第38話

最後の復讐は今までで最も派手なものにしたい。



そう考えた私は近所の大型スーパーにやってきっていた。



平日の夕方ということで主婦層の買い物客が多く、駐車場もいっぱいだ。



小さな子供連れの母親が「駐車場で走っちゃダメよ!」と、大きな声で注意している。



その様子を見ていたら自分の幼い頃を思い出した。



私もよく両親から同じように叱られていたっけ。



横断歩道を渡るときなんか手を痛いほどに握られて歩いたんだ。



その頃から私は決して駐車場では走らないし、横断歩道では青信号でも一旦止まって左右を確認するようになった。



だから今まで交通事故とは無縁の人生。



でも、ごめんねお母さん。



今日はその教えを少しだけ破らせてもらうね。



心の中でそう伝えると、私は大きなトラックの影に身を隠した。



トラックの運転手はついさっき店内へ入っていたばかりだから、しばらくは戻ってこないはずだ。



私はトラックの隣の車に女性が乗り込むのを確認した。



その車はバックして駐車場から出るつもりみたいだ。



もちろん運転手の女性はしっかりと後方確認をして歩行者がいないことを見ている。



そんな中、私はトラックの影から飛び出した。



女性からすれば突然歩行者が走って出てきたように見えただろう。



ゆっくりとバックしていたが、ブレーキが遅れた。



車は私にぶつかってからようやく停止したのだ。



「大丈夫!?」



慌てた様子で女性が車から飛び出してくる。



少しぶつかられた程度でも、やっぱり痛いものだ。



倒れ込んでしまった私は女性の手をかりてよくやく立ち上がった。



車にぶつかった腰と、コンクリートについた手が痛む。



「ごめんなさい、すぐに警察を呼ぶからね」



女性は青ざめた顔でそういったのだった。


☆☆☆


警察のお世話になるのは少し面倒だったけれど、仕方がない。



両親も呼ばれ、状況説明をする。



私はできるだけ女性の立場が悪くならないように、警察に説明した。



それが終わったら今度は病院だ。



先に病院に行かせてくれなかったことに腹を立てながらも事故現場から近い総合病院へと向かった。



「本当にもう交通事故だなんて、心臓が潰れるかと思ったわよ」



お母さんは大げさではなくそう言って、自分の胸を抑えている。



簡単な検査が終わって骨折も何もないということで、レントゲンやCTを取ることもなく待合室へと戻ってきていた。



大丈夫だと思うけど、もしこれから症状がでるようだったらまた来てくださいと言われて、シップだけ処方された。



これでようやく帰れると思ったときだった。



待合室に見知った顔を見つけて私は思わず立ち止まっていた。



普段なら絶対に立ち止まらないし、気が付かないフリをしたはずの、太一だ。



太一もこちらに気がついてすぐに駆け寄ってきた。



まさかこいつ、ここまでついてきたの?



そう思って警戒したが、太一の座っていた横には1人のおばあさんがいて、その人はどこか太一と雰囲気が似ていた。



「偶然だね」



少し頬を赤くして言う。



「本当にね」



私はもう太一に興味をなくし、ぶっきらぼうに返事をした。



「どうしてここに? もしかして怪我を見てもらったの?」



その言葉に私はとっさに人差し指を立てて口元に当てていた。



妙な傷が体にあると両親にバレるわけにはいかない。



「別になんでもないから」



早口にそう言って私は太一に背を向けた。



太一にここにいる理由を知られないほうがいいと、本能的に感じた。



私は逃げるようにして病院を出たのだった。

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