第11話 セルフのいる朝、そして学校へ
朝、目覚ましの音で目が覚めた僕はベッドから這い出て小学校の制服に着替え、朝ごはんを食べるために食堂に向かった。
食堂に入ると母とセルフがいて、僕を見つけて声をかけてくる。
「おはよう。聡」
「おはようございます。坊ちゃん」
「お母さんとセルフ、おはよう」
僕がテーブルの椅子に腰かけると、セルフと母が一度台所に引っ込んで、その後セルフが朝食をお盆に乗せて持ってきた。
今日の朝食はバターロールにレタスと卵を挟んだものや、ブルーベリーと苺、生クリームを挟んだものがある。
セルフの後ろから母がコップに注いだ牛乳を持って現れて、僕の前にコップを優しく置いて告げる。
「今日の朝食はセルフと一緒に作ったわよ。レタスと卵のがセルフの作ったもので、果物が挟んであるのが母さんが作ったものよ。たくさん食べてね」
たくさんというだけあって目の前にはバターロールサンドが6個もあり、とても全部食べれそうにない。
「ちょっと作り過ぎじゃない。僕こんなに食べられないよ」
「別に全部食べる必要はないわ。ただせっかくだしどちらも最低一つは食べてね」
母が穏やかに微笑んで言い、テーブルの向かいの椅子に座る。
あれは感想を言ってほしくて仕方がない時の顔だ。
僕はまずセルフの作ったバターロールサンドに手を伸ばし、口に運んで味わう。
「どうかしら」
「普通に美味しい」
昨日のカレーもそうだがセルフの料理は今のところオーソドックスで変化がない。
良くも悪くも普通という言葉を付けたくなる味だ。
僕はセルフの作ったバターロールサンドを食べ終えると一度牛乳を飲み、それから母の作ったものに手を伸ばした。
こちらは見るからに冒険心に溢れていて、それでいて僕の好みを熟知した攻めの姿勢を感じる。
僕はその攻め攻めのバターロールサンドにかぶりつき、よく味わう。
「どうかしら」
僕は口の中に心地よい甘味と酸味を感じて、頬が落ちそうになる。
「とても美味しい」
「よかったわ。ちなみにどっちの味が聡は好みだったかしら」
母が嬉しそうに微笑んで、僕の方を見ながら、話しかけてくる。
「お母さんの作った方が僕は好きだよ」
「ありがとう、聡。料理でセルフに負けたら悲しんじゃうところだったわ母さん」
得意げに喜ぶ母の様子を見ながら僕は、母の作ったバターロールサンドを食べ終えた。
「好きなだけ食べていいのよ」
さあ、さあ、とばかりに母は僕に薦めて、仕方なく僕はもうひとつ母の作った方を手に取って食べた。
3個目を食べ終えたら結構お腹がいっぱいになったので、もうそこでストップして食事を終えた。
最後に残っていた牛乳を飲み干して「ごちそうさま」を言った後に、余ったバターロールサンドをどうするのか尋ねる。
「まだ半分残っているけどこれはどうするの?」
「母さんが後で食べるわ」
それから僕は登校時間まで居間でテレビを見て時間を潰し、家を出る時に母とセルフが玄関先まで見送りに来た。
「それじゃ聡。頑張って勉強してくるのよ。行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃいませ、坊ちゃん」
「うん。行ってくる」
僕は歩いて広い庭を横切り道路に出て、小学校への集団登校の集合場所へと向かった。
集合場所に到着すると既に来ている人は半分くらいで、しばらく一人で佇んで全員揃うのを待つ。
全員が揃うと6年生を先頭に学校へと向かい歩き始めた。
学校までは10分程で到着し、下駄箱で上靴に履き替え、それぞれが自分たちの教室へと向かっていく。
僕も自分のクラスである4年3組の教室へと向かうために、階段をゆっくり登った。
4年3組の教室に着くと、ランドセルを下ろして自席に座り、教科書を机の中に移動させた。
空のランドセルは教室の後ろのロッカーに入れて、僕は自席に戻り周囲を見回す。
友達の坂本くんはまだ登校していないのか、教室内に見つけられず、僕は少しがっかりする。
僕は今、唯一の話し相手である坂本くんにセルフのことを話したくて仕方がなかったのだ。
だが僕は焦ることでもないと自分に言い聞かせ、坂本くんが登校してくるのを静かに待つ。
坂本くんが慌てて登校してきたのは8時30分くらいで、朝の会まで後5分しかない。
僕は仕方なく朝に話すのは諦め、後にしようと考える。
何となくもやもやした気持ちで朝の会を迎え、担任の先生の朝の挨拶もろくに頭に入らないまま気が付けば朝の会が終っていた。
セルフのことを話したいと考えすぎて頭が他のことに回らない。
これではいけないと思い頭からセルフのことを追い出すが、気が付けば坂本くんに話せばどんな反応をするだろうと考え興奮していた。
1時間目が始まり教科書を開いても集中力が衰えたままで、黒板に書かれた言葉をノートに書き写すのがやっとだった。
先生の言葉はすべて右から左に通り抜け、まるで頭に残らない始末で、家に帰ったら復習が必要だなと感じた。
1時間目が終わり2時間目が始まるころには少し冷静さを取り戻し、授業に集中できるようになった。
3時間目と4時間目の時には普段と同じくらいの集中力を発揮して、先生の話を興味深く聞くことが出来た。
これまでの授業の合間の休み時間は坂本くんに視線を向けたが、坂本くんは机に突っ伏して寝ているようだった。
昨日夜更かしでもしたのだろうかと考え、話しかけることはせず様子を伺っていた。
給食の時間になり、給食当番たちが教室を出ていき給食を運んでくる間も坂本くんは自席で寝ていた。
僕が話しかけようか迷っている内に時間は過ぎ給食当番たちが帰ってきて、給食を配り始めた。
僕がのんびりと列に並ぶと、坂本くんが目を覚まし大あくびをしながら僕の少し後ろの列に並んだ。
僕は列を抜け出して、すかさず坂本くんのすぐ後ろに並びなおした。
「眠そうだね。坂本くん」
僕が声をかけると、坂本くんは振り返り、眠そうな目で僕を見る。
「うん。昨日ちょっとゲームに夢中で夜遅くまでやめられなかったんだ」
「そうなんだ」
「そのせいで眠くて眠くて。今日は授業中も眠くて仕方なかったよ」
「坂本くん、休み時間もずっと寝てたもんね。それはそうと面白い話があるんだけど、給食を食べ終わったら聞いてくれる?」
「うーん。お昼休みは寝たいんだよね。放課後じゃダメかな」
「放課後か、まあいいよ」
少し話をするのが先延ばしになったけれど、約束を取り付けたので良しとしておく。
僕らは喋りながら列を進み、お盆を手に取って給食を受け取り、お盆に載せていく。
献立をすべて受け取ったら自席に戻り、皆の給食の準備が整うのを待つ。
準備が整い皆で「いただきます」を言ってから食べ始めた。
ゆっくり給食を食べ終えたら、いつものように教室内でのんびりと過ごす。
今日の1時間目の授業の復習をして時間を過ごし、たまに坂本くんの方へ目をやると、寝ている姿が確認できた。
昼休みが終わると掃除の時間が来て、僕は机をぞうきんで水ぶきしていった。
掃除が終わり5時間目が始まる前の短い休み時間は、坂本くんはもう自席で寝ていなかったので、眠気が和らいだのかもしれない。
5時間目と6時間目の授業も僕は問題なく集中して受けることが出来て、気付けば下校時間が徐々に近づいてきた。
最後の終わりの会が始まると、僕は再びセルフのことで頭がいっぱいになり、早く終われと心の中で叫んでいた。
そしてようやく先生とクラスメイト達にさよならの挨拶をして放課後がやってきた。
僕は早速、坂本くんのところまで行って、セルフのことを話して聞かせようと思った。
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