第17話

☆☆☆


3人ともいなくなってしばらくすると、自然と笑いは収まってきた。



どうしてあれだけおかしかったのか自分でもよくわからない。



ただなんだか、どうでもよくなった気がした。



笑いながら、今日は大丈夫だったけれど、近いうちに援助交際もさせられるのかなぁとか、そんな考えが浮かんできていた。



本当に転落するときはあっという間だ。



止まれない、止まらない。



私は1人で起き上がり、足や手の痛みに顔をしかめた。



踏みつけられた手の甲からは血が滲んでいたし、太ももには広範囲に渡って青あざができ始めている。



由希のやつ、本気でやったみたいだ。



とにかくスマホを取られなくてよかった。



これがなくなったら、私は自分の心を守ることができなくなってしまう。



スマホを取り出すとすぐにアプリを起動した。



痛み手に顔をしかめながら今の時間を記入する。



追体験させる相手は誰にしよう?



3人共にしようか?



それとも1人ずつ順番に体験させてもいいかもしれない。



考えた末、今回は夕里子と由希の2人に追体験をしてもらうことにした。



真純は……特別だ。



あとの2人みたいに簡単じゃないことくらい私にだってわかっている。



真純はいつでもあの2人と一緒にいるしリーダー格だけれど、基本的になにもしてこないから。



真純が私に直接なにかしはじめたのはイジメがエスカレートしたここ数日のことだった。



未だに真純がなにを考えているのか、目的はなんなのかわからない。



とにかく、今回はこれでいい。



私はヨロヨロと立ち上がり、教室へと戻ったのだった。


☆☆☆


「私のせいでごめんね」



教室へ戻ると泣きそうな顔の多美子がいた。



私の机の上には多美子のお弁当箱がのせられていて、まだ手つかずだ。



一緒に食べるために待ってくれていたみたいだ。



昨日まではそんな子ひとりもいなかったから、傷の痛みなんてすぐに忘れてしまった。



「別に多美子のせいじゃないよ。それよりお腹へった。お弁当にしよう」



私は早口にそう言って、自分の席に座る。



多美子もおずおずと自分の椅子を持ってきてそこに座った。



「多美子のおかずおいしそうだね! ひとつ交換しようよ」



「いいよ。なにがいい?」



「タコさんウインナーかな」



「じゃあ私は卵焼き」



こんな風に友達をお弁当のおかずを交換し合うのが憧れだった。



私には無縁な景色だと思っていた。



「ねぇ、本当に大丈夫だった?」



食べている途中で多美子の視線が私の手のひらへと移動した。



「これくらいどうってことないよ」



そう言って手を握ったり開いたりしてみせると、さすがに痛んだ。



でも大丈夫。



もう復讐の準備はしてあるんだから。



それに、イジメられればイジメられるほど、あいつらにやり返すことができるんだ。



こんなに楽しいことはない。



思わず笑顔になる私を見て、多美子は安心した方に微笑んだのだった。


☆☆☆


そのまま放課後になっていたが、夕里子と由希になにかが降り掛かった様子はなかった。



暴力的なことがあればあの2人が黙っているはずがないし、学校内だって騒がしくなっているはずだ。



カバンに教科書を詰めながら3人の様子を横目で確認していると、今日は珍しく私に声をかけてくることなく教室を出ていってしまった。



私は慌ててその後を追いかける。



放課後も3人に呼び出される覚悟をしていたが、昼間呼び出したためかそれがなかったので今後の展開を確認することができない。



私は前方に3人の姿が見えたので歩調を緩めたのだった。



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