⋯分かるかクライム?」

クライムの目にはそのマークが日本の家紋のように見てとれた。


つづく


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