第16話

☆☆☆


この学校の屋上は昼休憩時間に開放される。



木製のベンチには4人の女子生徒がお弁当箱を広げていて、バドミントンで遊んでいる子の姿もあった。



以外と人が多くて3人は一瞬たじろいだが、私はそのまま貯水槽の裏へと連れて行かれてしまった。



貯水槽の裏は日陰になっていて今の時期でも比較的過ごしやすそうだ。



しかしそこにはベンチがなくて、お弁当を食べている生徒はいなかった。



へぇ、こんなところも視覚になってるんだ。



感心していると突然夕里子に突き飛ばされた。



私はコンクリートの上に転がり、起き上がる暇もなく真純が馬乗りになってきた。



私の体の上で手鏡を取り出して自分の顔を確認しはじめる。



完全に椅子扱いみたいだ。



「三万円は?」



鏡から視線を外さずに真純が言うので、昨日の出来事をようやくおもだした。



そういえば三万円もってこいとか言われていたんだっけ。



すっかり忘れてしまっていた自分に驚いた。



「持ってない」



簡潔に答えると、由希が私の太ももを踏みつけてきた。



力を入れられて痛みが走る。



「調子に乗ってんじゃねーよ!!」



夕里子が他の生徒には聞こえないように私の耳元で怒鳴り、鼓膜が破れてしまうんじゃないかと不安になった。



夕里子の大声のせいで頭がクラクラしている。



「金持ってこいって言ったら持ってくるんだよ!」



由希に手を踏みつけられた。



まるでムカデを踏み殺すときみたいに、ジリジリと足首をねじる。



「ないんだから仕方ないじゃん」



私は痛みに顔を歪めて絞り出すように言った。



一夜で三万なんて稼げるわけがない。



「だったら今日の放課後お客さんを紹介してあげるから、行ってきてよ」



真純が私を見下ろして言った。



お客さん?



けげんな表情を浮かべると、真純がスマホ画面を突きつけてきた。



そこには一夜限りの出会いを求める男女の書き込みが沢山あった。



いわゆる援助交際系のSNSだ。



一瞬にして血の気が引く。



こんなものに参加させられるなんて考えただけで背筋が寒くなる。



見知らぬおっさんの前で裸になるなんて死んだほうがマシだ。



「ほら、この人の書き込み見てみなよ。女子高生が相手なら5万もくれるって!」



夕里子が横からスマホを覗き込んで興奮した様子で言う。



「じゃあこの人とアポとってあげるから、写真撮らせてね」



真純はそう言うと私へスマホカメラを向けた。



合う前にお互いの顔写真を送り合うみたいだ。



私はとっさに顔をそらした。



「顔をこっちに向けて」



真純の命令に夕里子と由希が動く。



2人は私の顔を両手で掴んで無理やりカメラの方へ向けようとする。



私はそれに抵抗するので、頬がぐにゃりと歪んで変な顔になっているのがわかった。



「ちょっと、そんな顔じゃ誰も買ってくれないでしょう?」



「そう言われても」



「おい、抵抗すんなよ!」



2人も必死だけれど私も必死だ。



絶対にまともな写真なんて撮らせてやるものか。



必死に抵抗しているうちになんだかおかしさがこみあげてきて、私は笑い始めていた。



「アハハハハハッ! アハハハハハッ!」



その笑い声に由希と夕里子の手の力が緩んだ。



顔が自由になった私はさらに声を上げて笑い、するとご飯を食べていた生徒たちが何事かと近づいてきた。



真純はチッと小さく舌打ちをして私の上から立ち上がる。



「気持ち悪。行こう」



真純の言葉に2人は同時に頷いて3人は私を置いて屋上から出ていったのだった。

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