第3話

ハナが入院している病院は山の麓から車で約30分ほどのところにある。

ハナの父ダキヤは車でハナのいる病院へ向かっていた。

いつも週に二回はハナのもとへ訪れるようにしている。


ハナは病室で日記を書いていた。

昨日起きた出来事を彼女は日記を書いているのだ。

ハナの日記はいつも同じような内容が書かれていた。


「リハビリがつらい。ずっと病院でつまらない」


簡単に言うとそのようなことが2~3行ダラダラと書かれていた。


しかし、今日の日記はいつもと違った。

いつもの愚痴混じりの内容ではなく、新たな出来事によって明るい内容が書かれていた。


「昨日久しぶりに外の人と話をした。楽しかった」


そう書かれていた。

昨日はじめて病院の外に出たこと、そして外でニーニと出会ったこと。これらが彼女にとって目新しく、今までのつまらない日々に対して充実さを与えていた。

その結果、今日の彼女の日記は前向きな内容がツラツラと書かれていたのだ。


ハナ

(今日楽しみだな)


ハナは昨日、ニーニとの別れ際にまた会うことを約束していた。また病院を抜けて昨日の場所へ向かうつもりだ。


ガラララ


ハナの病室のスライドドアが開かれた。


ダキヤ

「ハナ!」


ハナ

「パパ」


部屋に入ってきたのはハナの父、ダキヤだった。


ダキヤ

「ハナ体調はどうだ?」


ハナ

「うん………特に」


ダキヤ

「そうか………」


ハナ

「………」


ダキヤ

「ハナ。大分体はよくなってるみたいだな」

「リハビリも慣れたものだろう?」


ハナ

「………うん」


ダキヤ

「………」


会話が続かない。

というのはハナがなかなか退院できないため、彼女は父にも先生にもあまり口を聞かなくなった。

いつも父は来る度に話しかけてくれるが、

段々口数が少なくなってきた。


ダキヤ

「ハナ………もう少し体調が良くなったら一緒に外出しような」

「先生もそろそろ許可してくれるだろうし」


ハナ

「うん………」


(嘘。絶対外には出してもらえない)

(もう少しで出れる出れると言われてから数年経った)

(何一つ変わらない………)

(先生もパパも嘘つきだ)


しばらくハナとダキヤは会話をし、1時間ぐらい経った。


ダキヤ

「そろそろ時間か」

「ハナ。そろそろパパは仕事に行くよ」

「また明後日な」


ハナ

「うん。わかった」

「気をつけて行ってね」


ダキヤ

「ああ」


ダキヤは手を振り、部屋から出ていった。


ダキヤは病院の外へ出て、車に向かった。

車の側に運転手が立って待っていた。


運転手

「お嬢様どうでした?」


ダキヤ

「相変わらずだ」


ダキヤと運転手は車に乗り込み、山の麓へと車を走らせる。


ダキヤ

「そろそろ一回は外に出してやらねば………ずっと病室にいるのは相当キツそうだ」


運転手

「それはそうでしょうね………お嬢様もよく何年もあの病院にいて下さいます」


ダキヤ

「あの娘は聞き分けのよい子だ………真面目でいい子なのだ」

「何とか外に連れて行けないものだろうか………」

「娘の病気が突発性のもので無ければ………ああ………何故私の娘がこんなことに………」

「あの娘がどうして………くそッ」


ダキヤはやるせなく、悔しい思いを噛みしめ、仕事場へと向かった。


夜中の1時頃。

ハナは昨日と同様に監視カメラの範囲外であるフェンスから外へ抜ける。

そして昨日、ニーニと出会った場所へと向かった。

幸いにも昨日と同様に月の光が夜道を照らしている。そのお陰で足元が見え、苦なく前へ進む。

歩きにくい道を突き進み、崖付近まで歩いていく。


ハナ

「あっ」


ハナはすでにニーニが来ていたことに気づく。

ニーニはハナに気づいては手を振った。

ハナはニーニに向かって歩いていく。


ハナ

「お待たせ!」


ニーニ

「やあ。僕もさっき来たばかりだよ」


ハナはニーニが何か手に持っていることに気づく。


ニーニ

「早速だけどこれ」

「昨日は本当に助かったよ。ありがとう」

「大したものじゃないけど、これ受け取って」


ニーニは手にもっていた風呂敷をハナに手渡す。


ハナ

「わあ!ありがとう!」

「ちなみにこれは何?」


ニーニ

「開けてみて」


ハナはニーニから受け取った風呂敷をほどいていく。

中にはクッキーのようなものがたくさん入っていた。

チョコレートのような甘い匂いが漂う。


ハナ

「なにこれ?」

「スッゴくいい匂いがする」


ニーニ

「これお菓子なんだ」


ハナ

「お菓子なんだ。初めて見た」


ニーニ

「食べてみて!」


ハナ

「じゃあ………いただきます!」


ハナは包みからお菓子を一取り出し、それを口許に運ぶ。


モグモグ………


ハナがお菓子を一噛みすると、口のなかにふんわり蜜のような甘いものが広がった。

歯応えはしっとりとしていて、柔らかい。


ハナ

「!」

「ん~!!」


想像以上に美味しかったためか、思わず声を出した。


ハナ

「スッゴく美味しい!なにこれ!!」


ニーニ

「口にあったみたいで良かった」


ハナ

「私こんなふわふわした食感のクッキー初めて食べた!」


ハナは次々とお菓子を手に取り、モグモグと食べていく!


ニーニ

「気に入ってもらえて嬉しいよ」

「頑張って作ったかいがあった」


ハナ

「これニーニが作ったの!?」

「お菓子作れるなんて羨ましい!」


ニーニ

「料理とか菓子づくりは得意なんだ」


ハナ

「すごいね。私料理なんてできないから」


ニーニ

「また今度何か作って持ってくるよ」


ハナ

「本当に!やった!」


ハナはお菓子に夢中になり、全て平らげた。


ハナ

「ごちそうさま!」

「本当に美味しかったよこのお菓子。今まで食べてきた中で一番美味しいかも!」


ニーニ

「本当に?そう言ってくれると嬉しいや」


ハナ

「また食べてみたいな……ところでこのお菓子なんて名前なの?」


ニーニ

「オウルっていうお菓子なんだ」

「僕たちの村ではよく祝い事などで食べるものなんだ」


ハナ

「へえ~そうなんだ………はじめて聞いた」

「ニーニの村ってここから近いの?」


ニーニ

「うんそうだね。この山の近くにあるんだ」

「ハナもここら辺に住んでるの?」


ハナ

「うん。私はすぐそこの病院にいるんだ」


ニーニ

「病院?どこか体が悪いの?」


ハナ

「そうみたい。今のところはなんともないんだけどね」

「先生が言うには突然体の調子が悪くなるんだって」


ニーニ

「突然?」


ハナ

「私もよくわかってないんだけど、突然体が動かなくなって、下手したら死んじゃうらしいの」


ニーニ

「そんな………。結構重い病気じゃないか」


ハナ

「でも今のところ全然そんな節は無いの」

「5年前に病院に来たけど、全然どこも悪くならないし、むしろ病院に居すぎて不健康になりそうなんだよ」


ニーニ

「そうなんだ………。じゃあもう退院できそうなのかな?」


ハナ

「わかんない………。先生はもう4年前からずっとそろそろ退院できるって言うんだけど、全然出れないし」

「私も全然苦しいわけでも辛いわけでもないから早く病院から出たいんだけどね」


「あー本当に早く退院したい………」


ニーニ

「毎日病院なんだ………大変だね」

「病院にはハナのお父さん、お母さんはいるの?」


ハナ

「いないよ。お父さんもお母さんも町の方に住んでて、私だけ病院にいるの」


ニーニ

「え?じゃあハナはいつも病院に一人でいるの?」


ハナ

「まあ一人じゃないけど………」

「一応先生と看護士さんがいるの。でも、友達がいないんだ私」


ニーニ

「それは寂しいね………」


ハナ

「そう思うでしょ?」

「友達ができても、皆私より先に退院しちゃうんだ………」


ニーニ

「そっか……」


ハナ

「まあ一応パパは三日に一度は顔だしてくれるんだけどね……でもほんのわずかだけだし……」

「だから私、昨日からニーニと話せて嬉しいの」

「お陰様で私久しぶりに病院の外の人と話せた」


ニーニ

「そうだったんだ………」


ハナ

「それにこんな美味しいものも持ってきてくれるし」


ニーニ

「いやいや、僕もハナのお陰で命拾いさせてもらったからね。当然のことだよ」

「ハナがいなかったら今頃僕は死んでた………」


ハナ

「私もね。ニーニがここに来てくれなかったら私も孤独死してたかも」

「だからおあいこ」


ニーニ

「ねえハナ。僕でよければまた話し相手になるよ」


ハナ

「本当に!?」


ニーニ

「だって病院で君一人じゃつまらないだろう?」


ハナ

「そんなことないよ!ニーニは話も聞いてくれるし、こんなに美味しいものも作ってくれる!最高だよ!」


ニーニ

「あははッそれならいいんだけど」


ハナ

「じゃあニーニ。明日も会ってくれる?」


ニーニ

「いいよ!明日も何か作って持ってくるよ!」


ハナ

「やった!」

「じゃあ明日もこの時間にこの場所で会いましょ!」


ニーニ

「わかった約束する」


この後も、ハナとニーニは会話を交わす。

この日を境に二人は毎日この時間にこの場所で会うことにした。

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