第4話 初めての戦闘と解体

 レッドフォードと別れ3階に向かう。3階には2部屋しかなく解体室とプレートのついた冷たい鉄扉を押し開ける。そこには両手が血にまみれた男がこちらを見ていた。もうすでに帰りたい。


 「君がフィンから聞いていた新人か。私はここの解体室兼研究室の管理人バランだ。君も見たことがあるユー大陸モンスター図鑑を作成しているメンバーの一員だ。将来的に飛竜種を討伐することがあったら是非ここにもってきてくれ。そうすればメンバー内でもトップクラスの立場に…。おっと失礼、名前は聞いている講習をはじめようかイチタロウ」


 えらい出世欲だ。そう言うとバランは部屋の奥から檻に入った2匹のモンスターを連れてきた。ゴブリンと1mほどのカナブンだ。カナブンはヒュージブーンというらしい。大きく動きもそこそこに速いので注意が必要だが、直線的に突っ込んでくる事しかできないため木の裏に回り込んで自滅させるのが定石らしい。ゴブリンはアニメなどで見た体躯とほぼ変わりなかったが肌の色が真っ黒だった。曰く洞窟での生活や夜間の襲撃で闇に紛れるために肌が黒くなっていったのでは、と言われている。


「さぁ、まずはこの2匹を絶命させてくれ。その棍棒で殴れば一発だ」

「えっ、無理です。ヒュージブーンならまだしもゴブリンはちょっと抵抗が…」

「血が苦手なのか、よくこの仕事をしようと思ったな。まぁ良い、ヒュージブーンからやっていこう」


 私は嫌々ながらもヒュージブーンの頭をM1ガーランドの銃床で叩き潰した。『ピィ』という小さい鳴き声と共にヒュージブーンは絶命した。気持ちが悪い。小さな虫ならまだしも1mもある虫だ、潰した感触が手に残っている。


「よし、それでいい。昆虫系のモンスターの討伐部位は頭だ、胴体と切り離して完了だな」


 鬼かこいつは。鏡で見たらかなり歪んでいるであろう私の顔を見て剣を差し出しながらそんな言葉がさらっと出てくるとは。職業柄そういう事を気にかけたりはしないのだろうが…鬼かこいつは。しぶしぶ剣を受け取りヒュージブーンの頭を落とす。叩き潰した時のような感触はなかった。少し硬い部分があったもののスッと剣が通った。しいて言うなら魚の頭を落とした時のような、そんな感触だ。ヒュージブーンは自滅を狙うのが定石と言っていたはずなので頭を落とすくらいなら私にもできそうだと感じた。漏れ出す体液も少量だし。


「終わりました。で、こっちのゴブリンも本当にやるんですか?」


 こちらを見ながら喉を鳴らすゴブリンを見ながらバランに問いかける。何も言わずに頷くバラン、もう後には引けないようだ。


「ゴブリンはここ5日ほど食事をしていない。弱っていて反撃もできなければ吐しゃ

物も心配しなくていい」


 慰めにもならない言葉を背にゴブリンと対峙する。確かに弱っているように見えるがその眼には明らかな殺意が込められている。1歩2歩と歩み寄る。飛び込んできたゴブリンを逃げ腰のままガーランドで殴りつける。鼻に当たった、折れている鼻には歯牙にもかけずゴブリンはこちらに馬乗りになり首を絞めてくる。やせ細った指で力いっぱい締め付けてくるが力が出ないのか苦しくはない、しかしとても恐ろしいのだ。手足に力が入らずゴブリンを振りほどけない。ふとバランが視界に入ると口を動かし何か言っているようだ。頭を抱えると銀色の球体を手に取り風を生み出した。 


 吹き飛ばされたゴブリンを横目に私は立ち上がる。徐々に視界がクリアになりバランの声が聞こえるようになってきた。


「貴様には心底呆れたぞ。この程度もできないようであれば荷物をもってここから出て行け、一生土いじりでもやっていろ」


 厳しい言葉だが間違いではないこれは命のやり取りなのだ。ふと一つ思いついた


「すみません。もう一度やらせてもらってもいいですか。あと、視界を悪くする魔法ってあったりしますか?相手が薄暗く見えるくらいの」


 そう、今は相手を見るのが怖いのだ。ならばわずかに見える位にすれば何とかなるのでは?と思ったのだ。


「ん、まだやるのか?暗闇の魔法だろ使えるがかなり見えずらくなるぞ」

「構いません。視覚と触覚の片方でもなんとかなればもしかしたら行けるかもしれないので。というか血が噴き出すのを凝視したくないんです」

「了解した」


 その一声と共に私の視界は塞がれた。ほとんど何も見えないがゴブリンの赤く光る眼を見つけ私はガーランドを振り下ろした。ガツン、グシャという音と共に赤く光る眼は光を失っていった。


 その後回復の魔法で視界が戻った私の前でバランが不敵に笑い、「やれるじゃないか」と囁いた。そして解体だ、やりたくない。なぜって?昆虫系以外のモンスターと一部を除ぞいたモンスターの討伐証明部位は心臓となっているからだ。

 何十年も前にオークの討伐証明は右手となっていた頃、右手だけ切り落とし虚偽の報告を行ったパーティーが居たそうだ。結果として大規模なオークの群れが都市を襲った。死者は出なかったものの防壁などに大きな損害が出た。そのパーティーは研究機関に連行されたとかなんとか。以降証明部位は心臓となったらしい。


「おい、現実逃避してなくていいからさっさとばらすぞ」


誰か助けてくれ

 

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