第12話 セルフのことを友達に話す
僕は坂本くんの席の横まで行くと、待ち切れないとばかりに口を開いた。
「坂本くん。放課後になったよ。話を聞いてよ」
「うん。いいよ、大場くん。話を聞くのは教室の中の方がいいの? 帰りながらじゃ駄目かな。僕早く家に帰ってゲームの続きがしたいんだ」
僕と坂本くんは家が同じ方向なので、帰りながら話しても問題はないだろう。
「帰りながらでもいいよ」
「ありがとう」
僕たちは4年3組の教室を出て、同級生たちが沢山いる廊下を歩きながら話を始めた。
「昨日の話なんだけど、僕の家にお手伝いロボットが届いたんだ」
「へえ、そうなんだ。そういえばこないだロボットを見に行ったっていう話をしてたね」
「そうなんだ。その時に買ったロボットが昨日僕の家に届いたんだ。セルフっていう名前なんだけど」
僕は昨日の出来事を細かく坂本くんに話して聞かせた。
僕が話をする間、坂本くんは「へえ」とか「ほう」とか相槌を打ちながら聞いていた。
学校の階段を下り、下駄箱で靴に履き替え、学校の校門を出たくらいまで僕の話は続いた。
とにかく沢山セルフのことを坂本くんに喋りたくて仕方がなかった。
僕の話がひと段落つくと坂本くんが何気ない調子でぽつりと告げた。
「いいな。僕もそのロボットを見てみたい」
「本当に? じゃあ家に見に来る?」
「いいの? 見に行っても」
「うん。いいよ。今日これからおいでよ。あっ、でも今日は早く帰ってゲームをしたいんだっけ」
坂本くんは少し考える素振りを見せ、結論が出たのか僕に言った。
「うーん、ゲームは後でもいいや。それより今は一度お手伝いロボットを見てみたい」
「いいよ。僕は大歓迎だよ」
「大場くんの家に行くのもなんだか久しぶりだよ」
「そうだね」
坂本くんと僕は学校ではよく話すけれど、学校の外でも交流が多いわけではない。
坂本くんは今はゲームに夢中らしいが普段はサッカーが好きで、放課後は他のクラスメイトと公園でサッカーをすることがほとんどだ。
僕がサッカーをすれば倒れること間違いなしなので、一緒にサッカーをすることは出来ない。
なので学校外で坂本くんと遊ぶのは稀で、僕としては寂しい思いをしている。
ちなみに遊ぶときは僕の家で一緒にゲームをして遊ぶことがほとんどで、外に出て遊ぶことはない。
僕はそれで十分楽しいが、坂本くんはやはり外に出て元気にはしゃぎ回りたいと思うのかもしれない。
だからあまり僕の家に来てくれないのではと思うこともある。
しかしそう思っても改善をする考えが浮かばず、現在に至るというわけだ。
今日は坂本くんがセルフのことに興味を持って家まで来ることに素直に嬉しく感じる。
セルフのことがきっかけでもっと家に坂本くんが来てくれればいいなと思う。
僕らは道路を少しペースを落として歩き、僕の家へと向かう。
僕の話は終ったので今度は坂本くんのゲームの話を聞きながら歩き、そして僕の家に到着した。
「相変わらず大きな家だね。僕の家と大違いだ」
「お父さんが立派で沢山お金を稼いでいるからだよ」
僕らは庭を横切って、玄関の前までやってきた。
玄関の扉を開けて中に入ると僕は家の中に向けて「ただいまー」と声をかけた。
坂本くんも「お邪魔します」といって玄関に入り、僕たちは靴を脱いで家に上がった。
すると廊下の奥から歩いてセルフが現れ、それを見た坂本くんのテンションも上がる。
「うおー、いきなり来たー。歩いてるー」
まるで動物園で珍しい動物を見たかのような坂本くんの様子に僕は嬉しくなり、家に連れてきて良かったと思った。
「ただいま、セルフ」
「おかえりなさいませ、坊ちゃん。おや、そちらの方はどちらさんでしょうか」
「うおー、本当に喋ってるー」
興奮気味の坂本くんは置いておいて、僕はセルフの疑問を解消すべく答える。
「こっちは友達の坂本くんだよ」
僕が紹介するとセルフは坂本くんの方を向き、頭をぺこりと下げてお辞儀をした。
「初めまして、こんにちは、セルフです。坊ちゃんのお友達の坂本様ですね。記憶しました」
「今日は坂本くんにセルフを見せようと思って連れてきたんだ。セルフは今何をしてるの?」
「坊ちゃんのお出迎えに来ました」
セルフが真面目にそう答えたが、聞きたいことはそういうことではない。
質問の仕方が悪かったのかなと思い、言葉を選びならが再びセルフに聞く。
「えっと、僕のお出迎えの前は何をしてたの?」
「特に何もしておりませんでしたが、あえて言うと休憩でしょうか」
「そうなの? 家のお手伝いはどうしたの?」
「すべて片付けてしまいました」
「えー、そうなの。せっかく坂本くんにセルフがお手伝いしているところを見せようと思ってたのに」
僕が玄関を上がったところで嘆いていると、母がやってきて告げた。
「何だかにぎやかね。あら坂本くんじゃない。お久しぶりね」
「こんにちは、おばさん」
「ねえ、お母さん。セルフが今日のお手伝いはすべて終ったって言ってるけど本当?」
「ええ、本当よ。仕事が早くて助かるわ」
「今日せっかく坂本くんにセルフのお手伝いしてるところを見せようと思って連れてきたのに。全部済ませているなんて、僕がっかりだよ」
僕が落ち込んでいると、坂本くんが気遣うように僕に言う。
「僕、ロボットが歩いたり話したりするところを見るだけで満足だよ」
坂本くんはそういってくれるけど、僕としてはせっかくなんだからセルフが働いている姿を見せてあげたかった。
「ねえ、お母さん。本当に手伝ってもらうことは何もないの? 掃除も洗濯も料理も本当に終っちゃったの?」
「掃除と洗濯は終っちゃったわね。料理は今日は母さんが作る予定だけど……」
「料理をセルフにも手伝ってもらったらいいんじゃない」
「まだ4時にもなってないし、夕ご飯の支度は少し早いのよね」
母はうーんと少し考えて、それから何か思いついたのか、笑顔で告げた。
「セルフと聡と坂本くんでお父さんが集めているレトロなおもちゃで遊んだらいいんじゃない。どうかしら聡。セルフにやらせたら面白そうじゃない」
「それは面白そうかも」
「じゃ、決まりね」
父は昔のおもちゃの収集癖があって、古いおもちゃを良く買ってくる。
けん玉にコマにカルタ、ボードゲームなど、今ではあまり遊ばれないものから未だに遊ばれるものまで色々ある。
もちろん家にはオセロや将棋、囲碁、麻雀など有名どころもあるが、どれもあまり使われることはない。
僕はオセロと将棋ならたまにやるがもっぱらネットゲームでやるだけだ。
家で一番遊ばれるのはテレビゲームを除けばカードゲームのトランプだろう。
「とりあえず坂本くんを部屋に案内してあげたら。いつまでもこんなところにいても仕方がないでしょ」
「そうだね。それじゃ坂本くん僕の部屋まで行こうか。後セルフもついてきて」
「うん」
「かしこまりました。坊ちゃん」
僕は坂本くんとセルフを引き連れて、自分の部屋まで向かうのだった。
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