第6話 初クエストと…

 日が昇った。昨日のように水を汲み朝食を済ませる。掃除に取り掛かろうとしたところレッドフォードから掃除は2人でやるから組合にいっておいでと言われた、厚意に甘えて組合に向かう。


「クエストボードとカウンターは2階か」


 そうつぶやき階段を上がろうとしたところ1人の少年が泣きながら入ってきた。おおよそ6歳くらいだろう1階のクエストの発注カウンターにいる禿げ上がったおじさんに事情を説明していた。私は気になったので発注カウンターへ向かった。


「すみません。どうかされましたか?」


 泣きじゃくる子供の頭をなでているとおじさんが説明してくれた。


「この子のペットの出歯ネズミが朝起きたらいなくなったみたいでね、ただ少年の持っているお金がクエスト発注の最低金額に満たなくてね」


 なるほどクエスト発注にも最低金額というものがあるのか。まぁ慈善事業ではないから小さい子だから、という理由で穴をついてくる人もいないわけではないということで優遇することはできないのだろう。


「私はイチタロウと言います。今日が初めてのクエストなのですが研修クエストみたいな形でその金額で受けていただくことはできないのでしょうか」

「わかりました。一度確認を取りますのでお待ちください」


 しばらくするとフィンさんと170㎝くらいの男性がこちらにやってきた。


「おはようございますイチタロウさん。お話は伺いましたがこちらにも規則というものがあります、一介の職員では決めることは出来かねますので支部長を連れてきました。」

「おはようイチタロウであっているかな、俺はウィル冒険者組合の支部長をしているレンジョウだこの都市のために頑張ってくれたまえよ。ところでだクエストの件だが、許可しよう。ただし組合職員が同伴するそれが条件だ」


 許可が下りた。少年に伝えるとクエスト内容の徴収は終わっていたようで、笑顔で帰っていった。


「支部長、ありがとうございました」

「気にすることはない、普通なら親御さん同伴であることを前提にクエストの発注を受けているんだが…しっかり出来ん職員がいる事も分かったし今後のミス防止のためにもいい経験になったろう」


 少年の対応をしたおじさんはみるみる小さくっていく。


「そうだ、研修クエストにはフィンが同行する。見知った相手のほうがよかろう。それともバランがよかったか?」

「フィンさんでお願いします」


 私の初めてのクエストが決まった。


 フィンさんが準備をしてくると言い離れてからしばらく、ぞろぞろと先輩の冒険者が2階から降りてきた。どの人の装備を見ても術石を入れるような穴があいていた。そう眺めているとフィンさんが戻ってきた。さぁ私も出発だ!


 依頼書には出歯ネズミの特徴が書いていた。

・前歯が3本むき出しになってる、そのうち左側の2本は1/3ほどかけている

・毛の色は茶色

・体長約25㎝

以上3点だ。いやいやそんな情報で探せるのか、と思ったがフィンさんが渡してくれた図鑑には体調10㎝前後、体毛は灰色と書かれていた。自然で育つ場合は大きくても15㎝ほどで20㎝を超えることはまず無いとの事だ。また体毛は灰色ないし汚れて黒くなる以外の色はおらずほかの色は脱走されても見つけやすいように飼っている人は染めているようだ。飼いネズミは一定数いるようだがお世辞にも可愛いとは言えない見た目だ。


 少年の家に向かう道中にいくつかのごみ捨て場に潜んでいないか見ていたが見つかることはなかった。少年の家に到着しクエストを受注したことを伝える、満面の笑みで頑張って!と言ってくれた。さぁ探しに行こうか、振り返って一歩踏み出すと柔らかい感触があり体重をかける前に足を上げた。


「あの~フィンさん、この子ですかね?」


 そう、依頼されたペットが穴を掘って出てきたのだ。


「たぶんそうじゃないかと、捕獲して聞いてみましょう」


 私が手を伸ばすとネズミは土煙を立て逃げた。走って追いつけるものなのだろうか、まぁ追いかけるしかないのだが…と思い走り出すと視界が歪みわずか3歩で追いつけた。身体能力が強化されていることを忘れていた。捕まえたネズミはやはり少年のペットだったようで私の初めてのクエストはあっけなく終了した。


 組合に戻り達成報告を行う手順をフィンさん付き添いで行った。報酬額は10ラー硬貨が3枚と1ラー硬貨が5枚、計35ラーだった、確かにこの報酬で受注する者はいないだろう。


「まだ日も昇ったばかりですし他にもクエストを受けて行かれますか?13級への昇格はクエスト7つの達成になります。今回のクエストも含めるよう支部長より指示が下りていますので残り6つになりますね。また10級未満で受注可能なクエストは全て受付で管理していますので必ず受付にお越しください」


 あと6つか内容によっては今日中に終わらせることが出来るのでは?


「わかりました。少し依頼を見て判断します」


 そういうとフィンさんは笑顔で一礼しその場を離れた。さて、どんなクエストがあるか見てみよう。


 14級のクエストに配達系のクエストが複数あったのでとりあえず3つ受けた。荷物は多いが距離はそこまででもないクエストなので問題ないだろうと受付さんと相談した。クエスト受注時に受付でウィル全域の地図も購入し準備は万全、改めて身体能力の上がり具合を試してみよう。


 日が真上に昇る頃、すべてのクエストを完了した。身体能力の向上は予想以上の上がり幅で養豚場から5頭の豚を精肉店へ運ぶ際にも軽々荷車を引くことが出来た。この世界の人々は全員がこんなに強いものなのか、それとも身体能力を上げすぎてしまったのだろうか、できれば後者であってほしいものだ。また、町並みは基本的に生コンの基礎にレンガの壁、三角屋根で2階建てのものがベターで数件木製の家も見受けられた。道は整備されており荷車を引くのは簡単だ。


 昼食をとりまた3つのクエストを受注した。先ほど同様に配達系だ、というより今日は他に14級用のクエストがないのだ。日が落ちる前に3つのクエストを終え報告に向かう。これで13級への昇格試験に挑めるだろう。


「10級への昇格まで試験はないですよ」


 人事課の受付にいる女性にそう言われた。聞き逃したようだ。まぁないのであればそれはそれで、7つのクエストの報酬合計は3.6ルーと35ラー。配達は1クエスト6リーの報酬だった。そう考えるのあのペット探しはとんでもない少額だったのだろう。明日は採取クエストか、入門手引書を見かけたから買っておいて損はないだろう。教会に戻るとアナスタシーヤが夕飯を準備してくれていた。手引書を見ながら食事をしていたらかなり怒られた。いつ以来だろう。代わりと言ってはということでアナスタシーヤの講義が始まった。半分以上は見ればわかるとの事だ。感覚で教えられても…。

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