第26話 友達作り2
1時間目の授業が終わり休憩時間がやって来ると、僕は再び田中くんの席まで向かう。
今度は友達になりたいという意思表示を忘れないよう最初にしておこうと思い、2時間目の授業の準備をしている田中くんに声をかけた。
「田中くん、ちょっといいかな」
「うん。いいよ」
「朝に言い忘れてたんだけど、僕、今、新しい友達を探してるんだ。それで良かったらなんだけど、田中くん僕と友達になってくれないかな。田中くんとなら本好き同士楽しくお話できると思うんだ」
最後の言葉は期待と願望が混ざりあった僕の素直な気持ちであり、朝の短い会話で感じたことでもある。
セリフの言う通り共通点を持つ者同士なら会話も弾みやすいと僕は実感できた。
それに田中くんの人柄というか実際に話してみた時の印象が悪くなかった。
普段話さない僕が突然話しかけても邪険に扱わず、普通に感じよく対応してくれた。
僕にとってはそれだけでも嬉しい出来事で、田中くんに対して好印象を抱いてしまう。
僕の勇気を持って告げた友達になりたいという意思表示を受けた田中くんは、少し考えて「いいよ」と答えた。
「ほんとに? 友達になってくれるの?」
僕はこんな簡単に友達が出来ると思っていなかったので、もう一度確認してしまう。
「うん。友達になってもいいよ」
田中くんがもう一度はっきり言って、それを聞いた僕は嬉しくなる。
「やったー」
僕が喜んでいると、田中くんは少し苦笑して「大げさだなあ」と告げた。
「だって僕、小学生に入って今までひとりしか友達がいなかったんだもん」
「坂本くんのことだね」
「うん。坂本くんと友達になる前はずっとひとりだったんだ僕」
「それは寂しいね。僕も友達が多い方じゃないから少しわかるよ」
「そうなんだ。友達が少なかったりいないと辛いこともあるよね」
僕の言葉に田中くんは、うんうん、頷きながら告げる。
「学校行事で組み分けの時に相手が見つからなかったり」
「そうそう」
僕らには友達が少ないという共通点もあったみたいで、妙な話で盛り上がる。
「大場くんが友達になってくれて僕も嬉しいよ。実はいうと、僕まだこのクラス内に友達がいなかったんだ」
「え、そうなの? 坂本くんと話したりしないの?」
僕の中で坂本くんはクラスのみんなと友達になっている印象だったので驚いた。
そもそも僕に田中くんのことを薦めてくれたのは坂本くんなんだけど。
「坂本くんとは今年初めて同じクラスになったんだ。新学年が始まってまだ1か月くらいしか経ってないから、話はたまにするけどまだ友達とは言えないんじゃないかな。僕の印象ではクラスメイトだよ」
「そうなんだ」
「だから大場くんはこのクラスで最初の友達だよ」
「そう言われるとなんか嬉しいな」
「喜んでもらえて僕も嬉しいよ。これからよろしくね大場くん」
「こちらこそよろしくね、田中くん」
それから僕はちらりと時計に目をやり、休み時間がまだ5分ほど残っていることを確認した。
とりあえず田中くんの方は友達になれたので話はひとまず終らせて、今度は山田くんの方に話しに行こうと考える。
まずはそのことを田中くんに告げておこう。
「実は友達候補がもう一人いるから、少しそっちと話してきていいかな」
「かまわないけど。友達候補ってだれ?」
「山田くんだよ。ゲームが好きなんだって」
僕が山田くんの名前を挙げると、なぜか田中くんが少し微妙な表情を浮かべた。
「あー、山田くんか」
僕は田中くんの表情が気になって、何か問題があるのかと不安になる。
もしかして田中くんはあまり山田くんのことを快く思っていないのかもしれない。
そう思うとますます不安になってきて、僕は周囲にあまり聞こえないように声を潜めて田中くんに尋ねた。
「何か問題があるの?」
田中くんも僕のように声を潜めて、返答をする。
「山田くんはあまりいい人柄ではないよ。自分より弱そうな人に対しては偉そうに振舞うんだ」
弱そうな人、と言われ僕は自分の細腕に視線を向ける。
どうみても強そうには見えないので確実に、弱そうな人、のカテゴリに入れられるだろう。
「そんなに偉そうなの?」
「感じ方は人それぞれだから、あまり気にしない人もいるかもだけど、僕は偉そうに感じるよ」
「そうなんだ」
「でも僕がそう思うだけかもしれないから、一度話をしてみたらいいんじゃない。実際に話をしてみないとわからないこともあるだろうし」
田中くんにそう提案されて、僕は頷く。
「それもそうだね。不安もあるけど、僕ちょっと勇気を出して行ってくるよ」
「頑張ってね」
僕は田中くんに見送られ、山田くんの席まで向かった。
山田くんの席は窓際の席で、山田くんはグラウンドに目を向けていて僕が近づいても気付かないようだった。
「あの山田くん、ちょっといいかな」
僕の言葉に山田くんはこちらを振り向き、不機嫌そうな表情で僕の顔を見た。
「何?」
山田くんの表情に僕は少し威圧されるが、何とか勇気を振り絞って次の言葉を告げた。
「山田くん、ゲーム好きだって聞いたんだけど本当?」
「誰に聞いたの?」
「坂本くんだよ」
「ふーん」
山田くんが沈黙して僕のことを見ているが、まだ僕の質問の答えを聞かせてもらっていない。
もしかして坂本くんの情報が間違っていたのかと不安になり、僕は徐々に焦り始める。
「あの、ゲーム好きだって聞いたんだけど、間違ってたのかな。間違ってたらゴメンね」
僕は何とか山田くんとコミュニケーションを取ろうと思い、そう声をかけた。
「ゲームは好きだよ」
とても面倒くさそうではあったけれど、今度は山田くんの返事を聞くことが出来た。
「やっぱりそうなんだ。実は僕もゲームが好きなんだけど、良かったら少しゲームのことについて話さない?」
「やだね」
僕は一瞬何を言われたのか分からなくて固まってしまい、その後会話を拒否されたのだと気付いた。
偉そうというより、気難しそうな人だなと感じて僕は動揺する。
これ以上話しても仕方がないと思ったので僕は撤退を決意した。
「そ、そう。なんか急に話しかけてゴメンね。僕は自席に戻るよ」
僕が告げた時、山田くんはもう顔を窓の外へと向けていて、僕には関心がないようだった。
当然返事も帰らってこず、僕が山田くんの席を離れても微動だにしなかった。
自席に戻った僕は一度深呼吸をして心を落ち着けてから、先ほどの出来事を振り返る。
僕が話しかけた時、最初から山田くんの態度に親しみが無かったけれど僕はあまりよく思われていないのかもしれない。
話をすることを、やだね、と言われたわけだが、山田くんにとって僕は話をする価値がない人という認識なのだろうか。
とりあえず言えることは、あの様子じゃ友達にはなれそうにないということだ。
でも田中くんと友達になれたので良しとするべきだろう。
山田くんにも誰を友達にするか選ぶ権利があるので、僕がお眼鏡に叶わなかっただけかもしれない。
僕は田中くんと友達になれたことに満足し、2時間目の授業の準備を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます