第14話 セルフとかるたとトランプ
セルフにけん玉をやめさせて僕が次に選んだおもちゃはかるただった。
家には百人一首かるたもあるが母が選んでいたのは小学生用のかるたで、とても単純なやつだ。
読み札と取り札があり、読み札には文章が、取り札には絵と一文字だけが書かれている。
遊び方としては取り札を床に適当に並べて読み札を読み、読んだ文章の先頭文字に該当する取り札を取るだけの簡単な遊びだ。
僕はこれを小学生低学年の時に家族と遊んでいた。
「坂本くんはかるた知ってる?」
「知ってる。何度か遊んだことがあるよ」
「それじゃ遊び方は分かるね。問題はセルフか。セルフはかるた知ってる?」
「存じておりますが、遊んだことは、ありません」
「知ってるんだ。それは少し意外かも」
「知識だけなら、セルフは百科事典並みの情報を、保有しています」
「そうなんだ。それじゃかるたの遊び方も分かるってこといいんだね」
「大丈夫です。坊ちゃん」
「それじゃ、実際に遊んでみよっか。僕が読み手をするよ。坂本くんとセルフは札を取ってね」
僕はまず取り札を適当に床に並べてから、読み札をしっかりと混ぜて、それから読み始める。
「ちりも積もれば……」
「はい。取りました」
「え? 早っ」
僕が読み札をすべて読み終わる前に、セルフは取り札を取ってしまった。
これには僕も坂本くんも、異様に早いセルフの動きに驚きを隠せない。
僕が最初の一文字の「ち」を読んだ瞬間から、もう動き始めたのではというくらい反応が早かった。
これじゃ人では太刀打ちできない。
「一応、もう一回やってみよう。もしかしたらさっきのはまぐれかもしれないし」
「そ、そうだね」
僕がセルフにちらりと目を向けると、正座をして次の言葉を待っているようだった。
僕は次の読み札に目を移し、少しドキドキしながら読み始める。
「嘘から出た……」
「はい。取りました」
またしても読み札を読み終える前に、セルフは取り札を取ってしまった。
セルフにとっては、かるたなどお茶の子さいさいで出来てしまう遊びなのだろう。
あたらめてセルフの有能さを認識できて、凄いなと僕は思った。
「セルフが凄いのはよくわかったから次のおもちゃで遊ぼっか」
「そうだね。セルフとかるたしてもまったく札を取れそうにないよ」
「今度はセルフとの差があまり出ない、セルフが苦手そうな遊びにしてみよう」
「そんなのあるの?」
「色々あるよ。運の要素が強い遊びをしたらいいんじゃないかな。ボードゲームの人生ゲームで遊ぶのもいいし、百人一首で坊主めくりをするのもいいね。後はトランプで遊ぶのもいいかもしれない。坂本くんは何かやりたいものある?」
「人生ゲームってあれだよね、ルーレット回して進むマスを決めるってやつ」
「そうだよ」
「僕ボードゲームのやつはやったことないけど、テレビゲームのやつはやったことあるよ。さすがにあれは運ゲー過ぎるんじゃない。同じ理由で百人一首の坊主めくりも完全に運ゲーだから、セルフとやっても別に面白味がなさそう。トランプなら運の要素もあるけど、戦略性もあるからセルフとやって楽しいんじゃないかな」
「なるほど。じゃあトランプにしよう。色んな遊びが出来るけど何にする。神経衰弱とかセルフにやらせたら超強そうだけど、それは除外するとして、何をすればいい勝負になりそうかな」
「とりあえず僕が知ってるのは、ババ抜き、ジジ抜き、ポーカー、大富豪、ブラックジャック、スピード、戦争、くらいだからその中から何か選ぼうよ。出来れば短時間で遊べるものの方がいいな。家に帰るのがあまり遅くなるとママが心配しちゃうから」
「それなら大富豪は却下だね。あれはある程度の時間をかけた方が面白い気がする。ジジ抜きと戦争はただの運ゲーだから却下でいいね。スピードもさっきのかるたを見てるとセルフ有利のゲームな気がするから却下するとして、後なんだっけ?」
「ババ抜き、ポーカー、ブラックジャックだよ」
「ポーカーとブラックジャックはチップ替わりを用意しないといけないから、ババ抜きでいい?」
「いいよ。ババ抜きで」
「じゃあ、決まりね。トランプは持ってきたおもちゃの中に無かったから、取って来る」
僕は部屋を出て再び書斎に向かい、棚に飾っているおもちゃの中からトランプを取って、すぐに自室に戻る。
「お待たせ」
僕はトランプをケースから取り出し、まずはジョーカーを一枚探して、それを脇に置いておく。
ジョーカーはトランプの中にもともと二枚あるので、これで一枚だけが残ったことになる。
「そういえば聞くのを忘れてたけどセルフはババ抜きのルール知ってるよね」
「大丈夫です。坊ちゃん」
セルフの言葉に僕は安心し、トランプをよく混ぜてから、配り始める。
自分、坂本くん、セルフの順に時計回りに配ったので、最終的に僕と坂本くんが
18枚、セルフが17枚のトランプがそれぞれの手元に行き渡った。
それぞれ自分のカードから数字が揃ったものを中央に捨てていくと、手元に残ったのは僕が8枚、坂本くんが4枚、セルフが7枚となった。
「やった、僕残り4枚だ」
坂本くんが嬉しそうに言って、僕とセルフのカードを交互に見ている。
ジョーカーがどこにあるのか探っているのかもしれない。
ちなみにジョーカーは僕の手の中にあり、現段階では一番勝利から遠いのが僕だろう。
ただセルフとはカードの枚数差が1枚しかないのでまだまだ結果はわからない。
「それじゃ、じゃんけんで勝った人からスタートね。じゃん、けん、ぽん」
僕がぐー、坂本くんもぐー、セルフがぱー、を出したのでセルフからのスタートになった。
これは僕にとってもベストの結果と言えるだろう。
ババ抜きを始めて、カードを右隣から取る時に、自分が持っているカードの枚数が偶数なのか奇数なのかが大事な要素の一つとなってくる。
偶数の場合はあがる直前に2枚のカードが手元に残り、そのどちらか一方のカードを相手から取ってくることであがることが出来るからだ。
これが奇数だとあがる直前に1枚のカードしか残らず、そのカードを相手から取ってくる必要がある。
確率にして2倍の差があるわけだ。
今回の場合はセルフスタートということで、手元のカードはセルフは奇数、僕は偶数、坂本くんは奇数となる。
よって僕だけが有利な条件でスタートとなったわけだ。
ちなみに僕がじゃんけんに勝っていれば、全員が偶数のスタートとなりフェアではあるが、手持ちのカードに差があるため僕の負けが濃厚になるところだった。
とりあえずは九死に一生を得た感じだろうか。
「それじゃ、セルフ始めていいよ」
「かしこまりました」
セルフが右隣に座っている坂本くんから一枚カードを取る。
どうやら揃わなかったようで、カードを捨てる気配がない。
次は僕の番になり僕はすかさず、先程セルフが坂本くんから取ったカードを取る。
こうすることで僕は確実に1組揃えることが出来る。
なぜなら坂本くんの所にもセルフの所にもペアがないということは、僕の手の中にペアのカードがあるということだからだ。
ペアがないカードがジョーカーという可能性もあるが、今は僕の手の中にジョーカーがあるので、それは無視できる。
僕は取ってきたカードに目を向けると3だった。
手の中のカードの3と一緒に中央に捨てて、次は坂本くんの番だ。
坂本くんが僕のカードの中から一枚取る。
ジョーカーではなかったが、坂本くんは数字が揃わなかったようで動きがない。
次は再びセルフの番になり、一枚取った。
今度は揃ったようで10のカードを2枚中央に捨てる。
こうなるとさっきの技は使えないので、適当に一枚取った。
運よく13が2枚揃い、中央に捨てる。
徐々に差が縮まって来たのではないだろうか。
坂本くんが1枚取ると、今度は揃ったようで11を中央に捨てる。
先程差が縮まったと感じたのも束の間、さかもとくんがもうあがりそうだ。
セルフの番、6が揃い中央に捨てる。
セルフとはいい勝負を続けておりどちらが勝つのか予想が付かない。
現時点で僕とセルフが4枚、さかもとくんが1枚だ。僕はセルフからカードを1枚取るが揃わない。
次の坂本くんも揃わず。
セルフが良い引きを見せ、9が揃う。
ヤバい、僕以外のふたりがあがる直前になっている。僕は天に祈りながらカートを一枚取ると7が揃う。
残りは僕が3枚、坂本くんとセルフが1枚だ。
そろそろジョーカーを押し付けないと不味い頃合いだ。
坂本くんが取る。運よくジョーカーを回避して1を取りあがってしまった。
後はセルフと僕の一騎打ちだ。
僕のカードは残り2枚でここでジョーカーをセルフに取らせなければ負けてしまう。
セルフが僕のカードを1枚取ろうと手を伸ばしてくる。
僕はドキドキしながら天に祈り、結果を待つ。
結局セルフが取ったのは4であがってしまった。
「うわー、負けた」
最終結果は1位坂本くん、2位セルフ、3位僕という結果になった。結局、最初から最後までジョーカーが移動することはなく僕の所に留まり続けたのだった。
「ついてないや。ちぇ」
「そんなこともあるよ。今日はありがとう。それじゃ僕は帰るね。セルフのこと色々と知れて楽しかったよ」
「家の前まで送るよ」
僕と坂本くんと、ついでにセルフは部屋を出て、ふたりは玄関で靴を履き、庭を横切って道路まで来た。
「それじゃ、また明日学校でね。バイバイ坂本くん」
「バイバイ大場くん」
「またのお越しを、お待ちしてます」
坂本くんと別れの挨拶をすると僕は家に入り、靴を脱ぎながらセルフを見て思う。
「セルフ用の足を拭くぞうきんを玄関に用意しとかないといけないね」
セルフは靴を履かないので、今みたいに外に出た時のために、必要だろう。
僕は居間に向かい、テレビを見ていた母にそのことを告げる。
「そうね。今度用意しておくわ。それはそうと坂本くんは帰ったの?」
「うん。さっき帰ったよ」
「セルフと一緒に遊んでどうだった? 楽しかったかしら」
「楽しかったよ」
「それはよかったわね。これからも聡と遊んであげてねセルフ」
「かしこまりました」
母の言葉にセルフは当たり前のように答えるのだった。
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