第19話 クエスト報酬

「あら、お疲れ様」


 教会に戻るとターシャが私服姿で出てきた


「お疲れ様、もう帰るのか」

「えぇ、一通りやることは終わったから。あっ、食事は自分でやっておいてね」

「了解。そうだ、今日組んだパーティーの子がターシャの事を『豪雪』って呼んでたんだけど…」


 ターシャの顔が一瞬歪んだ


「あぁ、そのことね。去年モンスターの氾濫が起きた際に冒険者組合のお偉方から結界を張って時間稼ぎをして欲しいと頼まれたの。発動するように指示されたのは<停滞する雪原>という結界内で吹雪が吹き荒れている広域結界魔法よ。極限の環境で数を減らせたら御の字とでも思ったのでしょうね。今回は発生場所が都市の近くかつ住民の避難も一切行われていなかったから当時の私は急いで結界を張りに行ったわ、先遣隊がいるとは知らずにね」

「で、巻き込まれた冒険者たちから『豪雪』と呼ばれだしたと」

「えぇ、そうよ」

「でもどうしてターシャがやったとわかったんだ?」

「簡単よ。この都市で当時結界魔法を使うのは私だけだったからよ」

「なるほど」

「あの当時は急いでいて詳しい情報がある=偵察に行っている人たちがいるということが頭から抜け落ちていたのよね。本当にもうしわけないことをしたと思っているわ。以降負い目からあまりクエストを受けなくなったのよね……」

「…」


 やっちまったな、本人に気軽に聞かない方がよかったかもしれない内容だった。


「別にいいわよ、確かにやっちゃったなとは思っているけどやらなければ今頃どうなっていたかは分からなかったから。まぁその折り合いはまだ私の中でついていないのだけれどね」

「人の心を読むことも出来たのか!?」

「フフッ、顔に出すぎよ。じゃあ私は帰るから。おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」


 ターシャと別れ食事をとり、床に入る。「固有結界とかあこがれてたからちょっと使ってみたいな」などと考えていたらいつの間にか眠っていたようだ。



「おーきてーイチタロウ君!朝だよー!」


 レッドフォードののバカでかい声で目が覚める


「ぉぁようごぁいます。ふぁんすかぁさから」

「おはよう、大分呂律が回っていないね。君にお迎えが来ているよ」

「ふぇ、むかえですかぁ」

「うん、男の子2人と女の子1人だよ」

「あぁ、わかりました。10ぷんくらいで…すぐ行くと伝えてください」

「ん、わかった。しっかり目も覚めたね」


 ヴィエラたちわざわざ迎えに来てくれたのか、というより早くないか体内時計的に6時前後くらいだと思うんだが。装備を整え礼拝堂へ向かうと元気いっぱいのヴィエラと眠そうなハイマーにべリス、だいたい理解した。


「おはよう、ヴィエラ。楽しみで眠れなかったのか?」

「うぇ!なんでそれを…。そっ、そんなことないわ!討伐クエスト自体何回も受けているもの!」

「ヴィエラちゃ~んもうちょっと声落としてよぉ」


 弱弱しくつぶやくべリス、そっちが素か。


「ほ~らみんな朝ごはんの時間だよ。調理場においで」

「あっ、すみません作っていただいて。洗い物は私の方でやっておくんで」

「気にしなくていいよイチタロウ君。ほら他の子たちの分もあるよ、この時間じゃ何も食べずにでてきたでしょ」


 おぉ、気遣いが出来る大人だ。レッドフォードに続きヴィエラと眠そうな二人がふらふらとついていく、小学校の先生みたいだな。


「さぁ行こうか!我々の報酬を受け取りに!」


 食事をとりエンジンが掛ったか急にアクセル全開のべリス。


「急に元気だな。さっきみたいに素でしゃべっていいんだぞ」

「フッ、あれは寝起きだからな、仕方ない」


 いや、素だって認めるのかよ。


「ほら、いいから行くわよ!」



 冒険者組合に到着……開いてない。


「早く来すぎたんじゃないか」

「そ、そうみたいね」

「なら外で待つしかないな!」


 ハイマーの今日の第一声なのに声でかいな。


「あれ、皆さんどうされましたか」


 声に気づき振り向くとフィンさんがいた。


「あ、いえ、ちょっと早くに来すぎただけです」

「でしたらもう開けちゃいますので中へどうぞ」


 フィンさんが扉に手を当て魔力と通すとガコッっという音がした。扉を開けると閂が横に転がっていた。



「初めて見ますよね。これは職員の魔力を記憶させておき魔力を落としたら開く使用になっているんです。因みに作ってくれたのはバランさんですよ」

「へー、結構便利ですね」

「えーっと、昨日のクエスト報酬ですよね。準備しているのでお待ちくださいね」


 3人と共に椅子に座って待っていると革袋をもってやってきた


「こちら報酬の15ルーになります。内訳的には通常の固体が7ルーと老齢が4ルーずつで合わせて15ルーになります」


 あー、昨日のざわつきって本当だったのか。結構減額されるけどそれなりに報酬はいい気がするな。


「それでは私はこれで」


 お辞儀をしその場を離れていく。他3人はまだクエスト報酬に夢中のご様子


「一人3ルーずつね!」


 ヴィエラがそれぞれに分配し


「今日は装備を整えたいからクエストは明日以降でいいかしら!」


 と年相応に目を輝かせている


「俺も防具を買いに行きたかったからいいぞ」

「俺も賛成だ」

「私は臨時で入ったんで、またの機会があれば」


 3人がこちらを見ると


「そのことなんだけど。わたし達のパーティーに入る気はない?」


 ヴィエラが提案してきた、が


「そうだね、先に声かけてくれてるところもあるし。まぁでも臨時で入るくらいなら

いつでも声かけてもらって大丈夫だから」

「分かったわ。じゃあ明日」

「いや、速すぎるだろ!」


 結局明日もパーティーに入ることになり解散。クエストは明日決めるそうだ。まぁ悪くはなかったし良いか。あれ、15ルーで一人頭3ルー…あの場にいたのは4人だよな、計算があわないような。…………あっ!クォンが来てないじゃねぇか!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る