第12話 単体討伐と教会にて

 冷たい床の上で目が覚める。倒れた後寝床に運んでくれたりはなかったようだ。

痛っ。クッソ、寝違えた。


「起きたか、妻が朝食を準備している」


 妻帯者だと!今までそんな素振りは一度も見せなかったのに。


「あらおはよう、よく眠れたかしら」


 リビングに向かうとゆるく編んだ三つ編みをしたメガネの女性がいる。


「おはようございます、一太郎と言います。昨夜はお世話になりました」

「丁寧にありがとう、私はサチ。旦那の助手をしているわ」


 そういう出会いか、私もこの世界で結婚するのだろうか…。いい人と出会えるといいが、


「さぁ早く食べましょう。2人とも組合に向かうでしょ」


 朝食を済ませ荷物をまとめてバランの家を出る。組合へ向かう道中にバランは1つの図案を手渡してきた、銃の図案だ。


「小さくして取り回しをよくしてみた。1発だが上から弾を込めてハンマーを手で上げてトリガーを引けばハンマーが落ちるようになっている。お前から見てどうだ」


 聞いた感じだとコンテンダーにシングルアクションを足したようなものだ、私が倒れた後から図面を引いてこの完成度か。


「多分問題なく撃てるんじゃないかと、ただ私も詳しく構造を知っているわけではないので作ってみないと何とも言えませんね」

「そうか、感謝する」


 その後も図面とにらめっこをしながらぶつぶつとつぶやくバランと組合に歩く。別れ際に「助かった」と言い階段を昇って行った。


 12級のクエストを受けるためカウンターへ足を運ぶ、今回は単体討伐だ。ヒュージブーンと地下水道の出歯ネズミ1匹ずつの討伐で狙った個体以外に見つからないように討伐しろ、との事だ。投擲と闇討ちの練習だろうが私は銃を持っている。遠距離から仕留めて頃合いを見て回収しよう。


 まずは出歯ネズミからだ。こいつは地下水道に潜んでいるため先に討伐する。見つけた、群れというほど数はいないが4匹で何かを食べている。サイレンサーを付けスコープを覗く、当たったネズミが血を噴き出しその場に倒れると他の3匹は一目散に逃げだした。仕留めたネズミのもとへ行き腹をナイフで割く、うわぁ気持ち悪い。少し傷がついてしまったが心臓を取り出し革袋へ入れてバッグへしまう。後はヒュージブーンだ。


 ヒュージブーンは門を出て都市の壁沿いに草原を歩くと門の真反対のほうに森がある。そこにはパレードウルフを放っていないようでヒュージブーンをはじめとしたモンスター達が生息してた。あ~いた、他のヒュージブーンの死体を食べてるよ。肉食だとは思わなかった。でもそうか、あのサイズで草食だと森が枯れるか。などと考えながら1発込めて撃つ、OK、頭を落として持ち帰ろう。都市はなかなか大きいようでここに着くまでに日が真上に昇り切っていた。報告したら運搬クエストでもこなして金を稼ぐか。


 報告の結果出歯ネズミが500ラー、ヒュージブーンが200ラーだった運搬クエストが6リーだったことを考えるとかなりしょっぱいクエストだ。運搬クエストなど依頼人がいない常設クエストの場合、組合が達成料の支払いを行っているのでギリギリの値段でクエストを出しているらしい。受注する冒険者がおらず増えすぎた場合は指名依頼、ないしは元冒険者の事務職員が数を減らしに行くそうだ。


 今日の運搬クエストは全て終わっていました。まぁ空が茜色になっていたので終わっていてもおかしくないか、カウンターの利用者が来るまで11級のクエストを少し見せてもらおう。


 鐘がなった、私も教会に戻ろう。そろそろ宿屋など見つけて寝泊まりした方が良いのだろうか教会にお世話りなりっぱなしだ。教会に入るとアナスタシーヤが祈りを捧げていた、初めてシスターっぽいことをしているのを見たよ。


「あら、お帰りなさい。ちょっとドブくさいわよ、お湯出してあげるからシャワーでも浴びてきなさい」


 樽にお湯をもらいシャワーを浴びに行く、因みにこの世界のシャワーは樽に水やお湯を貯めて小さな穴をいくつも空けた蓋を金具で固定してひっくり返す。蓋の両端には棒を飛び出しており、シャワースペースには棒を引っかける凹みがある鉄の棒にひっくり返した樽を支える板がついていてハンドフリーで使える仕組みだ。


 風呂から出て厨房に向かうとアナスタシーヤが酒を飲んでいた。シャワーだけだからそんなに時間も経っていないのに1本空いてるよ。


「出てきたわね、あなた何か作れない?食材はそこの木箱に入ってるから」


 指さす先には布を被った四角い何か、あれが木箱なのか?近づいて布を取ると冷気があふれ出した。箱を開けると肉や野菜が入っている、温度的にはチルド位の温度だ。


「アナスタシーヤ、調味料ってどこにある」

「その2つ隣の箱の中」


 漁ってみる。ケチャップとマヨもあるな、醤油あってみりんもあるか、中農ソースないじゃん。ウスターソースはあるか、はちみつ…ないな。


「アナスタシーヤ、はちみつどこ?」

「はちみつとか砂糖とか甘いものは左隣の箱よ」


 はちみつ発見、これで中濃ソースの代用になるな。


 一太郎の適当クッキングのお時間です。まずフライパンにケチャップを適量入れます、そこに適量ウスターソースを入れはちみつを少量入れて混ぜ合わせます、これで代用中農ソースが完成しました。そこに鶏の手羽元をお好きな数入れて味をしみこませます。もういいかなと思ったら中火で火を通し中まで火が通ったらソースを皿にどけて強火で手羽元の表面に焦げ目を付けましょう。十分な焦げ目がついたら机に板を敷いてフライパンごと板に乗せれば完成です。汚れ物はフライパンとソースを移したお皿のみで洗い物も少なく濃い味の手羽元は酒のつまみにピッタリです(好みは人それぞれです。責任はとれません)。


「はい、元の世界で私の酒のつまみだったもの。ソースは代用だから多少違うかも」

「あら、お酒に合うもの作ってくれるなんて気が利くわね。その鞄取ってくれない?瓶が入っているから気を付けてね」


 鞄の中には酒瓶3本、あなたすでに2本空けてますよね?


「アナスタシーヤ、若いうちからそんなに飲んでたら体悪くするぞ」

「ターシャでいいわよ、それに大丈夫よロシア人はお酒に強いんだから」


 確かに体温を上げるためにロシアの人は高い度数の酒を飲むとは聞くが……今なんて言った?聞き間違いじゃなければ「ロシア人は」って言ったよな。


「OK、ターシャ。私の聞き間違いじゃなければなんだがターシャはロシアの人なのか?」


 ターシャがこちらをじっと見つめ


「私そんなこと言っていないわ」


 と言い放つ。急に真剣な顔になるもんだからむしろ「はい、そうです」と言っているようなものだ。


「レッドフォードは知っているのか?」

「神父に言わなくてはいけない事なんて仕事の引継ぎくらいよ」

「別に周りに言いふらすなんて事はしないから教えてくれ」

「私は何か言いふらされても困ることなんてないわ。なんなら下着の色でも教えてあげましょうか?」


 ダメだ延々と逃げるつもりのようだ。酒を人質?に取るしかない。私は3本の酒瓶を人質にとる。酔っているようには見えないとは言え酒は体内に入っている、反応の鈍った相手から奪うのは容易いことだ。


「はぐらかすな、ターシャも転移者なんだろ」


 観念したのかコップに入っている酒をグッと飲み干し、


「教えるから返しなさい。飲まずには話せないわ」


 と言うターシャ。もう十分飲んでるだろ、と野暮な突っ込みはせずに酒瓶を返すとターシャは話し始めた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る