第19話 セルフと筋トレ

 筋トレをすると決意した日の翌日の日曜日、僕はセルフが暇になるまで自室や居間で過ごした。

 午前中はセルフが作った計算速度を上げるための計算問題を何度も解き、飽きたら読書をして時間を潰した。

 午後からは居間のノートパソコンを使いインターネットで筋トレについて調べた。

 印象としては本気で筋トレをしたい人向けのサイトが多いように感じられ、自分が目指す楽に人並みになりたいという願望を叶えるものは見つけられなかった。


 まあそれは後でセルフに聞けば何かより良いものを教えてもらえるだろうと思い、インターネットでの調査を諦めた。

 僕はノートパソコンを閉じて自室に戻ると、机の椅子に座ってセルフのことをぼんやり考えた。

 セルフは万能型お手伝いロボットで家の中の様々な家事を行なうだけでなく、僕と一緒に遊んでくれたりもする。

 またセルフは物知りなので僕にも役立つ知識を知っていて色々と教えてくれるのが良い所だ。


 効率的な勉強の仕方を教えてくれたり、筋トレの仕方も聞けば教えてくれるだろう。

 勉強の方はセルフが来てからまだテストがないのでどれだけ効果があるか結果は出てないが、勉強する時にはセルフに言われた方法を取り入れて頑張っている。

 正直、最初は僕にとってセルフはいてもいなくてもあまり影響しないと考えていた。

 だが実際は僕にもプラスになることばかりでセルフが家に来てくれて本当に嬉しく思う。

 また本来の仕事である家事についてもセルフはよくやっている。

 毎日、母の代わりに掃除や洗濯を行ない、そのおかげで母の仕事量が激減した。


 母は空いた時間を利用して料理の勉強をしているようだ。

 朝食はセルフと協力して作ることが多いが、夕食は母が作ると決めているようだ。

 土日の昼はセルフと協力したりしなかったりでまちまちで、その日の気分で決めているみたいだ。

 最近の母の料理は以前にも増して美味しく感じる。

 やはり家事の負担が減り料理にかける時間がたっぷりと取れるのがその理由かもしれない。

 今までより手の込んだものを作ろうという気になっているに違いない。

 などと考えていると、家事の仕事を終えたセルフが僕の部屋の扉を開けて中に入ってきた。


「坊ちゃん、今は何をしていますか?」

「少し考え事をしながらセルフが暇になるのを待ってたんだよ。セルフはお手伝いはもう終ったんだよね」

「はい。終りました」

「それじゃ、僕におすすめの筋トレを教えてよ。昨日セルフに筋トレをした方がいいって言われたから始めようと思うんだけど、何をしたらいいかわからないんだ」

「わかりました。まず最初に聞きたいのですが、坊ちゃんはどんな自分になりたいですか」

「人並みの体力が付けられるならそれでいいよ。別に体力自慢になりたいとかは思ってないんだ。まあ僕の場合はそれすら遠い夢物語に思えてしまうんだけど」


「確かに坊ちゃんの場合は、人並みの体力を目指すのも、大変かもしれません」

「だよね。人並みの心臓を持ってないから」

「そうですね。しかし坊ちゃんの場合はトレーニングによって、ある程度の改善は可能と思われます。そんな坊ちゃんにはまず、足腰を鍛えることをお勧めします」

「足腰?」

「はい。足の特にふくらはぎは第2の心臓と言われていて、血液を心臓に送り返す力があると、言われています。足腰にしっかりと筋肉がつけば、心臓の負担軽減も期待できます。なのでスクワットやつま先立ちのトレーニングをするとよいでしょう」

「なるほど。ちなみにそれは何回くらいすればいいの?」


「一度に行う回数は、坊ちゃんがあまり頑張らなくても出来る、範囲内ですればいいでしょう。10回か、それがしんどければ5回でも、大丈夫でしょう。それを1セットとして、3セットくらいから始めれば十分でしょう」

「それくらいなら心臓にあまり負担がかからないかもしれないね」

「はい。筋トレが終われば、有酸素運動であるウォーキングも、行ないましょう」

「散歩だね」

「そうです。歩く速度は、話をしながら歩ける程度の速さでいいです。坊ちゃんの場合、筋トレもウォーキングも頑張り過ぎはよくありません。逆に体を壊してしまうことになりかねません」

「わかったよ。とりあえずスクワットからしてみるよ」


 僕は机の椅子から立ちあがり、周囲に気を付けて、ゆっくりとスクワットを始めた。

 1、2、3、とカウントしていき5回したところでまだ余裕を感じられたので、続けて10回まで行なった。

「意外と問題なくいけたよ」

「坊ちゃんの体系が、小柄なおかげかもしれません。少し休憩したら2セット目に行きましょう」

「うん」

 2セット目を始めると、疲労が足に溜まっているのか、最初の時より明らかにきつかった。

 それでも何とか10回をやり終えて、自分の体の状態に意識を向ける。


 足には負担がかかっているが、ゆっくりとスクワットしたこともあり心臓にはそれほど負担がかかっていない。

 もう1セット行けるだろうかと僕が自問自答していると、セルフが聞いてくる。

「まだいけますか?」

「どうだろう。足は少し、しんどかったけど」

「今日は初日ですし、悩むようならやめておきましょう。また明日すればよいのです。明日は楽に20回を、こなせるかもしれません。そうすればもう1セット、追加すればよいのです。坊ちゃんの場合は無理する必要はありません」

「わかったよ」


「それでは次に、ふくらはぎのトレーニングをしたいと思います」

「どうやるの?」

「簡単です。まずは足を肩幅に開き、立ちます。それからゆっくりと、限界までかかとを上げてつま先立ちになって1秒間キープ。そして今度はゆっくりとかかとを床につくぎりぎりまで下ろします。後はその繰り返しです。30回くらい出来ればいいですが、まずは10回を目指して行ないましょう」

「わかった」

 僕はセルフに言われた通り、肩幅に足を開いて、つま先立ちになった。

 それからゆっくりとかかとをぎりぎりまで下ろし、再びつま先立ちへ。

 1回ずつ心の中でカウントして、10回まで来た時、かかとを完全に床におろした。

「これは10回だと少ないんじゃない。余裕で出来ちゃったよ」

「そうですか。それでは少し休んで次は20回を目指しましょう」


 僕はしばらく休んで今度は20回に挑戦し始める。心の中でカウントし20回を終えた時には、足に程よい疲労感が感じられた。

「お疲れさまでした、坊ちゃん。今日のトレーニングはこれで、終わりにしましょう。明日になって筋肉痛になれば休養した方がいいですが、基本毎日続けた方が良いです」

「そうなんだ。頑張って続ける努力をしてみるよ」

「そうしてください。一日二日トレーニングをしたくらいでは、効果はあまり期待できませんので、継続することが大切です。そのためにはあまり頑張りすぎないことです。そして習慣化させることが重要です」


「わかったよ」

「本来ならウォーキングもした方が良いのですが、今日はどうしますか?」

「それはまた今度にするよ。僕、足が疲れちゃった」

「そうですか。それも良いでしょう。無理する必要はないのですから」

「今日は筋トレについて色々教えてくれて、ありがとうね」

「いえいえ、かまいません。これもセルフの仕事だと、認識しています。坊ちゃんがより健康になれれば、セルフとしては嬉しいです」

「そっか」

 セルフの言葉に僕も嬉しくなり、気分が良くなる。

「よーし夕ご飯まで、まだまだ時間があるから一緒にゲームでもするか」

「かしこまりました」

「今日は協力プレイのゲームをしよう」

 対戦ゲームだとまたイライラさせられるかもしれないからとは思ってても口には出さなかった。

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