第10話 装備品調達

「そうだロゥは今いくら持ってるの」


 レニが問いかけてくる。いつの間にか呼びすてになっているが気にしなくてもいいか、


「所持金か、7ルー7リーとんで35ラーかな」(日本円で77,035円)

「そうなると安い一式かそこそこの何部位かになるかしら」

「でも導具と術石はどうするの」

「そうね、お金が貯まったら?私も初めは術石を付けていなかったからいずれでも大丈夫だと思うわ」


 やはり少ないか、ただ弾がなんとかなれば遠距離メインになるだろうからな


「私としては遠距離主体になると思うから軽装でそこまで立派な防具じゃなくてもいいんだ。ただ導具とかは買えるなら買っておきたい」


 転移者としては魔法だけは外せない、使えないわけでないのであれば尚更だ


「だったらオークリー婆のお店にある防布性の上着がいいかもね」

「防布?よくわからないけど案内してもらってもいいか?」

「オッケーじゃあオークリー婆のお店に行こ」


 そう言うと初心者向けの装備を取り扱っている店が集まるエリアを過ぎてどんどん奥へ進んでいく。本当に大丈夫なのだろうか。


 豪華な装備に身を包む冒険者がごった返すエリアに足を踏み入れる。ここまでの店のショーウィンドウには1部位50ルーくらいの防具が並んでいたが突然1レンを超える価格に代わる。明らかに場違いです、周りの冒険者もこっち見てるもん。


「到着!ここだよオークリー婆のお店」


 木製2階建ての大きな店の前で止まる。布装備など軽装の冒険者が出てきた。


「おっ、レニちゃん装備の補修かい?」


 手甲を付けたガタイのいいスキンヘッドの男がレニに話しかける


「やっほー今日はロゥの装備を見に来たんだ」


 そう言って私の腕に抱きつく


「初めまして、一太郎ですレニにはロゥと呼ばれています」


 そう挨拶すると男は顔をしかめて


「坊主、やけにお行儀良いじゃねぇか。もう一回やってみろ」


 あぁそうか敬語は控えた方がいいんだった


「私は一太郎、新人冒険者だ。レニにはロゥを呼ばれているが好きに呼んでくれ」


 男はニカッと笑う


「おう、俺はグラッドだよろしくなロゥ。レニにあだ名つけられたら間違いなく名前よりあだ名で覚えられるからロゥで通していいと思うぜ」

「あぁよろしく頼む」


 自己紹介を終えグラッドはクエストに向かった。私はレニとエリーに続き店に入る


「おぉ」


 私の第一声はこれだ。アニメやゲームで見た店に自らが足を踏み入れる、感動だ。


「1階は高価なものが多いわ、2階へ上がりましょう。レニは…もう行ってるわね」


 階段を一段一段上がる。体重をかけるたびにギシギシとなるその雰囲気もとても良い。おっと、エリーに置いて行かれる。

 2階に上がると既にレニが物色をしている。店の奥から30代前半位に見えるグラマラスな女性が現れる。


「レニ!漁るのはいいけどきちんと元の場所に戻しな!」


 ここの店員さんだろうか、大穴でオークリー婆本人かも…


「オークリー婆!元気?」


 オークリー婆でした。見た目30代前半だぞ、エルフ耳でもないし…


「見た目が若くて驚いたでしょ?オークリー婆は禁術の影響で肉体が歳を重ねないのよ。確か今はななじゅ…」

「エマンシトリー言わなくてもいいことがあるって分かるかい?」


 エリーの口にどこからともなく取り出した布を突っ込みながらオークリー婆が言う


「今日の用事はあんたの装備かい?」

「あっ、はい、一太郎です。最近冒険者になったばかりです」

「おや驚いたねきちんと話せる若者がいたとは。あたしはオークリー、魔力で紡いだ糸を使って防具を作る唯一の職人さ。オークリーさんと呼びな、良いね」


 とっさに挨拶をしたので敬語になってしまったが正解だったようだ。ところで最後のセリフだけとんでもない圧だ。もしオークリー婆と呼んだらどうなるだろう…心を読まれたのか鋭い眼光がこちらを貫く。


「よろしくお願いします。オークリーさん」

「よし。じゃああんたの要望を聞こうか」


 オークリーさんとカウンターで予算などの話をする。その間レニとエリーは店を見て回るようだ。この店の価格はピンキリで、糸を紡ぐ際に使う魔力量で価格が変わるらしい。こんな感じが良いと伝えるとオークリーさんはすぐに図案に起こす。


「ん~、長袖服とズボンも出来れば仕立ててやりたいが連日クエストに出かけるとなると2着づつ以上は必要になるねぇ、そうなると予算オーバーもいいとこだね。とりあえず外套だけ仕立てて服はうちにある安物で整えると4ルーで抑えられるよ、ただ性能もそれなりになるから9級に上がる前に仕立て直しになるね」


 4ルーか、残りが3ルー7リーになるから弾の完成は必須になりそうだ


「ではそれでお願いできますか、上下の服は今から見てこようと思います」

「承ったよ。日が真上に来る頃には仕上げておくよ」


 オークリーさんは糸を紡ぎながら作業部屋へと帰っていった。服を買ったら2人に声をかけて魔導具でも見に行こう。


 服の購入を終えて術石と導具を購入するため初心者向けの武具エリアに戻る。オークリーさんの店は独自の技術を利用した店のため金銭面で相談できるが術石は完全に遺跡からの発掘のみになる為、高価な導具屋で購入するのは現時点では不可能だと言われた。また組合の等級が上がっても消費魔力の少ない低い階位の術石は常に持ち歩くようなので店員と仲良くするといいよ、との事。導具は素材と術石の装備枠によってある程度価格帯が決まっているようなので低位の物であれば1ルーとかからないようだ。色々と教えてもらっているうちに2人の行きつけの店に到着した。


「ここが<妖精の羽>だよ、お店の人が全員フェアリーだからすっごく可愛いんだ」


 店に入ると親指サイズの妖精が1つの術石を両手で抱えて運んでいる。これは癒されるな。1体の妖精が飛んできてエリーの肩に乗ると


「3日ぶりね新調…じゃないわよね、となるとそこにいる冒険者が新しい金蔓?」


 も、物言いが可愛くねぇ


「ちょっとメルシィその言い方はないでしょ」

「大丈夫よ。だってレニが連れてきた人でしょ」

「とは言ってもよ」

「気にしなくていいよエリー、可愛くねぇなって思っただけだから」

「こんなにキュートな妖精族を前にして可愛くないとは言うじゃない。意外と面白いじゃない」


 どうやら認められた?ようだ。聞くにこの妖精メルシィは商品の術石を発掘するときに<ディバース>の臨時メンバーとして参加することがあるらしい。術石屋では店員が遺跡に術石を取りに潜る、もしくは冒険者が見つけた不要な術石を買い取り販売をしているそうだ。また、術石を修理する特殊な技術を習得するため直接取りに行く際には店員のみでパーティーを組むか信用できるお得意さんに同行するのが一般的との事。なお修復技術は術石を取り扱う店舗の極秘技術のため漏れた場合は問答無用で命を狙われるらしい、過去に例は無いようだが。


「で、ロゥはどんな術石を使いたいの?武器に付与はする?予算は?」

「まず導具が無いからそれから見せて欲しい。それと付与はなしで使いたい属性は決まっている」

「そ、じゃああっちね」


 私の肩に乗っているメルシィの指さす方向に導具を陳列している棚があった。


「ロゥは遠距離アタッカーになるんだよね、だったら少し値が張るけど魔力伝導率が高い導具のほうがいいとおもうよ。うちは近距離で素早く魔法を展開したいから伝導速度が高いものを使ってるんだ」

「補足すると伝導率を上げるために複数の素材を混ぜて魔力を増幅させるように作るから高くなる、速度を上げる場合なるべく一直線に術石に魔力を届けるため単一の素材を使うからその分安くなるといったところかしら」


 レニのアドバイスとエリーの補足をもらうと「それは私の仕事なのに」とメルシィがつぶやいた。


「導具の見た目か、色々使いたいから多めに枠があるといいんだけど。この石板みたいなのおしゃれだな。1.5ルーか…メルシィ、2ルーでどんな術石が買える?」

「2ルーだと「9階位が2つくらいだよ」あんたはいつからメルシィになったの!」


 レニに割り込まれ叫ぶメルシィ。それにしても9階位が2つか、初心者が術石を持たない理由が分かった気がする。板型の導具をカウンターに預け術石を見に移動する、途中8階位の術石の値段を見たが20ルーを超えていた。しばらくは9階位の術石を使うことになりそうだ。


「メルシィ、盾みたいなものを出せるものって9階位にある?」


 遠距離にしろ近距離にしろ盾を持って使いこなすのはできないだろうを考えた為魔導具で補うことは私の中で決定事項だった。


「9階位だとこれかしら『ホワイトカーテン』と言って光の壁を張るのだけれど魔法とアンデット系にしか効果が無いわ。他となると7階位を超えるわね」


 なるほど、しばらくはこれに頼ることになるか。後で7階位の値段も見ておこう。


「わかった、じゃあこれと火の魔法でおススメのを1つ」

「火の魔法ね、なにがあったっけ」

「メルシィ、『ファイアトラップ』はある?あれなら設置型だから初めてでも簡単に使えると思うのだけれど」


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『ファイアトラップ』

 空中や地面に魔方陣を展開し触れた対象にダメージを与える魔法。後衛職の冒険者が戦闘前に自衛用としてトラップ魔法を設置するのがセオリーになっている。

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「それいいわね、ロゥ『ファイアトラップ』で良い?」

「あぁそれでお願い。合計でいくらになる?」

「カウンターで計算するわ」


 メルシィの体が光るとともに160㎝位の女性に姿を変えると2つの術石を持ってカウンターへ向かおうとする。


「ちょ、ちょっと待って。大きくなれるの?」


 その問いに呆れたような顔で


「妖精族に会うのは初めてなの?このサイズにならないと硬貨が扱えないじゃない」


 と、さも当然のように告げた。


「大きくなるのは結構魔力を消費するの、早くカウンターへ来て」


 合計金額3.6ルー。ギリギリ足りたが残り1リーになってしまう計算だ。


「このタイプの導具は術石を嵌めてひっくり返す、ちがう導具そのものじゃなくて枠が回るでしょ。そう、で右の半回転させるとロックできるから、そうねあってる。外すときは反対の手順を取れば外せるようになってるわ」


 メルシィにまた世話になると伝え店を出る


「これであとはオークリー婆のお店に外套を取り行けば買い物終了だね」


 オークリーさんの店へ向かいながらレニはそう言う。


「そうだな、色々助かったよ。ありがとう」

「それが終わったらまずはチームハウスへ寄りましょう、ロゥの部屋を決めないといけないでしょ」


 ん?なんの話だ


「え、なんの話?」


 私の問いにエリーが小首をかしげ


「<ディバース>に加入するとレニから聞いていたのだけれど…」


 レニの方を見ると私と目を合わせようとしない、両頬に手をやってこちらを向かせようとするが力負けする。なんというパワーだ。


「もしかしてまたレニが勝手に言っていただけ?」

「あの、テミングさんはなんて言ってた?」

「『そうだったのか、また賑やかになるな!!』と言っていたわ。レ~ニ~!」

「だって面白そうな人だったんだもん!ロゥ!いいよねうちのパーティーはいらない?」

「ありがたいけど少し考えさせて欲しい。まだ10級にもなってないんだ」


 たしかに上のパーティーに誘われるのは光栄なことだろう、だが私自身どこまで戦えるのか分からないのに安易に受けることはできなかったのだ。


「わかった。でも他のパーティーに行っちゃうのはダメだからね!絶対だよ!」

「レニ、それはあなたの決める事じゃないわ。ごめんなさいロゥ、ただ私としてもパーティーに入ってくれると嬉しいわ」


 子犬のようにしがみついてくるレニと引き剥がすエリー、もし私が戦えると判断したらお世話になろう。そう心に決めたが口には出さなかった。


 そんなやり取りをしながらもオークリーさんの店に到着した。レニとエリーは店先で待っているとの事だ。店内に入ると1階のカウンターでオークリーさんがこっちだと手招きをする。


「ほら、外套は出来てるよ。羽織ってみな」


 オークリーさんに促され外套を羽織る。前を胸元のピンで留めてフードを被る、丈も腰位の高さでいい感じだ。


「ありがとうございます。ピッタリです」

「それは良かった。服の上下は見たのかい」

「決めてます。持ってきますのでお会計をお願いします」


 事前に見ておいた服を持ってきて会計を済ませる。合計で4ルー、残り1リー。急ぎ金策をしなければ。


 店を出て2人に声をかける、このままバランの所へ向かうと言うとどうやら2人もついてくるようだ。昼食を取りバランの家へ向かう、遂に銃が撃てるぞ!

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