第16話 セルフとテレビゲーム
とある土曜日の出来事。
昼食後に2時間くらい自室で読書をしたけれど、頭が疲れたので読書を止めた。
次はゲームをしようと思いテレビとゲーム機の電源を入れて準備をする。
遊ぶゲームは何にしようと考え、結局僕が一番好きなサンドボックスのゲームを選んで起動した。
のんびりと新たな建物でも作ろうと思っていると、部屋の扉が開きセルフが中に入ってきた。
「坊ちゃん。今は何をしていますか?」
「僕今ゲームを始めたところだよ。セルフはお手伝いは終ったの?」
「はい。すべて完了しました」
最近、僕が自室にこもっていると、暇になったセルフが部屋に来ることが多い。
セルフの方は大体3時には家事をほぼ終えて暇になってしまうようだ。
残っている仕事といえば夕食時に出た食器等の洗い物をするくらいで、今できることはない。
ちなみに夕食は料理好きの母が作っているので、セルフの出番はない。
「僕がゲームするところでも見る?」
「そうさせてもらいます」
そういえばセルフがゲームを見るのは初めてだなと思い、どんな反応を示すのかと興味がわく。
だがとりあえず僕はセルフにかまわずゲームを進め、自分の家という設定の建物を作っていく。
黙々と建物を作っているとしばらくしてセルフが聞いてくる。
「これはどういった、ゲームなのでしょう?」
「サンドボックスっていうジャンルのゲームだよ。セルフ知らない?」
「サンドボックスというジャンルのゲームは、知識にあります。ただ画面を見ただけでは、すぐにはわかりませんでした」
「そうなんだ」
時間をかければ聞かなくても分かったということだろうか。
「セルフにも中々答えが思い出せない、みたいなことがあるんだね」
「はい。最初から言語化されたものは、知識を簡単に検索することが出来ますが、ゲームは視覚情報なので、適切な言語化に時間がかかります」
「そうなんだ」
僕はセリフの言葉を半ば聞き流してゲームに集中し、シンプルな1軒の家を建て終えた。
「やった。出来た」
後は看板に「ボクノイエ」と書いて建物の前に置くと完成だ。
僕がコントローラーを操作しているとセルフが横やりを入れてくる。
「完成なのですか、坊ちゃん。何やらでこぼこしているようにも、見えますが。特に屋根のあたりが」
確かにセルフの言う通りで、多少でこぼこしているが、綺麗に作るのが面倒くさいので仕方がない。
「いいんだ、これで。屋根のあたりはちょっと集中力が持たなかったんだ」
僕が適当に言い訳すると、セルフがまるで待ってましたとばかりに言う。
「セルフが綺麗にして、あげましょう」
僕は多少唖然としたが、セルフがそういうんだから、とりあえずやらせてみようと思う。
「それじゃ、お願いするよ。はい、コントローラー」
僕がセルフにコントローラーを手渡すと、セルフは画面とコントローラーに視線を往復させて言う。
「坊ちゃん、操作がわかりません」
わからんのかい、と思わずツッコミを入れそうになるが、僕は冷静になりセルフに操作方法を一から教えていった。
セルフは物覚えが非常に良いのですぐに操作方法を覚え、問題なくゲームがプレイできるようになった。
セルフが僕の作った家の補修工事を始めると、どんどん見栄えが良くなっていき、外観が完成した時には思わず歓声を上げた。
「わぉ。細部まで完璧だよ。ありがとうセルフ」
「いいえ。まだ内装が綺麗になっていません」
僕はセルフが納得いくまで好きにさせて見守り続ける。
内装を綺麗にと言っていたが、別に家具などを配置するわけではなく、でこぼこを取るのに夢中になっているようだ。
「出来ました。坊ちゃん」
「ありがとうセルフ。綺麗になったね」
僕はコントローラーを返してもらいお礼に、「ボクノイエ」と書いた看板を「ボクトセルフノイエ」に変えておいた。
それにしてもセルフは万能型お手伝いロボットと謳っているだけあって、何でも出来るんだなと僕は感心する。
何か別のソフトもやらせたら面白いのではと思い、とりあえず今のゲームは終了する。
「ゲームを止めるのですか?」
「別のゲームにするだけだよ」
僕は何をしようかと考えて、次は対戦型のアクションゲームを選んだ。
コントローラーも二人分用意して2P側のコントローラーをセルフに手渡す。
「次はアクションゲームだよ」
僕はさっそくふたり対戦のモードを選択し、ゲームを始める。
キャラクタ選択画面で僕はいつも使うキャラを選んでから、セルフのコントローラーも拝借しロボットのキャラがいたのでそれを選んだ。
戦いが始まるがいきなりセルフをボコってもつまらないので、僕は懇切丁寧に操作方法やゲームのルールをセルフに教えた。
「最近、セルフに色んな事教えてばっかりだよ」
僕は嘆いて見せるが、しかし本当はセルフに色々なことを教える作業は嫌いではなかった。
色々教えていると何だか少し自分が賢くなったと錯覚を抱くことがある。
まるで僕がセルフを育てた、みたいな気分に浸れるのだ。
セルフの大きな特徴として初めて接するものに対しては、最初に説明を必要とし、基本言われた範囲内でしか行動しないというものがある。
セルフが自分で勝手に試行錯誤して新しいことを始めるということをしない。
セルフには創造性が欠如しているとでも言えば良いのだろうか。
まあお手伝いをするのに創造性はいらないかもしれないが。
僕は一通りの操作方法とルールを教えると、セルフと対戦することにしたが、正直あまり強くない。
僕でも軽くボコれるレベルで行動はワンパターンだし、たまに超反応を見せるが、弱いCPUと戦っている気分だ。
でもまあセルフのことだしすぐに上達するのではと思ったが、意外と上達が遅い。
少しずつ上達して僕と同じくらいの強さまで来たが、もっと凄いスーパープレイを見せてくれると期待していたので少し残念だ。
そういえば先程言語化されてないものは苦手みたいな話をしていたなと思い出す。
セルフの操作するキャラの動きもどこかで見たことある動きばかりと思っていると、それは僕のプレイと瓜二つだった。
もしかして参考にしている僕の動きがあまり上手くないからセルフも強くならないのではという疑惑が出てくる。
それに操作方法とルールは教えたが、戦法や戦略などは教えていないので、僕のプレイを参考にするしか戦い方がわからなかったのかもしれない。
しかも言語化に時間がかかり成長もゆっくりだったということだろうか。
そこで僕は今度は戦う上での戦法や戦略をセリフに教え始めた。
僕が出来てることはもちろん、僕には出来ないことまで色々とセルフに伝授した。
すると確かに強くなって僕ではあまり勝てなくなり、勝ちパターンを覚えたセルフはさらに強く成長を始め、僕では全然勝てなくなった。
そのことに最初は僕も喜んでいたが、負けてばかりだと徐々につまらなく感じてきて、しまいには腹が立ってきた。
「あー、くそ、また負けた」
今度は僕が成長する番だと思い、何とかセルフの操作するロボットキャラを倒そうとするが、何度挑んでも倒せない。
自分がセルフをここまで育てたとはいえ負けてばかりは嫌だった。
最後には不機嫌になって「こんなゲーム止めだ」と言って僕はゲームの電源を切った。
これまで様々なことをセルフに教えたり遊んだりしてきたけれど、することに慣れてきたセルフに僕は何一つ勝ててないことに気が付いた。
セルフの能力があまり発揮されないトランプのババ抜きでさえ、そういえば負けたなと思い出す。
僕は何か一つでもいいからセルフに勝つことは出来ないかと考えて、僕はセルフが苦手そうな遊びを思いつく限り頭に思い描いた。そしてその中の一つを選択し、セルフに告げた。
「よし、セルフ。今度はかくれんぼで勝負だ」
「かしこまりました。坊ちゃん」
そうして僕のセルフに対する挑戦が始まった。
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