第24話 ゴールデンウィーク明けの学校で
ゴールデンウィークが終わり再び学校が始まって、僕は4年3組のクラスに登校してきたところだ。
友達の坂本くんとお話がしたくて僕は教室内をきょろきょろ見回すが、まだ来ていないようだ。
自席に座って教室の入り口を眺めて、いつ坂本くんが来てもすぐにわかるように待機する。
そしてしばらくして坂本くんが登校してきた。
坂本くんが自席についてランドセルの中身を机の中に入れて、教室の後ろのロッカーにランドセルを片付けたのを見届けてから、僕は坂本くんに近づいて朝の挨拶をした。
「おはよう、坂本くん」
「おはよう、大場くん」
「ゴールデンウィークはどうだった?」
「とても楽しくゴールデンウィークを過ごせたよ。大場くんはどうだった?」
「僕も今年は楽しくゴールデンウィークを過ごせたよ」
「そうなんだ。去年はゴールデンウィークらしいことが何もなかったって嘆いてたけど、今年は何か楽しいことがあったんだね。まあ今年は大場くんの家にはお手伝いロボットがいるから、それで楽しかったのかな」
「うん、それもあるけど。今年は家族みんなでピクニックにも行ってきたんだ」
「そうなの? 大場くんがピクニックに行くなんてめずらしいんじゃないの」
「うん。近年はそうだね。でも僕の家も昔はよく旅行なんかに行ってたんだよ」
「へえー、そうなんだ。それは知らなかったよ」
それから僕はゴールデンウィークにあった出来事を事細かに坂本くんに語って聞かせた。
ピクニックに行った時の事や、セルフと遊んだ内容、セルフと近所の散歩に行った時の事などを話した。
去年の僕はほとんど坂本くんの話を聞くだけだったが、今年は色々なことを話せて嬉しかった。
坂本くんは嫌な顔一つせず僕の話す内容に相槌を打って聞いてくれた。
気が付くと朝の会が始まる時間まで僕は坂本くんに話し続けていた。
担任の先生が教室に入ってきて「席につけよ」と言うので、僕はしぶしぶ自席に戻っていった。
自席について冷静になってくると、少し僕の話をしすぎたかなという気持ちが湧いてくる。
坂本くんのゴールデンウィークの過ごし方も聞けばよかった。
昼休みにでも坂本くんの話を聞こうと僕は自分に言い聞かせ、担任の先生に意識を向けた。
午前の授業を真面目に受けてノートを取り話をしっかり聞いていると、気が付けば4時間目の終了のチャイムがなった。
給食の時間となり給食当番が給食を運んでくるまでの間に僕は坂本くんの席まで行って話しかけた。
「朝は僕の話ばかりしてゴメンね」
「全然構わないよ。大場くんもあんなに沢山喋ることがあるんだと思って驚きだったよ」
まるで僕が普段口数が少ないような言い草だけれど、よくよく考えれば大体合ってた。
最近はセルフとよく話をするので、自分が喋る量も以前に比べて多くなっているのかもしれない。
「今度は坂本くんの話を聞かせてよ」
「いいよ。僕、ゴールデンウィークは田舎に帰ってたんだけど」
ちなみに坂本くんの田舎は凄い山奥にあるらしく、車がないととても行けないような場所らしい。
「家のすぐ近くに川が流れてて、今年はそこで釣りばっかりしてたよ」
「釣りかぁ。僕、釣りはしたことないや」
「釣りも面白いよ。まず庭の土や畑を掘ってミミズを探すところから始まるんだ」
「それは大変そうだね。ミミズって土を掘ったら都合よく出てくるもんなの?」
「結構出てくるよ。まあうちの田舎は山の中ってこともあると思うけど」
「都会の公園とかだと出てこないのかな」
「どうだろう。掘ったことがないからわかんないや」
「ミミズを沢山取ってそれを餌にして釣りをしてたってことだね」
「そうだよ。ミミズの他にも蜂の巣を見つけたら殺虫剤を噴射して、蜂がいない間に取ってしまうんだ。蜂の幼虫が魚の餌になるから」
「えー、そんなことして蜂が怒って襲ってきたりしないの?」
「意外と大丈夫みたい。まあ蜂の種類にもよるのかもしれないけど。スズメバチはヤバいね。体もでかいし、凶暴だし、巣もでかい。スズメバチの巣に殺虫剤をかけたことはさすがにないな」
「間違えてスズメバチの巣に殺虫剤をかけてしまうことはないの?」
「巣の形もサイズも全然違うし、それに巣の周辺に蜂が大体飛んでるから間違えることはないよ」
「そうなんだ。魚の餌はそのミミズと蜂の幼虫の2種類なの?」
「もう一つ川虫があるよ。川の中の石の裏とかに隠れてるんだ」
「釣りをするのに色んな種類の餌があるんだね」
「うん。ミミズと川虫はいくらでも取れる感じだったから、今年のゴールデンウィークはずっと釣りをしてたよ。季節が夏だともっと色んな事をして遊べるんだけどね。川で泳いだり、泳ぎながら魚を網で取ったり、カブトムシを取ったり、キリギリスを取ったり色々とね」
ちょうどその時、給食当番が帰ってきて給食を配る準備を始めた。
給食を待つ児童たちの列が出来はじめ、ひとまず僕らも話を打ち切って、列に加わった。
「お昼ご飯だね。今日の献立は何だろう?」
僕が坂本くんに何気なく話しかけると、坂本くんがすぐさま答えた。
「たしかカレーじゃなかったかな」
「カレーか、やったー」
「カレー美味しいよね」
「うん。それはそうと坂本くんは今日の昼休みはどう過ごすの?」
「昼休み? それはもちろんサッカーだよ」
坂本くんはサッカーが大好きな少年なので、その答えを聞いた僕は心の中で、だよねー、と呟いた。
その後は給食を受け取り、自席に戻って、みんなでいただきますをしてから食べ始めた。
献立は坂本くんが言ったようにカレーがメインで、とても美味しくいただいた。
給食を食べた後は、僕はいつも教室内でのんびり過ごしており、坂本くんがサッカーをしにクラスメイトと教室を飛び出していく様子をぼんやり眺めていた。
僕はふと自席を立って窓際まで歩き、窓から見えるグラウンドを見下ろした。
しばらく見ていると校舎から坂本くんたちが出てきてサッカーを始めるのが見えた。
沢山の友達と駆け回っている坂本くんの姿を見て、楽しそうだなと思いはしたが、自分があそこに混ざることはないので少し寂しくなった。
それとも努力をして体力をつけたら自分もグラウンドを駆け回ることが出来るのだろうか。
僕は自分自身の考えに苦笑し、さすがにあそこまで走り回るのは無理だと結論付ける。
最近は筋トレを続けて足腰を鍛えているが、僕の弱い心臓を直接鍛えているわけではない。
足腰を鍛えて得られる効果はどれほどかわからないが、大きな効果は期待できないと思う。
せいぜい多少マシになるくらいで、階段の上り下りが少し楽になって、早歩きが出来るくらいになれば十分だと考える。
それにしても坂本くんの周りは友達がいっぱいでいいなと思う。
僕には坂本くんしか友達はいないけれど、坂本くんには沢山の友達がいて、僕の存在はその沢山の内のひとりなのだろう。
などと考えると再び寂寥感が湧いてきて僕の心が少し苦しくなる。
僕ももう少し友達を増やした方がいいのだろうかとふと思う。
しかし僕は友達作りが苦手なので、どうやって作るのかがよくわからない。
坂本くんの場合は、向こうから話しかけてくれたので、僕は最初は驚きつつも質問に答えていたら、気が付けば仲良くなって僕からも話すようになった。
もともと自分から行動を起こして仲良くなったわけじゃないから、今でも友達の作り方がよくわからないのだ。
友達がもう少しほしいけど、いつまでたっても新たに作ることが出来ない。
ああ誰か僕に話しかけてくれたらなあ、そしたら新しい友達が出来るかもしれないのに、と他力本願なことを考えてしまう。
ちょっと情けないと自分でも思ってしまい、僕は憂鬱な気分になる。
僕の気分とは裏腹に、グラウンド上の児童たちは、思い思いに友達と遊んでいる。
ずっと窓の外を見ていてもむなしくなるだけなので僕は窓際を離れて自席に戻り腰を下ろした。
「本でも読もう」
僕は寂しさを紛らわせるかのように声を出し、気持ちを切り替えて読書を始める。
昼休みが終了するまで僕は集中して本を読み続けた。
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