第11話 銃の試運転

「遅かったな、試作として6種類作ってみた。着替えてくるから少し待っていろ」


 バランの家に着くと畑の様子を見ていたバランがそう言い家の中に入る。あっ、レニがトマトを採って食べてる。さっき昼食とってきたのにまだ足りないのか。エリーも眺めてるだけだしいつもの事なのだろう。


「イチタロウこれでどうだ」


 準備を終え出てきたバランが1つの銃弾を投げて寄越す。完璧な見た目だ。トリガーには指をかけず1発薬室に込めてみると薬莢ごとバレルを通って地面に落ちる。


「あ、あれ?」

「なんだ、図の寸法通りに作ったが」

「えっと、どうやら弾丸が直径7.62㎜のようで薬莢はもっと大きいみたいです」


 初めて知った。7.62×63㎜のように後ろの数値が薬莢の長さだというのは知っていたが前の数値は弾丸の直径だったとは。そういえばクリップを持ってたはず。


「バランさん、これクリップって言って弾を込める際に使う矢筒みたいなものなんですけど、これにほんの少しだけずれる互い違いにしたら8発込めることが出来るんですけどそこから直径出せたりしますか?」


 バランにクリップを渡すとその場に胡坐をかき


「こんなものがあるなら先に出してくれ。ここに8発で互い違い、7.62㎜より大きいとなると、こんなものか」


 バッグから金属を取り出し形を変える、今回は薬莢のみだ。バランが手招きをする


「これで入れてみろ」


 ゲームで見たようにクリップに装填する。銃に装填しボルトリリース、薬莢は落ちてこない。手動でボルトを引き排莢を確認、キーンという甲高い音と共にクリップがはじき出される、完璧だ。


「おぉ、完璧です」

「よし、なら移動しながら弾を作る。エリー、御者をやってくれ」


 エリーは頷くと家の裏手に回り1頭の馬に荷車を引かせてやってきた。ただの荷車なので御者台はなく馬に騎乗している。これは御者なのか?


 門を出て15キロほど荷車に揺られる、作業員さんの運転よりは快適だ。道の右手は森、左手は草原になっている。杭を打ち馬をつなぐ、大きな音が鳴ると言うとエリーが馬に遮音の状態異常魔法をかける。その間にレニが300mほど先に鉄板の的を設置してくれていた。レニの姿がブレ目の前に現れる。


「準備できたよ!」


 相変わらずとんでもない機動力だ。私は1発だけ込めボルトをリリースする。因みにスコープもつけている、ゼロイン調整はしていないが無いよりはましだろう。


「撃ちます!爆音がするので気を付けてください」


 鉄板の中心にエイムを合わせトリガーを引くバーンという音と共に鉄板のど真ん中を弾丸が貫いた。


「イチタロウ、とんでもない武器を持ってるな。<サーモアイ>で見ていたが的から5倍くらいの距離まで飛んで行ったぞ」


 ガーランドの射程ってそんなにあったか?まぁ届くのであればそれに越したことはないか、次は1000m先に的を設置する。再度的の真ん中を狙い撃つ、少し左に逸れた。どうやら弾落ちを考慮しなくても上下方向はレティクルの真ん中に飛ぶようだ、ただ風の影響はわずかに受けるようだ、弾落ちのない量産型FPSのようだ。バランの用意していた6種類の火薬を試したがどれでも違いは感じられなかった。元の世界では火薬の量や粒の大きさで変わると聞いたことがあったがこちらではあまりないのかもしれない。また、身体能力が上がっているため反動を完全に抑え込める、片手でも撃つことが出来た。


「ねぇねぇ、うちにもやらせて!」


 あらかた試し終えるとレニが駆け寄ってくる。こういう場合本人以外は使いない設定になってたりするんだよなぁ。使い方を説明し弾を込めて渡す。バーンという音と共に弾が飛び出した。なるほど、本当に不壊以外に何も付与されていないのか。その後バランとエリーも試し打ちしたりバランが分解しようと力を込めて顔を真っ赤にしていたりと色々あったが取り合えず銃弾の問題は解決した。


 試し撃ちの帰り道、


「イチタロウ、今日は私の家に来い。錬金をお前に教え込む」

「ありがたいですけど術石持ってないですよ」


 金も1リーしかない、買ってこいと言われたらどうしよう


「錬金の術石は2階位以上しかない、駆け出しが買えるものではない事ぐらい知っている。もう使っていない術石をやるから気にするな」


 2階位以上の術石をもらえるだと!だいたい組合の級=持っている術石の階位が収入的にも一般的のようなのに12級の私が2階位の術石を所持することが出来るとは。バラン様に感謝感謝…


「うちも一緒にとま「ダメよ」なぁんで!」

 その後も2人は問答を繰り返していたがレニが泊まることはできなかった。


 2人をチームハウスまで送りバランの御者で家まで戻る


「あっ、教会に今日は戻らないことを伝えないと…」


 と、小声でつぶやくと


「私の伝書鳥がアーディに伝えている、今から始めるからついてこい」

「アーディって誰ですか?」

「レッドフォードだ、ほら早く来い」


 その後夕食も取らず魔力切れになるまで錬金を叩きこまれました。まだ精密な銃弾を作るには程遠いです。

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