06 ちょっと待てどこ行った

 あの子どこ行った!? 待っててって言ったのに!

 すぐに戻ってくるかもと少し待ってみたけれど、アルカは帰ってこない。通りかかったクラスメイトに聞いてみたけれど、見てないと返されて終わりだった。


 何だろう? 何かイベントが起きてる?

 学園祭のイベントは攻略対象によって展開がだいぶ違ったけれど、攻略対象とはぐれるようなパターンはなかった。

 攻略対象の誰かに誘われて出かけたとか? でも、アルカは誰のルートも進めていなさそうだったし、アルカを誘いそうな攻略対象に心当たりがない。


 親友キャラに話しかけられて移動した、ならありえるかな?

 親友ルートなら、魔物や侵入者に出くわすことはなく〝騒ぎがあった〟ことを知るだけだ。それなら心配しなくていいけど、親友キャラと出かけたかどうかなんてわからない。

 今の状況はゲームになかった展開で、アルカが魔物や侵入者に出くわすかどうかはわからない。

 何事もない可能性も十分にある。でもこのままだと最悪、一人で魔物か侵入者に出くわす可能性もある。でも一人で探し回るには学内は広すぎる。どうしよう、どうしたら――


 ――何かあったらいつでも頼ってくれると嬉しいな。


 王子のその言葉を思い出し、空き教室に駆け戻る。時間が経っていたけれど、王子はまだその教室に残っていた。

 王子は紙を一枚広げ、いつも連れている従者と、あたしには見覚えのない騎士と、三人で何か話をしているようだ。あたしが教室の戸を開けると、三人とも揃って意外そうな顔を向けてくる。


「シルヴィア、何かあった?」

「あ、その、アルカがいなくなってしまって……」


 そこまで言ったところで、あたしは王子に何させようとしてんのよ、と我に返る。

 従者にも「殿下に平民を探すのを手伝えとでも言うつもりか」と睨まれる。それな。そんなの、王子に頼むことじゃない。

 でも王子は、


「そっか。今から近衛たちに学内の見回りをしてもらおうと思ってたんだけど、アルカを見かけたら連絡をもらえるようにするね」


 そう言って、穏やかに笑った。逆に従者が眉尻を釣り上げる。


「殿下のなさることではないと思いますが」

「配置は変えない。見回りついでに、僕の友人がいたら僕に教えてほしいって、それだけだよ。ルシアス、頼んでいいかな? アルカの特徴はわかる?」

「……は。それらしき少女を見かけたらご報告いたします」


 あたしのほうから声をかけておいて何だけど、王子や王子の近衛兵の人たちに頼むような話ではない。

 あたしはゲームを知っているから、魔物や侵入者が来るって信じてる。でもあたし以外の人からすれば、あたし一人が不安がってるだけに見えるんじゃないかな。


「あの……よろしいのでしょうか」


 おずおずと聞いてみる。王子はやっぱり穏やかに笑っていた。


「うん。だって、君が不安なんでしょう?」


 王子が騎士に目を向けると、騎士は無言で頭を下げてから教室を出ていく。

 王子の近衛兵の見回りなんて、ゲームにあったっけな? ゲームでは描かれなかっただけかもしれないけど、ゲームでは一度も遭遇しなかった。


「僕の連れてる兵だけで広い学内全ての場所の見回りができるわけじゃないから、僕らはそれ以外の場所を見に行こうか。アルカが行きそうな場所に心当たりはある?」

「そんな、殿下に探していただくわけにはいきませんわ」

「君は探しに行きたいでしょう? 僕が一緒じゃないと、アルカが見つかっても連絡が来ないよ。さ、行こう」


 王子に促されるまま廊下に出る。王子の従者が不満げな顔で後ろからついてきた。

 ありがとうございますとお礼を言うと、どういたしましてと王子はやっぱり笑った。


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