第13話 昔話とクエスト
「お察しの通り私は転移者よ、と言っても5歳の頃にこの世界に来たからもうロシア語も忘れたわ。その時はあなたのように教会に降りたわけではなく隣にあるオークの町。わけも分からず泣いていた私を神父が拾ってここで面倒を見てくれたわ」
「転移するときに私みたいに何かもらったのか」
「えぇ貰ったわ、でも当時5歳よ?私がもらったのは綺麗な万華鏡。今でも私の家に置いているわ。あれを覗いても両親の顔は思い出せないわね」
酒を一口あおるとターシャは話を続ける
「でもあちらに帰りたいかと聞かれれば帰りたくないと答えるわね。確かにもう一度両親に会ってみたい気持ちはあるけれど13年も過ぎてしまったの、今更会ったところで娘を名乗る不審な女じゃない。それにこの世界ではとても暖かい人に囲まれて生きている、その人たちに恩返しの1つでもしないと気が済まないから」
「無理やり聞いておいてなんだが、すまなかった。あまり話したいものでもないよな」
ターシャはクスリと笑い
「本当よ、お酒を取られたら話すしかないじゃない。でも気にしないで、さっきも言った通りあちらの世界にあまり思い入れはないの。私の故郷は中都市ウィルよ」
その後、飲みかけの酒を含め3本すべてを空にして「今日はここに泊まるから」と言い厨房を出て行った、私も洗い物を済ませて部屋に戻ろう。
翌日ターシャと顔を合わせたときに反射的に誤ってしまった。
「次謝ったら聖書でぶん殴って前歯全部折るから」
と脅してきた。あの目はマジだ。それに聖書って広辞苑くらいのやつだろ?この世界の身体能力で殴られたら間違いなく根元から持っていかれる。
「さっさと朝食たべて掃除するわよ、ここ最近していないでしょ」
「わかった、ただ今日中に群れの討伐を終わらせて明日には10級に昇格できればと思っているんだ。早めに切り上げられるようであればお願いしたいんだが」
「大丈夫よ、私も詳しくないけれど銃なら素早く安全に討伐できるでしょ。早く行きたければ早く掃除を終わらせることね」
途中切り上げのお許しは出ませんでした。さっさと終わらせよう。
結局、昼食をとってから組合に向かいました。
「すみません、今から達成できそうな11級のクエストってありますか!」
カウンターの女性に息を切らしながら訪ねる
「えっと、この時間からですと地下水道の出歯ネズミ20匹か都市裏手の森に生息するハイドウルフ5匹の討伐でしょうか。出歯ネズミは数が多いので注意が必要でハイドウルフは草陰から襲い掛かれば5匹くらいなんとか討伐できるかと」
索敵はスコープを使えばウルフの警戒範囲外から探せるか、ここは数の少ないハイドウルフを受注しよう。
クエストを受注し裏手の森まで全力で走る。さすがに疲れたが日は半分も傾いていない、木に登ってハイドウルフを探そう。特徴は草木の同化するかのような緑色、目は他のウルフ系と比べ劣っている分嗅覚が優れているため風下に立つように心がける。
…いなくね?5か所くらいポイントを移動しながら探してみたが見つかる気配がない、こんなことだったら出歯ネズミのほうが良かったかもしれない。一度木から降りる、木々の移動は強化された身体能力で飛び移れたのでちょっとぶりの地面だ。着地をし弾を抜こうとボルトを引くと緑の狼と目が合った、あの場所ってさっきまで茂みだったような…いやいやそんなこと考えてる場合じゃない、あれがターゲットだ。ボルトをリリースし距離をとり片手で撃つ、空いた右手では魔導具を発動、周囲を囲むように<ファイアトラップ>を展開、逃げるウルフを火柱が襲う、2匹仕留めてあと6匹。正面から2匹突っ込んでくる、高さをつけてきたか2匹目に照準は合わせられない。飛びかかってくるウルフに弾丸を放ち地面を駆けてきた方は床尾で殴る、これで4ひk…
「ぐっ!!」
殴りつけたウルフは倒し切れてなかったか!ゴルフの要領で銃床をウルフの頭にフルスイング、バキッという音と共にウルフの頭が原型をとどめなくなる。後の4匹は……居なくなったか、止血帯と治療薬は持ってきているとりあえず応急手当をしそのあとに解体だ。治療薬を傷口にかけると痛みは引いたが傷が治るということは無いようだ、止血帯を巻いて応急処置は終わりだ解体しよう。動き出そうとしたとき獣臭さがわずかに増した、まさか増援か?地面に火薬を撒き下に<ファイアトラップ>を設置する私の匂いは火薬匂いで紛れるだろう。木の幹に背中を預けほっと溜息をつく。
一瞬寝てしまっていたか…真下から発生した爆発音で目を覚ます、あわや落ちるところだった。下の様子を見てみると先の戦闘で倒した4匹とは別に7匹のハイドウルフが力なく倒れていく。火薬を薄く撒いていたおかげもあって周囲へ引火はしていないようだ。木から飛び降りると噛まれた足に激痛が走る、これは治療薬というより麻酔なのか?効果が切れたようだ。止血帯をとり再度同じ手順を取る、先ほど使用した止血帯には血がついていない、治療効果もそれなりにあるのか。11匹のハイドウルフを並べて腹を裂き心臓を取り出す、オオカミ系のモンスターを討伐したら牙と爪を抜いていく話が多かったことを思い出し引っ張ってみて抜けそうなものだけ抜いていく、残った死体は穴を掘って<ファイアトラップ>を多重に使用し焼却した。もうかなり日は傾いている、治療薬の麻酔効果が切れる前に急いで戻ろう。
感覚の無くなった右足を庇うように全力疾走した結果なんとかクエストの達成報告は出来たが、報告中に通りすがりのフィンさんに怪我がばれてレッドフォードにおぶられて教会まで戻ることになりました。めちゃくちゃ見られたしすごく恥ずかしかった、二度とへまはしないぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます