午後2時から4時
お昼時を過ぎて客層が変わり始める。
家族連れが減って、学生達が増えてくる。県大の大学生に、近くの高校の生徒さん達。彼らは休日遊ぶにしても体力があるからお昼を後回しにする傾向があるのかもしれない。
若さは羨ましい。それ以上にこの町を歩んでいくであろう彼らが愛おしい。
「こんにちは〜」
鈴の音と一緒に元気な声が入ってきた。高校生三人組、首には立派なカメラを掛けている。地元の高校の写真部の子達だ。
「いらっしゃい。今日も写真撮ってたの?」
「はい。そうなんです。沢山撮りました。お腹ぺこぺこです」
そう話した女の子が写真部の部長さん。男の子二人を引っ張って大変だろうなと思っている。小さな写真部で今年卒業のこの三人しか部員はいないらしい。卒業したら部はなくなってしまう。
「ラーメン3つお願いします」
あの三人が店に来るようになったのは、春の終わりだったと思う。その頃にはこの店を冬に閉める事を決めていた。
高3になるまでこの中華料理店の事は知らなかったらしい。
最初入ってくる時、三人とも少し緊張していて男の子の一人が、二人に後ろから押されて入ってきたのを覚えてる。
三人は高校最後の一年の被写体にこの町を選んだと話した。それから外で写真を撮る時は、よく来てくれるようになった。桜の舞う春の町、紫陽花の咲く梅雨の町、夏の町、そして冬の町。
終わりへと向かう彼らの青春と、この店と重なったようだった。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
彼らの学校の生徒さんたちは、部活生を中心に良く来てくれた。
歳をとって時間の流れが早くなり、新入生が瞬く間に卒業生になっていく。そしてまた新しい生徒さんたちが来てくれる。そんな循環もこの卒業生たちで終わりだ。
その高校が文化祭をやるときには、少しだけ寄付をしていた。うちと同じように他の色々な店も出していて、当日にはパンレットの裏に名前が並ぶ。今年もしっかり載っていた。来年からこの店の名前は消えるけど、向かい側のラーメン屋がするようになるそうだ。
私は、部長の女の子の後ろにたつ男の子を見る。最初二人に押されて店に入ってきた男の子。私たちは、その男の子のことが少し気がかりだった。
その子は夜に一人で来る事があった。事情を聞いた事はないし、写真部の二人も知らないみたいだった。ただ時々、この町の夜の写真を見せてくれた。その写真には、危なげな影と美しさがあった。その子は三人の時はラーメンなのに夜は麻婆丼を頼んでいた。
「これも食べなさい。それに麻婆丼が好きなら三人の時も頼んで良いんだよ」
そう言って唐揚げをおまけした。その子は一度遠慮しもう一度繰り返すとお礼は言いながら、受け取ってくれた。彼は静かに話を始めた。
「あの二人は俺とは違うから。ちゃんとしてるんです。僕たちがラーメンを頼む時、チャーシューをおまけしてくれてるでしょ。二人は気づいてないけど。でも僕はそんな善意を自然と受容出来ないんです。俺がちゃんとしてないから。それに同じ物を3つ作る方が手間は少ないだろうし。……唐揚げ美味しいです」
妻も私もその話が忘れられずにいる。気にかける事は出来ても踏み込みは出来なかった。
「今日までお疲れ様でした。もっと早くこのお店の事を知りたかった。このお店の味は私たちの青春の味です」
部長の子の後ろをついていく男の子を見送った。彼らの人生が良いものであって欲しいと強く思う。
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