第25話 友達作り1

 学校が終わり僕は家に帰って自室にこもり、机の椅子に座って友達を増やすにはどうすれば良いかをぼんやり考えていた。

 そんな時にセルフが僕の部屋にやってきて、いつものように気軽に話しかけてくる。

「坊ちゃん、今は何をしていますか?」

 僕はセルフにちらりと視線を移し、ぼんやりした頭でどう答えようか考えて、それから素直に答えた。

「僕は今、どうすれば友達が出来るのかを考えていたんだ」

「友達ですか。以前来ていた坂本様が、いるのではないのですか?」

「坂本くんは僕の唯一の友達だけど、出来ればもう少し友達が欲しいんだ」

「なるほど。理解しました。それで悩んでいるわけですね」

「うん」

「そういう時は、セルフの知識におまかせください」


 当たり前のように告げたセルフの言葉に僕は驚き、そして期待が高まる。

「何かいいアイデアがあるの?」

「いいアイデアかどうかはわかりませんが、一般的な友達を作る方法なら少しわかります」

「どうすればいいの?」

「一番いいのは自分から積極的に、何度も話しかけることでしょう」

「気軽にそれが出来たら苦労はしないよ」

 正直、自分から話すとしても何を話せばよいのかまるでわからない。

「自分から話しかけるのは、人によっては勇気が必要ですが、友達を作るうえでは

一番効果的と言えるでしょう」


「そう言われても、何を話したらいいのかわからないんだ」

「それならまずは自分との共通点を探してみてはどうでしょうか?」

「共通点?」

「共通の趣味、共通の好きなもの、など何でも構いません。共通点が見つかれば、それについて話をすればよいのです」

「なるほど共通点か。覚えておくよ。他には何かない?」

「単純に相手を褒めてみるのはどうでしょう。褒められて嫌な気分になる人はいないです」

「とりあえず相手を褒める」


「はい。あと相手に友達になりたいと意思表示するのも、いいかもしれません」

「確かにそれもいいかも」

 相手によっては友達になりたいと伝えるだけで、友達になってくれる可能性もある。

 勇気を出して言ってみる価値のある一言かもしれない。

「相手との共通点を探して、相手を褒めて、友達になりたいと伝える」

 僕はセルフが言ったことをまとめて声に出していってみた。

 とりあえずこの三つのことを忘れないでおこうと思い、心の中でも何度も繰り返し呟いた。

「セルフはお役に立てたでしょうか」

「うん。役に立ったよ。ありがとうセルフ。セルフに言われた通り頑張ってみるね」

「頑張ってください、坊ちゃん」


  ☆


 次の日の朝、僕は4年3組に登校して自席に腰を下ろし、クラス内を見回しながら自分との共通点を探していた。

 基本的に坂本くんとしか話さない僕はクラスメイト達のことがよくわからない。

 何が好きで、どんな特徴があるとかがほとんどわからないので共通点探しは難航した。

 わかることと言えば男子のほぼ全員が昼休みに教室から姿を消し、多くの人がグラウンドでサッカーやドッジボールを楽しんでいること。

 中にはグラウンドを散歩している人もいるかもしれないが、誰か友達と一緒だろう。

 毎日、昼休みを教室で過ごしているのは女子なら何人かいるが、男子では僕ひとりだ。

 その事実を考えると僕は相当浮いていて変わっているのではと思ってしまう。

 変わり者の僕と共通点を持つ人などいるだろうかと不安になるが、本やゲームが好きな人ならさすがにいるだろうと思う。


 運動大好きの坂本くんですらゲームも好きみたいだから、探せば他にもいるだろう。

 その時ちょうど坂本くんが登校してきて自席に腰を下ろしランドセルの中身を取り出し始めた。

 僕はふと、友達作りを坂本くんに協力してもらえばいいんじゃないかと思いついた。

 坂本くんなら友達が多いしクラスメイトともよく話すので、僕が知りたい情報を持っているんじゃないか。

 僕は坂本くんが教室の後ろのロッカーにランドセルを片付けたのを見届けると、近づいて話しかけた。

「おはよう、坂本くん」

「おはよう、大場くん」

「今日はちょっと坂本くんにお願いがあるんだ」

「お願い? 何かな」


「僕、坂本くんしか友達がいないから、誰か新しく友達を作ろうと思ってるんだけど、クラスメイト達と普段話さないからみんながどんな趣味だとか、何が好きだとか全然わからないんだ。出来れば本やゲームが好きなクラスメイトを坂本くんが知ってたら教えてほしいんだ」

「本やゲームが好きなクラスメイト? それなら田中くんや山田くんがいいんじゃないかな」

「ふたりとも本とゲームが好きなの?」

「田中くんが本好きで、山田くんがゲーム好きだよ」

「なるほど。教えてくれてありがとう。少し話をしてみるよ」

「うん。頑張ってね」


 僕は一度自席に戻って椅子に座り、何と言って話しかけようか考えをまとめる。

 いきなりアドリブで話しかけて盛り上がるのは僕にはハードルが高そうなので、話す内容や聞く内容をあらかじめ決めておきたい。

 とりあえず本が好きなことと、ゲームが好きなことを、それぞれに確認しておきたい。

 万が一、坂本くんの情報が間違っていたら困るし、それに話をするきっかけとして活用したい。

 他に話すことは何だろうと考え、セルフが言っていたことを思い出す。

 まずは確か共通点について話をすればいいと言っていたので、相手の好きな本やゲームを聞いて自分のおすすめも話せばいいだろうか。


 それから次は相手を褒めればいいといっていたけれど、これは相手が話す内容によるので、褒めるチャンスを逃さないようにしよう。

 最後に友達になりたいと意思表示すればいいといっていたので、これも忘れないようにしよう。

 事前準備はこんな感じでいいだろう。

 僕は教室内を見回して田中くんと、山田くんが既に登校しているかを確認する。

 どうやらふたりとも登校していて自席で大人しくしているようで、これは話しかけるチャンスかもしれない。

 僕は何度か深呼吸をして心を落ち着けた後、勇気を振り絞ってまずは田中くんの席に向かった。


「おはよう、田中くん。ちょっといいかな」

「おはよう、大場くん。どうしたの?」

「田中くんは本が好きって坂本くんに聞いたんだけど本当?」

「うん。本は好きだよ」

「おお」

 僕は思わず感嘆の声がもれてしまい、本好きの共通点を持つクラスメイトを見つけて嬉しくなる。

「それがどうしたの?」

 あまりに喜びすぎたせいで田中くんは僕を見て、不審そうな表情を浮かべる。

 僕は田中くんの警戒を解き、安心させるつもりで思ったことを素直に口にした。


「僕も本が好きなんでちょっと嬉しくなったんだ」

「そうなんだ」

 田中くんの表情が少し和らぎ、僕に対する警戒レベルが低下する。

「ねえどんな本を読んでるの? 小説かな。漫画かな」

「僕、漫画が好きでよく読むよ。大場くんはどんな本を読むの?」

「僕は小説が多いけど漫画も読むよ。田中くんはどんなタイトルの漫画を読むの?」

 僕が具体的なタイトルを聞くと、田中くんは少年誌で連載されているいくつかの作品を挙げた。

 その中には僕も読んだことがある作品もあったので「面白いよね、あれ」と同意しておいた。

 僕の同意を得られた田中くんも嬉しそうに頷き、色々な面白かったシーンやエピソードなどを熱く語ってくれた。


 予想外に話が盛り上がり、僕は満足して話を沢山聞いていたら、褒めたり友達になりたいと意思表示をする前に、朝の会の時間がやってきてしまった。

 担任の先生が教室に入ってきてお決まりの「席につけよ」の一言で僕は我に返った。

 とりあえず自席に戻る前に田中くんに「またお話してもいいかな」とだけ聞いておく。

 田中くんも「いいよ」と快く了承してくれたので、僕はその場は退散して自席へと戻った。

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