02 手作りのお弁当

 昼休み、食堂に向かおうと廊下に出たら、アルカに前を塞がれた。


「シルヴィア様、私とお弁当食べませんかっ?」


 告白してきたとたん、ぐいぐい来るなあ。

 アルカの腕には二つの弁当箱が抱かれている。彼女はゲームでも毎日手作りのお弁当を食べていたから、二つ作ってきたということなんだろう。


「お断りしますわ」


 ふいっと顔を背けて歩き出したけれど、


「今日の唐揚げは自信作なので、ぜひ!」


 という声につい足を止めてしまった。

 唐揚げ。

 庶民の、唐揚げ!?


 公爵家の食事もこの学園の食事も、この世界に来てから食べてきたものはいつも〝お上品な洋食〟だ。

 日本で食べてきたジャンキーなポテトや唐揚げが食べたくて実家のシェフにリクエストしてみたことはあるけれど、何度頼んでも上品な料理に仕上げられてしまって、あたしの期待と違うものしか出てこなかった。

 いや、貴族の食事としては正しいんだろうけど。


 アルカとお弁当を食べる気はない。でも、唐揚げ。唐揚げかあ……。

 ゲーム内のスチルの一つにアルカのお弁当が描かれていたのを思いだす。

 ごはんの代わりにサンドイッチが入っていたので洋風感はあったけれど、プチトマトとかオムレツとか唐揚げとか、日本人にも馴染みのあるお弁当メニューだったはず。

 攻略対象のうち何人かも、アルカのお弁当を食べて美味しいと言っていた。

 うう、唐揚げだけでいいから食べたい。


「ちょっとあなた、平民の分際でシルヴィア様にお弁当ですって? 図々しいにもほどがあるわ!」


 背後からクラスメイトの声が割り込んできたので、慌てて振り返る。

 クラスメイトの一人がアルカの持つお弁当に手を伸ばしていた。


「ちょっとシルヴィア様に優しくされたからって、調子に乗るんじゃないわよ!」


 あたしはアルカに優しくした覚えはないっ!

 いや、違う違う、そうじゃなくて、唐揚げのピンチだ。こういうお決まりのセリフの後に何が起きるかなんてわかりきっている。

 アルカからお弁当を奪って腕を振り上げたクラスメイトに早足で歩み寄り、彼女の手首をつかんで止めた。


「およしなさい。由緒正しき学園の廊下を、平民の食べ物なんかで汚すおつもり?」

「シルヴィア様……!」

「それからアルカ、先程も申し上げましたが、わたくしはあなたとお弁当を頂く気はございませんわ」


 そう言ってから、クラスメイトの手にあるお弁当箱をそっと手に取る。

 唐揚げは食べたい。でもこのお弁当を貰うのはシルヴィアらしくない。

 どうしよう、どうすれば――はっ!

 あたしは手に取ったお弁当箱を肩のあたりに雑に掲げると、ふんと鼻を鳴らした。


「こちらは飼い猫の餌にでもいたしますわ。平民の食べ物の扱いなんてそれで十分でしょう?」


 ぽかんという周囲の視線を浴びながら、逃げるようにその場を後にする。


 歩きながら気がついた。

 やっべ、この学園、ペット持ち込み禁止だった。

 しかもあたしに飼い猫なんていない。

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