第2話 滑る滑る

 実は子連れ再婚の私です。

 転校早々、先生に、

「冬靴はお持ちではないですか?」って言われました。

「は?」冬靴って何??


 雪が降ったり、地面が凍ってしまうような地域では、夏タイヤ、冬タイヤがあるように、夏靴、冬靴があるのです。(いや、郷里では全部「靴」)冬靴というのは、裏に滑り止めのついた靴のことで、着物を着る人は、「冬草履ふゆぞうり」まであるそうです。

 

 冬靴を履いたとて、歩き方がわからないので滑る滑る、転ぶ転ぶ。夫の腕を掴んでないと歩くことさえできなくて、よく笑われておりました。

「垂直に踏んで、ちょっと前の方に重心を置いて、ペンギンみたいに歩けばいいんだよ」

 そう言って、私の顔を見る夫。

「ペンギン歩き、得意でしょ?」

 ……誰がペンギンだ。ペンギン馬鹿にするなよ、泳ぐ時は速いんだからな!


 勿論、運転する時も滑りまくります。


 それでも、怖々、ちょっとずつ練習しておりました。他所様よそさまに多大な迷惑をおかけするほど、のろのろ運転で。「絶対、『冬道初心者マーク』要るだろ!」と思いながら。


 そんなある日、娘が、

「お父さん間に合いそうにないから、学校に送って行って!!」 

 と言ってきました。

 待て待て、娘よ。母は学校まで運転して行ったことがまだないぞ。外気温は-10℃を下回り、道路はガチガチに凍っています。だけど義父母様には頼みにくいし、夫は忙しくて手が離せない様子。

 

 「よし、じゃあ行くか」

 おっかなびっくり、のろのろ運転に、

「お母さん、早く! 遅れちゃうでしょ!!」

 急かしまくる娘。鬼かお前は。

 あ、もうすぐ一時停止だ。と思ってブレーキを踏んだらば、シューッと滑って道路を渡る。

「はい、死んだー」

 と思いました。幸い、右からも左からも車は来てなかったので、命拾いしましたが。

 対岸まで滑っていった私は頭が真っ白。なのに隣で

「お母さん! 何やってんの! 早く早く! 遅れちゃうでしょ!!」

 と、せっつく娘。

 お前は命と遅刻しないことのどっちが大事だと思っているの?


 一番怖かったこと、本当にヤバかったのが、雨が降った日の夜のことでした。

 

 娘が6kmほど離れたバス停前から電話してきて、迎えに行くことになりました。その頃には冬道の運転にも慣れて、

 「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」

 そう言って家を出たら、雨の音。あれ? いつから降ってたんだろ? あ、でも、雨降ってるなら、道路の雪も氷も溶けてるんじゃない?

 

 これが南国にしか住んだことのない人の普通の思考。


 敷地内は砂利でごつごつしてたので気が付かず、そこから曲がる時にも気が付きませんでしたが、前述の交差点近くに来た時になってやっと気付きます。

「え? 待って、横にも滑ってない???」


 全く気が付いていませんでした。道ごと全部ブラックアイスバーンになってしまっていることに。

 え?? 雨が降ったら雪とか氷とかって溶けるんじゃないの??? 溶けたらその場で凍り直すだなんて、知らないし、もう泣きそう。


 それでも、なんとかかんとか娘をピックアップし、

「もー、お母さん早くー!!」

 などとワガママ言う鬼っ娘も、坂の縁で半分落ちかけているワゴン車を見て、恐怖の余り流石に黙り、めちゃめちゃ時間をかけて自宅に帰ると、夫、風呂入ってました。

 「雨降ってた」

 との私の言葉を聞いて、夫、驚愕。

「なんで早く言わないの?! てか、どうやって帰ってきたの?!」


 滑るところは今でもホントに怖いです。

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