第16話 少年少女<英雄の集い>

 朝、荷物の確認を行う。弾よし魔導具よし防具よし銃は…壊れないから大丈夫か。ターシャに「行ってくる」と言い教会を出る。


 冒険者組合に到着するとエルフロックさんと4人の少年少女が丸テーブルを囲んでいる。エルフロックさんがこちらに向かって手を挙げると4人がこちらを凝視した。


「おはようございます。遅くなりました」

「いえいえ、だいたい皆さんこれくらいですよ」


 エルフロックさんと挨拶を交わし臨時パーティーメンバーに自己紹介をする


「今日は宜しく、私は一太郎だ。主に遠距離からの攻撃をする」

「ふーん、格下のくせにタメ口なんて生意気ね」


 とリーダーであろう少女が口にする。こまっしゃくれた子供だな、おい。


「まあいいわ、私はヴィエラ。<英雄の集い>のリーダーよ!」


 英雄の集いとはまた大層な名前を付けたな。見た感じ14,15歳くらいのパーティーだから黒歴史を生み出すお年頃か。


「あぁ、よろしく”ビ”エラ」

「”ビ” じゃないわ ”ヴィ” よ!間違えないで!」

「すまない。よろしくヴィエラ」


 ヴィエラが他の子たちにも自己紹介をするよう促す


「俺はハイマーだ、この都市最強の両手剣士とは俺の事だ!」

「俺はベリス、闇に紛れる俺を見つけられるかな、フッ」

「えぇ~っと、私はクォンと言います。おばあちゃんから貰った竪琴で皆さんを支援します」


 これはヤバそうな匂いがプンプンする、最後の子はともかく他の3人がいわゆる問題児というやつか。若干顔が引きつっている私を見てエルフロックさんがパンッと手を鳴らし進行してくれる。


「それじゃあ今日のクエストの確認をしようか。今日はカメリアボアの肉の納品だね、少し難しいからその場で解体せずに血抜きだけして持ってきてくれえればいいよ。討伐数は3頭だね」


 カメリアボア、高さ1m体長1.6mほどのイノシシ。肉の油身が椿の葉のようにギザギザと入っているためつけられた名前だ。主に突進しかして来ないが老齢の個体は知能が高く土魔法を使ってくる。筋肉が多く歯ごたえがあり長い間口に残り続ける為、非常食や長期間の遠征の食料として加工される。なお、一般の家庭料理でこの肉を調理することはほとんどない。


「ヴィエラ、このパーティーにタンク役はいるのか?」


 先ほどの自己紹介を聞く限りハイマーは前衛剣士、べリスの武器は言っていなかったが闇にうんたらとか言っていたので偵察を行うのだろう。クォンは後衛支援と考えるとヴィエラになるのか?


「タンク役はクォンちゃんがやっているわ」

「……え、なんて?」

「タンクはクォンちゃんよ」


 おかしいな、竪琴で支援するって言ってたよな


「ヴィエラは何をするんだ?」

「私?私は双剣と魔法よ」

「べリス君はどんな武器を使ってるんだ?」

「俺の相棒はこの短剣さ」

「……」


 ちょっと整理しよう。まず剣士が1人、短剣1人、双剣&魔法が1人で楽器支援&タンクが1人か…支援職がタンクで大丈夫なのか?でも実力はそこそこあるって言ってたから大丈夫なんだろうな。


「わかった。私は後衛で支援攻撃をするけどそれでいいか?」

「構わないわ、あなたが手を出さなくても私たちだけで十分だから」


 無い胸を自慢げに反らすヴィエラと頷くハイマー。大丈夫というなら任せるか。


「イチタロウさん、今回のクエストは9級向けのクエストでして、カメリアボアは筋肉質の為、盾で止めて魔法で仕留めるのがセオリーです。10級のパーティーなので多分刃が通らないってことになると思うのでバックアップおねがいします。眉間あたりを狙えばその武器だと骨ごと貫通させられると思います」


 と、エルフロックさんが耳打ちしてくる。あぁ、お守りみたいなものか、狙ったところにしっかり弾丸は飛ぶし威力も元の世界よりあるみたいだから出来る限り怪我をさせないようにバックアップしよう。


 カメリアボアは毒草を取りに行った森のさらに深くにある山に生息している、3頭も狩る必要があるので荷車を引いていくのだが駆け出しパーティーと私だ、もちろん荷車を引いてくれる馬なんて持っていない。という事で男3人交代で引くことになりました。


「そういえばイチタロウはどこに住んでいるの?住宅区画で見かけたこと無いと思うのだけど」


 唐突にヴィエラが訪ねてくる。


「私は機神様の教会でお世話になってるよ、わけあってこの都市にきたからね」


 そう聞くとクォンを以外の3人が顔を見合わせる。


「あの『狂拳』と『豪雪』のいる教会に住んでいるのか!?」


 ハイマーが叫ぶ、『狂拳』と『豪雪』?レッドフォードとターシャの事なのだろうが凄い二つ名がついてるんだな。


「え~2人とも優しいよ」


 ゆったりとした口調でクォンが言う


「優しいもんか!話しかけてだけで顎を砕いたり、敵と一緒に他の冒険者も結界に閉じ込めるやつのどこが優しいんだよ」

「そうよ!ほんっっっとうに寒かったんだから!!!」


 ワーギャーと騒ぎながら森の奥へと向かっていく。この辺りはパレードウルフが守っているから多少騒いでも問題ないだろう。それにしても話しかけただけで顎を砕くって…さすがにそんなことはしないだろ。帰ったら本人に聞いてみよう。


 森を抜け山に到着すると


「偵察をしてくる。少し待ちたまえ」


 と言いべリスが木に登る、今のうちに装填しておくか。弾を装填済みのクリップを押し込みセーフティをかける、準備OK。他の3人が不思議そうにこちらを見ている


「あぁ初めて見みるよな、これはちょっと特別なボウガンだ。普通の物より貫通力が高いから射線上に入らないように気を付けてくれよ」


 初めて見るから少し警戒しているのだろう、3人は頷く。偵察を終えたべリスがスルスルと木から降りてきて


「周囲にカメリアボアは見つけられなかった、しかし北西の方角に獣道を発見した。一度移動し再度偵察をしようと考えているがどうだろう」


 私を含め全員が賛成し移動を開始する。それにしても最初はただの痛い子かと思っていたがエルフロックさんが言う通りそれなりに実力はあるのかもしれない。獣道の近くまで移動しべリスが再度偵察を行っていると木の上から文字が書かれた紙が落ちてくる。それには『西南西500m付近に対象を発見、引き連れてくるから戦闘準備を』と書かれていた。ヴィエラがべリスにサムズアップをするとガサガサと音をたてながら木々移ってゆく、20秒位経っただろうか「ブモォォォォ」というカメリアボアの鳴き声がするとドタドタという地面を蹴る音が近づいてくる。


戦闘開始だ―




 

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