第21話

私は海をイメージした青いカレーライスを注文して、多美子はシロイルカをイメージした白いオムライスを食べていたときだった。



「安心?」



カレーを食べる手を止めて聞き返す。



「うん。学校ではあまり笑っている印象がなかったから」



そう言われて私は口の中に残っていたカレーをゴクリと飲み込んだ。



「ごめんね変なこと言って」



多美子は笑ってオムライスを口に運ぶ。



ちょうどシロイルカのしっぽの部分だ。



「多美子のおかげだよ」



私はぽつりと呟いたけれど、その声は多美子まで届かなかったのだった。


☆☆☆


楽しい休日はあっという間に終わり、また登校日がやってきていた。



だけど今日は以前までとは違って体が軽く感じられた。



それもきっと多美子のおかげだと思う。



だけど根本的なことはなにも変わっていない。



私のイジメは終わったわけじゃなくて、エスカレートしている。



楽しいことがあった後だから、普段のイジメに心が折れてしまうかもしれない。



それでもこうして学校へ向かうことができるのは、やっぱり多美子のおかげだった。



「有紗おはよう!」



教室へ入ると多美子がまっさきに声をかけてくれる。



それに釣られるようにして数人のクラスメートも私に挨拶をしてくれた。



「水族館面白かったねぇ」



「本当だね。また今度行こうね」



互いにお揃いて買ったシロイルカのキーホルダーをカバンに付けている。



誰かとおそろいのものを身につけるのも随分と久しぶりなことだった。



「ねぇ多美子……と、井村さん」



多美子の友達が慌てた様子で教室内に入ってきて、私と多美子を交互に見つめた。



「どうしたの?」



多美子が聞くと、その子は気を取り直したように多美子へ向き直る。



「今日転校生が来るって話し聞いた?」



その子の言葉に私と多美子は顔を見合わせた。



それは初耳だった。



てっきり夕里子と由希の話だと思っていたので少しだけ拍子抜けしてしまう。



あの3人組はまだ登校してきていないみたいだ。



「もうすぐ夏休みなのに?」



多美子の言葉に相手の子も頷き、「家庭所事情っていう噂だよ」と、答えた。



そう言われると昨日の3人の話を思い出してしまう。



今回の転校生もなにか抱えているものがあるのかと思うと、私の気持ちは重たく沈んでいってしまうようだった。



だけど、実際に転校生の顔を見たときそれは杞憂だったと感じた。



柔道をしているというその男子生徒は爽やかな笑顔で「黒坂旭です」と、名乗った。



着痩せするタイプのようで制服を着ている黒坂くんはそんなに筋肉質には見えなかった。



加えて背が高くて顔が整っていることで、クラスの女子から黄色い悲鳴があがったくらいだ。



「席は井村の隣が空いているから。そこでいいか?」



「どこでも大丈夫です」



先生に名前を呼ばれて背筋をピンと伸ばす。



女子生徒たちから「いいなぁ」という声が漏れて聞こえてきた。



黒坂くんは私の左隣に座ると「教科書とか新しいのがなくて、見せてもらえる?」と、さっそく声をかけてきた。



もちろんだ。



断る理由なんて少しもない。



私はオーバーなくらい頷いて、黒坂くんと席をくっつけたのだった。

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