第15話 セルフと勉強

 とある平日の夜。

 僕は今日学校で出された算数の宿題を自室の机でやっていると、突然部屋の扉が開いてセルフが入ってきた。

 僕は宿題を一時中断してセルフの方に体を向けて、一体どうしたのだろうと考え口を開く。

「何か用? セルフ」

「はい。奥様に坊ちゃんの様子を見てくるように言われました。勉強しているようなら勉強の手伝いを、遊んでいるようなら一緒に遊んであげてと言われました」


 なるほどと僕は思い、母の考えを想像してみる。

 セルフが家に来る前は大体僕は自室にこもってひとりでいることが多かった。

 セルフが来てからはセルフに興味があったので、居間で母とセルフと一緒に過ごしていた。

 父は平日は夜遅くまで仕事から帰ってこないので、一緒にいることはない。

 そして今日再び自室にこもっていたので、また以前のように自室に引きこもり始めたと母は勘違いして心配になったのかもしれない。

 今日はたまたま算数の宿題が出て、集中して宿題を済ませたかっただけだが、特に母には何も告げずに自室にこもったので、わからなかったのだろう。

 とりあえず僕はセルフに答える。


「僕今、算数の宿題をしてるんだ。わからないところも今は特にないからお手伝いは必要ないよ。算数の宿題なんて基本自分一人でやるもんだし」

 僕がそういうとセルフは母の元に戻るかなと思ったけれど、そうせず僕に提案してくる。

「それではセルフは坊ちゃんが解いた問題が、正解かの確認をいたしましょう。ケアレスミスは、誰にでもあるものです。坊ちゃんはそのまま宿題を、続けてください。宿題が終ったらセルフに、見せてください。それまではここで、待機しています」

 それなら僕の勉強の邪魔にならないし、僕も間違いに気付けて助かるので、セルフの提案を受けることにした。


「わかったよ。セルフ。それにしてもセルフは勉強も出来るんだね」

「一応、高校3年生までの学習内容が、すべての科目で頭に、詰め込まれています」

 以前、セルフは百科事典並みの情報を持っているといっていたが、勉強が出来るのもそのおかげかもしれない。

「そうなんだ。凄いね。それじゃ宿題を済ませちゃうから少し待っててね」

 僕は宿題を再開させ、算数の教科書に視線を移し、問題をノートに解いていく。

 僕は算数が苦手ではないが、得意といえるほどでもない。

 算数の実力として計算はスピードが遅いが、正確性に優れている傾向にある。

 なのでセルフに見てもらわなくても、大体正解だろうと予想できるが、全問正解出来る自信もあまりなかった。


 ちなみに今解いている問題は、大きい数の仕組み、についてのもので、次のような問題だ。

 百一兆四千五百六十四億を数字で書きましょう。

 僕は解答を慎重に考えて間違えないようにノートに書いていく。

 別に難しいと感じる問題ではないけれど、気を抜けばミスしそうな問題だ。

 しばらく似たような問題が続き、今度は逆に大きな数の数字を漢字で書く問題になった。

 かなり面倒くさい問題で、右端から桁を数えていくのだが、桁数が多すぎて途中でわからなくなったりしながら問題を解いていった。

 結局、すべての宿題を終えるのにセルフが来てから20分ほどの時間がかかり、結構セルフを待たせてしまった。


「セルフ、宿題が終ったよ」

「それではチェックしましょう」

 自分では結構、問題数があったと思うし、セルフが来る前も含めて総時間30分くらいの所要時間だったが、セルフがチェックした時間は10秒ほどだった。

「こちらとこちらの問題の解答が、間違っています」

「どれどれ」

 僕はセルフが指摘したふたつの問題に再度挑戦し、確かに間違いを発見して、ノートのその部分を消して新たに解き始めた。

 ふたつの問題を解いたらまたセルフにチェックを頼み、結果を待つ。

「完璧です。坊ちゃん」

「よかった」


 すべての問題に正しい答えを導けたことに僕は嬉しく思う。

 さて宿題も終わったことだしこれから寝るまでの時間、何をして過ごそうか考える。

 しかし特にしたいことも思いつかず、頭を悩ませていると、ふと勉強のコツをセルフに聞いてみようという気になった。

「ねえ、セルフは勉強する上でのコツみたいなの知らない?」

「勉強のコツですね。いくつかありますが、暗記系科目とそうでない科目で、大きく違ってきます。坊ちゃんはどの科目のコツを、知りたいのですか?」

「全部聞いてみたい気もするけど、とりあえず算数のコツが知りたい」


「算数なら練習問題を沢山解くのが、一番です。それしかないと言えるかもしれません」

「だよね。でも僕計算が遅いから沢山解こうと思うと、凄い時間がかかるんだ」

「それなら簡単な1桁同士の計算問題を50問くらい作って、早く解く練習をすることを、おすすめします。時間を計って計算するのが、よいです」

「簡単な1桁の計算? そんなんでいいの?」

「はい。算数や数学の計算問題は、1桁同士の計算の連続で、成り立っています。なので1桁同士の計算が早いということは、計算速度向上に、つながります」

「なるほど。今度やってみるよ。暗記科目の方のコツも教えてよ?」


「暗記のコツは色々あります。まずは音読です。教科書などを声に出して読みます。これは脳に適度な刺激となって、やる気がアップする効果もあります。また音読は記憶に残りやすいとも、言われています。何度も繰り返し音読することによって、効果が高まります。勉強の始めに取り入れるといいでしょう。次は憶えたいことをすべてテスト形式にして、憶える方法があります。問題集を解いて憶えてもいいですが、時間があれば自分で問題集を作ってそれを解いて憶えるのもいいです。これをテスト効果といいます。憶えるだけでなく思い出せるか確認できる、学習方法といえるでしょう。問題を解いて憶えるとき、憶えるページを決めて、上から解いていって間違えたり分からなければ、正解を確認してから最初からまた解き始める、という方法も有効です。間違えずに1ページを解くことが出来たら、次のページに行きます。暗記のコツは、こんなところです。ちなみに憶えたところを復習する場合は、数日空けてから復習するのがよいようです」


「そうなんだ。今度、色々と試してみるね」

 ちなみに僕の小学校でのテストの成績は、どの教科も大体90点代の前半で、不得意科目は今のところない。

 小学1年生の頃はどの教科も100点を連発していたけれど、学年が上がるにつれて少しずつ下がり、今は100点を取ることがない。

 たまにはテストで100点を取りたいと思うが、取れないことにもどかしさを感じる。

 勉強自体は別に嫌いじゃないので、たまに宿題以外にも予習や復習のために教科書を読んだりするが、それでも100点を取れないので自分は頭が良くないのではと不安になる時もある。


 体が悪いのに、その上頭まで悪いとか軽く絶望を感じてしまいそうになる。

 しかし今日セルフの勉強のコツの話を聞いて、自分の教科書を読むだけの勉強法は効率が悪いのかもと思った。

 もう少し勉強の仕方を工夫すれば、僕にも100点が取れるかもという気になる。

 有益な情報をくれたセルフに感謝の念が沸いて、自然と言葉があふれ出る。

「ありがとうな。セルフ」

「どういたしまして」

「今日これからすることもないし、早速セルフが言ってた、算数の計算を早くするための方法を試してみようかな」


 僕は紙と鉛筆を用意して、適当に1桁の計算問題を沢山作ろうと思い、机に向かうとセルフが声をかけてくる。

「問題はセルフがお作りしましようか?」

「えっ、いいの。凄い助かるんだけど。ていうかセルフは字も書けたの?」

「大丈夫です。セルフにおまかせください」

「じゃ、お願いするよ」

 僕は机の椅子をセルフに譲り、横からセルフが問題を作る姿を、興味深く眺めた。

 セルフが数字を書くスピードはとても早く、まるで手が印刷機械になったかのように綺麗な数字を書き続ける。


「足し算、引き算、掛け算でバランスよく作ります」

 結局セルフは50問の問題を3分くらいで作り上げた。

「出来ました。坊ちゃん」

「ありがとう。セルフ」

 僕は机の椅子にセルフと交代で座り、目の前に出来上がった問題用紙に感動すら覚える。

「それではその問題を、解いてみてください。何度も挑戦できるように、解答は別の紙に、書いてください。セルフが時間を計ります。最初の目標タイムは、3分にしましょう。それでは準備はいいですか。3、2、1、スタート」


 僕は問題を解き始め、解答用の紙に答えを急いで書いていく。思ったのは何だかゲームみたいで少し楽しいなということだった。最後の問題を解き終えた時、僕は頭が結構疲れているのを感じた。

「できた」

「ただいまのタイムは3分17秒でした。お疲れさまでした」

 セルフが設定した目標タイムには届かなかったが、自分にはこれが精一杯だった。

「同じ問題でもいいので、毎日続ければタイムが早くなります。これから頑張りましょう」

 僕は計算を早くするぞと意気込むのだった。

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