第30話 テストと結果
ある日、理科の授業の終り際に担任の先生が次回の授業はテストを行なうということを告げた。
それを聞いた時の僕はついに最近の勉強法の成果が試せると思い、密かにほくそ笑んだ。
一日のすべての授業を終えて家に帰った僕はさっそくテスト勉強をするため自室の机に向かう。
セルフにはしばらくテスト勉強をするからひとりにしてくれと告げてあるので今日は僕の部屋にやってこないだろう。
テスト勉強が終わればセルフと遊ぼうと決めて、僕はまず理科の教科書を引っ張りだす。
確か最初に教科書の音読をするのが効果的だとセルフが言っていたのを思い出し、僕はテスト範囲の音読を始める。
漠然と音読せず、内容を覚えようと意識してゆっくりと丁寧に音読をした。
テスト範囲をすべて音読し終えたら最初に戻って再び音読を始めるという作業を繰り返し、結局3度テスト範囲を音読した。
ウォーミングアップはこれくらいにして次は問題集を解きながら内容を覚える作業に入る。
解答は問題集に直接書き込むのではなく別の紙に書いて何度も問題を解けるようにする。
ひとまずテスト範囲の問題をすべて解き、それから採点すると正答率は80%程だった。
今回のテストの目標点数は一応100点に設定してあるので、正答率80%では話にならない。
まずは問題集のテスト範囲は完全に解けるようにするため繰り返し問題集を解き始める。
途中で答えがわからない問題が出たり、最後まで解いた後に採点して1問でも間違えたら最初から解きなおす。
というセルフに教わったルールは非常に緊張感があり、確実に答えを憶えようという気にさせられる。
とはいえモチベーションが上がっても記憶力が上昇するわけではなく、何度も繰り返し解くことでしか内容を憶えることは出来ない。
さっきは解けたはずの問題で詰まったり、さっきも解けなかった問題で再び詰まったり、そういうことを繰り返し少しづつ先の問題まで到達できるようになっていく。
そしてテスト範囲をすべて完璧に解けるまで10回以上のリスタートを繰り返してやっとたどり着くことが出来た。
これで問題集の内容は完璧になったがまだ終わりではない。
問題集には出てないけれど、テストには出るかもしれないものが残されているからだ。
それも網羅しなければ目標の100点満点には届かないだろう。
その点については教科書をよく読み、問題集に出ていない太字などを探す必要がある。
僕は再び教科書を熟読し、該当する内容をリストアップして、その言葉が答えとなる問題を自分で作り上げていく。
すべての問題作成が終ると、授業で取ったノートも確認して他にテストに出そうな内容があるか確認する。
怪しい部分はテストに出ると判断し、問題作成を行なう。
教科書とノートからすべての大事な部分を抜き出して問題を作り終えたら、問題集を解いた要領で自作の問題を解いていく。
再びリスタートを繰り返し、問題の答えを頭にすべて叩き込んだら、僕は満足感に包まれた。
これだけ勉強したら満点が取れても不思議ではないし、手ごたえを感じる。
後は当日まで憶えた内容を忘れないよう適度に復習すれば良いだろう。
☆
理科のテストの当日が来た。
僕は朝からテストを受けるのが楽しみだった。
自分の中で精一杯勉強してテスト範囲の内容を記憶したという実感があり、早く受けたいと思う。
ここまで自信があるのはいまだかつてなく、僕は気分良く学校に登校し自席に腰を下ろす。
目的の理科の授業は今日の一時間目なので、もうしばらくの辛抱だ。
教室内を見回すと坂本くんが既に来ており、教科書を読んで最後の追い込みをしている。
僕は坂本くんの席まで向かい話しかけた。
「おはよう、坂本くん」
「おはよう、大場くん」
「今日理科のテストだね。坂本くんは今回のテスト自信ある?」
「まずまずだよ。僕は大場くんほど勉強が得意じゃないからね。80点くらいを目標にしているよ。大場くんの方はどうなの?」
「僕、今回は凄く自信あるんだ。セルフに教わった勉強法を取り入れたの」
「そうなんだ。もし結果が良かったら今度僕にもその勉強法を教えてよ」
「うん。いいよ。僕の結果が良かったら楽しみにしてて」
あまり勉強の邪魔をしてはいけないので、僕はそれだけ言うと自席に戻った。
僕も最後の復習をして時間を過ごそうと思い、問題集や自作の問題に目を通す。
担任の先生が来て朝の会が始まるまで、僕は復習を続けた。
朝の会が始まると問題集を片付けて、先生が話す内容を上の空で聞いて朝の会が終るのを待つ。
朝の会が終わると1時間目の授業が始まるまでの時間を使い、最後の追い込みとして教科書を熟読した。
そしてついに1時間目の授業のチャイムが鳴り響き、担任の先生が再び教室に入ってくる。
学級委員長の号令で皆が立ち上がり礼をして着席すると、先生が告げた。
「今日は以前言ったようにテストをするぞ」
先生がテスト用紙を配り始め、皆に用紙が行き渡ると、開始の合図とともに解き始めた。
一問一問、間違わないように丁寧に解いていき、解答を書き込んでいく。
解けない問題が出てこないよう祈る気持ちで順調に解き進めると、最後の問題まですべて解答することが出来た。
しかしまだ気を抜くわけにはいかない。僕は時間が許す限り、最初の問題から最後まで何度も見直しをして、ミスがないことを確認していく。
3度目の見直しをしている最中にテスト時間が終り、テスト用紙の回収となった。
☆
後日、次の理科の授業で担任の先生が採点済みのテスト用紙の束を持って教室内に入ってきた。
授業が始まると早速テスト用紙が返却され始め、名前の五十音順に児童が取りに行く。
僕の名前は「お」で始まるのでかなり早い段階で順番が回ってきた。
教卓の前に向かい担任の先生からテスト用紙を受け取ると、すぐに点数を確認した。
結果は100点満点だ。
僕は嬉しくなり「やった」と感嘆の声を漏らして自席に戻る。
100点満点を取るのはいつ以来だろうと考えて、多分1年近く取ってないと気付いた。
これもセルフが良い勉強法を教えてくれたからで、セルフには家に帰って感謝を述べつつ自慢してやろうと考えた。
理科の授業が終わり休み時間になると、坂本くんと田中くんにもテストで満点を取ったことを自慢した。
ふたりとも凄いと言ってくれて僕は満足感に満たされた。
1日の授業が終わり放課後がやってきた。
僕は母やセルフにテスト結果を早く報告したいので、さっさと帰り支度をしてその日は家に帰った。
家の廊下で「お帰りなさいませ、坊ちゃん」といつものようにセルフにお出迎えされたので、僕はセルフに話しかけた。
「ただいまセルフ。今日、こないだ受けた理科のテストが返ってきたんだ」
「結果はどうでしたか」
「ちょっと待ってね。今、見せたげるよ」
僕はランドセルを下ろし、中から答案用紙を取り出して、セルフに見えるように掲げた。
「じゃーん、テストの結果は100点満点でした」
「おめでとうございます、坊ちゃん」
「セルフが勉強法を教えてくれたおかげだよ。ありがとうセルフ」
「坊ちゃんが頑張ったからです。その答案用紙を奥様にも、見せてあげましょう」
「そうだね。お母さんは今どこにいるの?」
「居間にいらっしゃいます」
「じゃあ見せに行こう」
僕は廊下を歩き居間に入ると母がテーブルの前に座りテレビを見ていた。
「おかえりなさい、聡」
「ただいま、お母さん。今日、こないだ受けた理科のテストが返ってきたんだ」
「そうなの? 結果はどうだったのかしら」
「結果はこれだよ」
僕は母によく見えるように答案用紙を掲げて、それから満面の笑みで母に告げる。
「100点満点だよ」
「凄いじゃない聡」
母は嬉しそうに微笑みながら告げて、僕が恭しく差し出した答案用紙を受け取る。
母が答案用紙に目を走らせると満足そうに何度も頷いてから僕に答案用紙を返した。
「沢山勉強したのね。聡はやれば出来る子なんだから、これからも頑張ってね」
「うん。頑張るよ、僕。これからも沢山100点満点を取って来るよ」
「それは頼もしいわね」
「まかせてよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます