第9話 そんな装備で大丈夫か?

「おっはよー!先にご飯食べてるよ!」


 食堂に着くと朝から塊の肉にかぶりつくレニさんに声をかけられる。ふと向かいにもう1人女性が座っていることに気づく。


「おはようございますレニさん。それと、初めまして一太郎と言います」

「…」


 あれ?


「初めまして一太郎です」

「…」


 おかしいな、聞こえなかったか?


「あの…「食事中」」

「ごめんなさい!」

「エリー圧かけすぎだよ、ごめんねエリーご飯大好きだから食事中は話さないんだ」


 なるほど、ならもう少し早く教えてくれないか?


「あなたは朝ご飯食べてきた?あっちのカウンターで注文できるよ」


 そう言うと部屋の奥にあるカウンターを指す。ざっと15人ほど並んでいる


「教会で食べてきたので大丈夫です。席失礼しますね」

「ご馳走様。レニ、皿片してくる」

「行ってらっしゃーい。このお皿も一緒に良い?」


 先ほどの倍のペースで肉にかぶりつくレニさん、食べきったようでパタパタと皿を片付けに行く。


「イチタロウさんといったかしら。さっきはごめんなさい、私はエマンシトリーよ。レニはあぁ言っていたけれど食いしん坊キャラではないのよ」


 スッとした顔を赤く染めそう言う。青髪であることも相まって真っ赤に見える


「ところでそんな装備で大丈夫?武器は持っているようだけれど軽装備とも呼べない防具じゃない」

「エリーそれを今から見に行くんだけど…昨日話したら「私も行く!」って言ってたのに…」


 再び顔を真っ赤にするエリーさん。綺麗な見た目に反して小動物のような可愛さだ。くそっ、そのキャラは反則だぞ!


「ねぇロゥ君今日は何から見るの~」

「ロゥ君?それ私の事ですか?」

「そうだよ?昨日エリーと話してたら名前長いね~ってなってあだ名付けちゃったんだけどダメかな」


 あだ名をつけてくれるのは純粋に嬉しい、ただそこから抜粋するのか。


「全然気にしないでください。ただその略され方はされたことなかったので」

「良いの?じゃあロゥ君って呼ぶね!うちのことは呼び捨てでいいよ、うち18歳で多分年下だからね。あと敬語も要らない、なんか距離あるかんじで嫌だから」

「いや、上級の冒険者にタメ口はちょっと…」

「気にしなくていいわよ、丁寧に話せる冒険者なんて一握りから零れ落ちた程度しかいないから。それに上下関係なんて気にしていたらパーティーなんて組めないわ」


 気が引けるが郷に入っては郷に従えというし出来る限りやってみよう


「分かった、今日はよろしくレニ、エリーさん」

「『さん』はいらない」

「はい!すみません」

「敬語!」

「いや、謝罪は敬語うんぬんじゃ…」

「良いからこの後の事決めよ~」


 年下に怒られてしまったがさすがはパーティーのリーダーだ。話の脱線は許さないようだ


 まずは銃を見せる


「これは銃と言って火薬で加速させた弾を飛ばす遠距離武器なんだけど…肝心の弾が無いから組合には棍棒で登録してるんだ。」

「へー、見たことない武器だ。エリー知ってる?」

「私も初めて見たわ、弾を飛ばすと言ったわよねちょっと絵にかいてほしいのだけれど」


 エリーから紙と羽ペン、インク壺を受け取り絵を描く。薬莢と薬室、弾頭を描いてと、雷管ってどんな構造なんだ?リムもあったはずだよな…サイズは7.62×63だったか?詳しいことまで分らない。


「詳しいことまでは私自身も分からないんだがこんな感じだ」


 レニとエリーに絵を渡す


「一番後ろの雷管を銃についている針で叩くとどういう理屈か火花が出て薬室の中に入っている火薬に着火、爆発が起こって弾頭が飛んでいくようになっている」


 ざっくりと説明する。物語の中で異世界に行く主人公たちはつくづく知識量が凄いと思う。サバゲーやってFPSゲームやって程度のにわか知識ではほとんど役に立たない。


「ねぇ、この雷管って取り外せるものなのかしら?それとも薬莢と一体になってるの?」

「取り外し…取り外しかぁ、なんか銀色の物が別で写ってる写真を見たことがあるような気がする」

「なるほど、だったらこの雷管は針で叩いたら前進するのね」


 前進…そういえば


「そうかもしれない、使用済みの弾の雷管は埋まってるって聞いたことがある」

「そう、となるとぶつかるものがあれは火花は出ると思うわ。でもその火花が薬室まで届くかわからないわね」

「ねぇエリー、バランさんなら何か分かるかもよ?あの人錬金もやってたでしょ」


 なん…だと、ただのヤバい元冒険者じゃなかったのか


「ちょっと呼んでくるから待っててね」


「で、私を呼んだと」


 私服のバランが不機嫌そうにそう言う。休みの日に申し訳ない。


「すみません、お休みでしたよね。一応私の武器は遠距離武器でしてこういうものを飛ばして攻撃するんですけど」

「ふむ、この雷管を叩くと出る火花が薬室の火薬に届かないと」


 バランが目を閉じて考え込む。少しすると


「そうだな、雷管は器みたいになっているんだろ、そこに火薬を入れるか火花を発生させる突起に火薬をつけておけば熱が届くんじゃないか?ちょっと試作してみるか」


 バランが持ってきた荷物の中から鉄ではなさそうな金属と魔導具を取り出し、みるみるうちに金属が形を変える。


「火薬はないか。レニ、火薬が必要なら先に教えてくれ『火に強い金属もってきて』とは聞いていたが」


 バランがレニの頭をワシャワシャとなでる。やけにレニに甘いな。


「うちが持ってるもん」


 レニがポーチから小袋を取り出す。中から出てきた火薬は大小様々な粒をしていた。ところで買い物に行くのに火薬って持ってくるか?


「イチタロウ、火薬はどのサイズを使うか分かるのか」

「いやー、どうでしょう。ただこの武器は300m以上先の敵を狙います」

「300mだと!」

「うまく狙えばそれ以上の距離の敵も当てられますけど最大飛距離はわかりません」

「とんだ武器を持ってるな、なのに解体は出来なかったのか。まぁ分からないのであれば試せばいい。いくつか作る、買い物が終わったら私の家に来い」


 そう言い残すと私の描いた絵と試作の薬莢をもって食堂を出て行った。


「じゃあうち達は他の物でも買いに行こうか」

「始めは防具かしらね」


私たちは裏の武具通りを目指し外に出る





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