第23話 家族でピクニック

 ゴールデンウィークの3日目。

 僕の家族は自宅から車で1時間ほど走った所にある、非常に大きな公園にピクニックに来ていた。

 ピクニックの目的地をここに決めた理由を父に聞いたら、平地であること、歩くのが楽しそうなこと、の2点を挙げた。

 平地であることが条件に入っているのは、昔家族で山に行った時に坂道に苦労した経験があるからだ。

 僕は上り坂をひいひい言いながら上らねばならなかったし、ダウンした僕をおんぶした父も坂道は大変だったと言っていた。


 今でも学校の階段で比較的苦労している僕からすれば山に行くのはハードルが高いと言えるだろう。

 山道を歩くのも楽しそうという気持ちが無いわけではないが、実行に移すのは僕には大変すぎるので、山については他人から話を聞くだけで満足だ。

 ゴールデンウィークが終れば、田舎から帰った坂本くんが今年も山の話を沢山してくれるだろう。

 そんなわけで大きな公園に来たわけだが、今は昼食の準備をするためレジャーシートを広げて草の上に敷いているところだ。

 4人にしては少し広めのレジャーシートを敷き終わると四隅にかばんや靴を置いて風でめくれないようにする。

 最後に家から持ってきたミニテーブルを父がレジャーシートの中央に置いたら完成だ。


「これでひとまずはオッケーだな」

 父が満足げに言って、ミニテーブルの前に腰を下ろす。

 次に僕は父の向かいに座り、母は父の左側に座ってかばんの中から3人のお弁当を取り出してミニテーブルに置いた。

 さらに水筒と紙コップを取り出してミニテーブルに置き、3つの紙コップにお茶を注いで準備を整える。

 ちなみにセルフはミニテーブルから少し離れたところで相変わらずの正座だ。

「それじゃ、ご飯にするか」


 父はそういうと、弁当箱を開けて中を確認し「美味そうだ」と感想を述べている。

 ちなみに弁当箱は父は青色、母はピンク、僕は緑色と分かれており、それぞれ中身が違っているそうだ。

 僕は緑色の弁当箱を開けて中身を確認すると、タコさんウインナーや卵焼きやハンバーグ。

 ハンバーグには爪楊枝で作った旗がたっていて、ファイトの文字が書かれている。

 それにレタスにプチトマトにブロッコリー、そしておにぎりが海苔でサッカーボール風に飾られていた。

 キャラ弁とまではいかないまでも、多少手の込んだ作りとなっていて僕は嬉しくなる。


「それじゃ、いただきます」

 父の言葉に続いて僕と母も「いただきます」をしてからお弁当を食べ始める。

 母が作ったお弁当のおかずはどれもおいしくて、心が躍った。

「母さんの料理はいつも美味くて最高だな」

 そういって父が上機嫌に、がははは、と笑うので、母も少し嬉しそうに微笑む。

 その光景を見ながら僕も何だか楽しい気持ちになり、早くもピクニックに来てよかったなと思い始める。

 セルフが来る前は、僕は部屋でひとりで過ごすことが多かったけれど、最近はこうして誰かと過ごすことが多くなった。

 過ごす相手はセルフだったり、今日みたいに家族みんなだったり様々だが、最近は誰かと過ごすことが楽しく感じる。


 人は孤独に生きるより誰かと過ごすことの方が、楽しくなるように出来ているのかもしれない。

 その後も楽しい食事は続いて、みんなが食べ終えると、父が言った。

「ご飯も済んだことだし、少し一服したら、散歩がてら公園内をぐるりと見て回るか」

「そうね。いい運動になると思うわ。聡もそれでいいかしら」

「うん。いいよ」

 僕らは食後30分くらいはレジャーシートの上でゴロゴロと過ごし、それからレジャーシートを畳んで回収して散歩の準備を整える。

 ミニテーブルはセルフに持たせて出発した。

 散歩をしながら公園内を見回すと様々な人がいることがわかる。

 ウォーキングをしている人、キャッチボールをしている人、バトミントンをしている人、楽器を演奏している人などだ。


 空を見上げると絶好のピクニック日和で青空が僕らの上に広がっている。

 そんな中を僕の歩く速度に合わせたゆっくりな足取りで家族3人とセルフが歩いていく。

「しんどくなったらすぐに言うんだぞ、聡」

 父が僕を気遣って声をかけてくるので、僕は「わかったよ。お父さん」と返事をした。

 散歩中、相変わらず周りの人の目はセルフに集まっていて、あれは何だという目で見てくる。

 通り過ぎる人は高確率で後ろを振り返るし、周辺にいる人は何やらひそひそと話している気がする。

「何だかセルフが注目されているみたいだな」

 父が周りを見ながら呟くと、母が前を向いたまま冷静に答える。


「みんなセルフを珍しがっているのよ。最近聡がセルフと近所を散歩した時も注目を集めていたみたいよ」

「そうなのか、聡」

「うん。お婆さんなんか腰を抜かしてたよ」

「それは大変だな。お年寄りにはセルフの存在は刺激が強いのかな。なんにせよ注目の的を従えているのは悪い気分じゃないな」

 その父の意見には僕も賛成で、たしかにセルフと一緒に散歩していると謎の優越感に浸れるのだ。

 しかし母はその考えが気に入らないのか父に対してツッコミを入れる。

「なんだかそれって、高価なものを見せびらかして喜んでるみたいで私はその考えは好きになれないわ」

 水を差された父は「言われてみるとそうかもしれん」と呟き、少し反省するような表情を浮かべた。


「周りの人の視線はあまり気にしないようにしましょう」

 母はそう言うが、僕としては少しくらい見せびらかしてもバチは当たらないと思う。

 なのでこっそりと横目で周囲の人々に目をやって、セルフへの反応を楽しんだ。

 広い公園内をゆっくり歩いて一周すると結構な時間がかかり、僕は足が疲れて休憩したくなった。

 父が再びレジャーシートを広げて草の上に敷き、ミニテーブルも設置して拠点を作る。

 疲れていた僕がレジャーシートの上に寝転んで休憩しても、まだ十分な広さがあった。

 横の方で父が何やらごそごそとかばんの中に手を突っ込んで、探している。

 そして父が取り出したものは、円盤状のおもちゃであるフリスビーだった。


「聡、このフリスビーで遊ばないか」

 父が僕に聞いてくるが、僕は「もう少しだけ休ませて」と言って、寝そべっていた。

「仕方ない。それじゃセルフ、一緒に遊んでくれるか」

「かしこまりました。ご主人様」

 父とセルフが向かい合わせで距離を取り、そして父がフリスビーの投げ方を軽くセルフに教える。

「いいか、セルフ。こうやって投げるんだ」

 父が手首の力を利かせて綺麗にフリスビーを投げる。投げられたフリスビーが宙を飛び、セルフに向かって進んでいく。


「空中でキャッチするんだ、セルフ」

 父に言われてセルフがフリスビーを空中で受け止める。

「それじゃ、フリスビーを投げ返してみてくれ」

「かしこまりました」

 セルフが父の見よう見まねでフリスビーを投げるが、フリスビーはゆらゆらと揺れ父の足元付近に落下した。

「少し回転が足りないみたいだ。もう少し手首を使って投げてみてくれ」

 父とセルフの間で何度か投げ合い、そのたびにセルフのスローイングは良くなっていった。

「セルフはだいぶ上手くなってきたようだな。そろそろ聡もやってみるか?」

「うん」


 足の疲れはまだ残っていたが、フリスビーをする父とセルフが楽しそうなので僕も参加することにする。

「じゃあ、三角の形に広がろう」

 父の指示で僕らは正三角形を描くように配置についた。

「時計回りに投げるからな。ちゃんと相手が取りやすい所に投げるんだぞ」

 父から時計回りに僕、セルフと続くので、まずは父が僕に向かってフリスビーを投げてくる。

 相変わらず綺麗な軌道を描き、ゆっくりとフリスビーが僕に向かって飛んでくる。

 僕は難なくキャッチして、今度はセルフに向かいフリスビーを丁寧に狙いを定めて投げた。

 何とか僕の投げたフリスビーがまっすぐ飛んで行ったようでセルフがキャッチしてくれる。

 そして時計回りに投げ続け、しばらくフリスビーで遊んだ後、僕はこれくらいの運動なら楽しく遊べるなと思った。

 レジャーシートに目を向けると、どこか眩しそうに目を細めた母が嬉しそうに微笑んでいるのが見えた。

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