第20話 セルフとゴールデンウィーク

 5月になりゴールデンウィークがやってきた。

 友達の坂本くんは田舎に帰ると言っていたので羨ましく思いながらその時は話を聞いていた。

 僕の両親はふたりともこの街で生まれ育ったので田舎へ帰るという習慣はない。

 同じ街に住むおじいちゃんの家に遊びに行くくらいだ。

 僕としてはゴールデンウィークや夏休みに自然豊かな田舎に帰ることに少し憧れる。

 でもないものねだりをしても仕方がないので僕は我慢している。


 学校が始まれば坂本くんから田舎の話を聞くことができるので、それが楽しみでもある。

 とりあえず今年のゴールデンウィークはセルフと遊んで過ごそうと思い、セルフが暇になるまで自室で勉強や読書、筋トレなどをして時間をつぶした。

 そしてセルフが僕の部屋にやってきてお決まりのセリフを言った。

「坊ちゃん、今は何をしていますか?」

「今は読書をしながらセルフを待ってたところだよ。セルフが暇になったんなら一緒に遊ぼう」

「かしこまりました」

「何して遊ぼうか。と言ってもふたりで出来て楽しめるといったらテレビゲームくらいしか思いつかないんだけど」

「テレビゲームですか。どうしてもというのなら、それでも構いませんが、テレビゲームばかりするのも何だか不健康ですね」


 セルフに不健康と言われ、僕はどこか申し訳ない気分になるが、運動を避ける習慣が身に付いている僕には健康的な遊びはあまり思いつかない。

「筋トレはもう今日の分はしたよ」

「それは良いことです」

 筋トレはセルフに教わってから毎日とはいかないけれど2日に1回は出来ている。

 今日は筋トレをしたのでもう健康的なことをしなくてもいい気もするがセルフは満足していないようだ。

 最近はセルフが暇になればゲームばかりしていたので、またかという想いもあるのかもしれない。


「ゲームがダメなら何か他に僕とセルフが出来る遊びは何だろう。どうせならゴールデンウイークらしい遊びだといいな。でもそんなのあるのかな。他の人は何をして過ごしてるんだろう」

「ゴールデンウイークと言えば旅行や帰省したり、するのではないでしょうか。あとのんびり自宅で過ごす人も多いようです」

「旅行か。ここ数年旅行には行ってないな」

「以前は行っていたのですか」

「うん。僕が幼い頃はよく行ってたよ。でもその頃僕は自分の体についてよく理解してなかったから、旅行先ではしゃいですぐ倒れてたんだ。それでも最初のうちはお父さんがおんぶしてくれて旅行先を移動してたけど、僕の体も少しずつ大きくなって、おんぶでの移動が大変になって来たんだ。最後に行った旅行は倒れた僕を看病するためほとんどホテルにいて移動できなかった記憶があるよ。それが子供心に申し訳なくてもう旅行には行きたくないってお父さんに言っちゃったんだ。それ以来旅行には行ってないんだ」


「なるほど。そうなのですね」

「うん。今でもきつめの運動をすると、僕はいつ倒れるかわからないから、運動は少し怖いよ」

「でも歩くくらいなら、大丈夫なのでしょう? 毎日学校まで歩いて登校しているみたいですし」

「そうだね。普通に歩くくらいなら全然問題ないみたい。ただあんまり速く歩くとその内倒れるかもしれないけど」

 僕はセルフとの鬼ごっこを思い出し、頑張って早歩きをするだけで倒れそうになっていたことを再認識する。

 おそらく最後のダッシュがなくても、いずれ倒れていたと思われる。


「走るのは諦めるとして、早歩きくらいは問題なく出来る体になりたいよ僕」

「トレーニングを続ければ早歩きも出来るようになるかもしれません。頑張りましょう、坊ちゃん」

「頑張るよ。ところでなんでこんな話になったんだっけ。何の話をしてたんだっけ」

「ゴールデンウィークらしい遊びがしたい、という話です」

「そうだった。旅行と帰省が無理なんで、後は家でゆっくりするしかないということかな」

 セルフが挙げた3つの例を思い出しながら、それなら結局ゲームしかないんじゃないかと思い始める。

 だがせっかくのゴールデンウィークにゲームで過ごすのも、もったいない気もしてくる。

 やはり普段しないことをした方がゴールデンウィークを満喫している気分に浸れるだろう。

 何か良い案はないだろうか。


「セルフは何かしたい事とかないの?」

「セルフはお手伝いロボットですので、自分から何かをしたいと思うことはありません」

「だよね」

 聞く前から何となくわかっていたセルフの答えを聞いて、僕は妙に納得する。

 たしかにロボットがあれしたいこれしたいと自己主張を始めても周りの人は困るだろう。

「セルフは人のお手伝いが出来れば、それで良いのです」

「じゃあ、僕がこれからすることを考えるお手伝いをしてよ。セルフも何か案を出して」

「わかりました。それでは両親と何かお話をして家族団らんを過ごすというのはどうでしょう。あとウォーキングをするのもお勧めです」


「散歩か。そういえば散歩はやるやるっていうだけで全然行けてないや。たしかにそれは良い考えかも。それと家族団らんか。何を話せばいいんだろう」

「適当でよいのではないでしょうか。もしくはゴールデンウィーク中に、どこかに連れて行ってほしいと、頼むのはどうでしょう。動物園や水族館、遊園地やピクニックなど、坊ちゃんが興味のあるところをお願いすればいいと思います」

「なるほどそれはちょっとゴールデンウィークっぽくていいかも。今日は無理でもゴールデンウィーク中のどこかで行けたら嬉しいと思う」

 僕は家族でお出かけする様子を想像して楽しそうだという感想を抱く。

 ただ僕の場合、はしゃぎすぎないように注意してお出かけする必要があることを忘れてはならない。


 小学4年生になり以前よりさらに体も大きくなったので、倒れでもしたら運ぶのが大変だ。

 セルフがいれば鬼ごっこの時のように運んでくれそうだが、お出かけにセルフを連れていくかがわからない。

 もしセルフがお留守番になった場合は、父が僕を運ぶことになるだろう。

 そんなことになれば今後僕がお出かけしたいとお願いしても却下されるかもしれない。

 いや今後も何も、今回すら却下されてしまうかもだがそれは聞いてみるまでわからない。

 とりあえずお願いしてみてもいいだろう。

 公園など近場に行くお願いは何度もしたことがあるけれど、遠出のお願いは今まで一度もしたことがないので少し緊張してしまう。


「セルフの案を、気に入ってもらえたようですね」

「とても良い案だよ。ありがとうセルフ」

「どういたしまして」

「とりあえず今日はこれからまず散歩に行って、帰ったらお出かけのお願いをしてみる」

「かしこまりました。セルフもお供します」

「じゃあ、散歩に出発しよう」

 僕は部屋を出て、外に出る前に母に一言声をかけてから行こうと思い、居間に向かった。セルフを引き連れて居間に入ると母が料理の本を読んで勉強をしている所だった。

「お母さん」

 僕が呼びかけると、母は本から顔を上げて僕の方に向き、微笑みながら「どうしたの?」と返事をした。


「僕これから散歩に出かけるんだけど、セルフを連れていくね」

 母は前々から僕に散歩を薦めてきていたので、特に問題なく送り出してくれるだろう。

「やっと散歩に行く気になったのね。母さん嬉しいわ。のんびりと歩いてきなさい。いい運動になるわ。セルフ、聡のことお願いね」

「かしこまりました。奥様」

 そうして僕らは家を出て散歩に向かうのだった。

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