第20話

次の日は学校が休みだったので、夕里子と由希の様子を見ることができなくて残念だった。



学校があれば2人は昨日の出来事に尾ひれを付けていい振る舞うところだろう。



自分たちがビビっていたことだけは伏せて、男の悪口を言う姿は簡単に想像できた。



今日も暇な休日を過ごすことになるんだろうと思っていた朝、突然多美子からのメッセージが届いた。



《多美子:おはよう!》



《多美子:今日って、なにか予定ある?》



そのメッセージを見たときまだベッドの中でゴロゴロしていた私は、あくびをしながら《なにもないよ》と、返事をした。



私が休日に暇をしているのはいつものことだ。



時々家族と出かける以外はだいたい家にいて、本を読んだりゲームをしたりしている。



《多美子:じゃあ、遊びに行かない?》



まだベッドの中にいた私は多美子からの誘いに飛び起きていた。



遊びに行く?



私と多美子が休日に?



それって本当の友達同士みたいだ!



心臓は高鳴り、嬉しさがこみ上げてくる。



だけど友達と遊ぶのも久しぶりな私はどう返事をすればいいかわからなくなった。



多美子と2人でどこに行けば良いのかも、どんな話をすればいいのかもわからない。



そう思うと胸の高鳴りはどんどんしぼんでいってしまう。



だいたい、私と遊んだって多美子は面白くないかもしれない。



スマホを握りしめてベッドに座ったものの、返事ができないまま数分が経過した。



《多美子:水族館のチケットをもらったの》



《多美子:それとも、どこか行きたい場所ってある?》



そのメッセージに私は飛び上がる思いだった。



水族館!



それなら無理に会話を探さなくたって話題はいくらでもあるはずだ。



《有紗:私、水族館に行きたい!》



そう返信をして、私は子供のようにはしゃぎながらクローゼットを開けたのだった。


☆☆☆


友達と水族館!



この私が?



着替えて外へ出ても未だに信じられない気持ちだった。



もしかして多美子に嘘をつかれているんじゃないかと不安な気持ちが浮かんでくる。



でも大丈夫。



相手はあの多美子だ。



私に意地悪なことなんてするはずない。



そう思って約束場所のバス停に到着すると、多美子はすでに到着していた。



ツバの広い麦わら帽子に白いワンピースを着ていて夏っぽさ満載の格好だ。



「ごめん、遅れちゃった」



「全然。バスが来るのは5分後だから大丈夫だよ」



多美子はそう言って水族館のチケットを見せてくれた。



嘘じゃなかった……。



嬉しさが胸にこみ上げてきて泣きそうになってしまう。



どうにか涙を押し込めて2人でバスに乗り込むと、他にも水族館へ向かう家族連れとかカップルの姿が多く見られた。



「やっぱり私服だと雰囲気変わるよね。そのブラウス可愛い」



多美子に言われて自分の服を見下ろした。



遊びに着ていく服なんてあまり持っていないから、無難に白いブラウスと紺色のスロングカートを選んできた。



襟元がレースになっていること以外はほとんど学校の制服と変わりない。



「そ、そうかな?」



褒められることにもなれていなくてしどろもどろになってしまう。



「多美子こそ、ワンピース可愛いね。夏っぽくて」



「ありがとう。でもこれ安いんだよ」



多美子は激安のアパレル店のお店を口にして、2人して笑った。



多美子が言うには安くて可愛いものは実は沢山溢れているから、後はどうやってそれを見つけるか、ということらしい。



最初からブランドじゃないとダメって子には絶対に見つけられない宝物があるんだって。



そういう考え方がとても好きだと感じた。



多美子と過ごす時間は楽しくて、会話が途切れることもなく水族館へ到着していた。



これなら行き先は水族館でなくてもよかったかもしれない。



そんな風に感じながら2人してジンベエザメとか、大ダコとかを見回る。



「なんか安心した」



多美子がそう言ったのは休憩のために入ったレストランでだった。

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