第3話 冒険者組合へ

 ふと眼が覚めた。まだ鐘の音は聞こえていないから日は昇っていないだろうなどと考えていると同じベッドに人がいる事に気が付いた。アナスタシーヤか?お約束の展開だな。などと期待半分に布団をめくると丸眼鏡をかけた修道服の男がニヘラっと笑ったのは見間違いだろう、いやそうであってほしいものだ。とりあえず顔を洗おう。部屋から出て井戸まで向かった。


 部屋に戻ると丸眼鏡の男はどこから持ってきたのか長椅子に座っていた


「やぁ戻ってきたね。僕の名はレッドフォードだ、ここの最高責任者だよ」


 私の初めての添い寝は自称教会の最高責任者(男)となった


「あぁ、はい、一太郎です、お世話になっています。ところでなぜベッドに?」


 げんなりしつつ私は尋ねた。というよりも『聞いてくれ!』みたいな目でこちらを見てくるのだ。知りたいようで知りたくない。


「昨夜ターシャちゃんが君のことを連絡してくれてね、起きてすぐ君の所に向かったはいいもののただ顔をあわせるのは面白くないと思ってね、忍び込んでみたのさ!」


 むかつくほどに良い笑顔だ。ターシャというのはアナスタシーヤのことだろう。他にあった人といえば晩飯を食べた屋台のお兄さんくらいなものだし。聖職者に手を出すのはまずいとは思うがとりあえず一発ぶん殴っていいだろうか?


「とりあえず一発殴っても?」


 口に出てしまった


「ぜひ殴ってくれたまえ‼僕は痛ければ痛いほど快感に感じるド変態だからねぇ!さぁ‼早く‼さぁ‼」


 自分で言うな


「大丈夫です。口に出すつもりはなかったんですがつい…。あと離れてください」


 聞き分けはいいのかすり寄ってくる変態男は離れていった。朝から揚げ物を食べたとき並みに胃に来る。胃薬って入ってなかったっけ。


 最悪の顔合わせを果たしてしばらく、昨日の水瓶を渡された私は再び井戸へ向かった。水汲みから戻るとそこには昨日と全く同じ朝食が並んでいた。正直アナスタシーヤのスープより格段においしいと感じたのは悔しいので口にしない。


「そうだイチタロウ君。君は冒険者組合への加入希望でよかったかな?」


 食事の片づけの最中にレッドフォードが聞いてきた。銃弾がないのでどうしようかと迷っている旨を伝えると、


「銃弾、というのが何なのかはよくわからないけれど初めは都市内のごみ拾いだったりで危険もないからやることがないのであれば加入するといいよ。戦えなくなったご年配の方たちもそんなクエストをやって生活しているからね、因みに都市内の美化に関するクエストはそこそこ貰えるからおススメだよ」


 元組合員だったのかとやけに詳しいレッドフォードの説明を受けつつ教会の清掃を終えて私は冒険者組合への加入を決めた。


 清掃が終わり昼食を食べやることがなくなった私は冒険者組合に来ている。なぜかレッドフォードと共に。


 地図は受け取っている。警備員だったため地図さえ見れば基本的にどこにでも迷わずいけるのだが『ここに来たばかりの人をほおっておけないよ』と、言い着いてきた。冒険者組合の建物はレンガ造りのかなり大きな3階建てだったがそれよりも建物の基礎に生コンが使われていることに驚いた。本当に技術が進んでいるのかいないのか…


「まずは入会手続きをしようか」


 レッドフォードに連れられて1階の右端のカウンターへ向かうプレートには人事課と書かれていた。異世界感が吹き飛ぶ表記は勘弁願いたい。


「いらっしゃいませ。新規のご入会で…あっ、レッドフォードさんのお知り合いの方ですか?」


 若い女性はそういうといくつかの書類を引っ張り出した。


「そうだよ。イチタロウ君と言ってね教会の新人君だよ」

「初めまして一太郎と申します。今後お世話になります。あと教会に所属した覚えはないので」


 受付の女性はじろりとレッドフォードを一瞥したのち


「はいよろしくお願いします。私は人事課長のフィンと言います組合員の方への昇格などのご連絡はこちらからさせていただきますので覚えておいてくださいね」


 さて加入手続きだ人事課が読めた通り漢字ひらがなカタカナが使われている。読み書きは問題ないとして使用武器、装備術石の記入欄に差し掛かった時、


「えー、使われている武器は棍棒でよろしかったですか?」

「いや、これは…(待て、弾がないのに銃といっていいのか、変更も可能って言ってたしとりあえずは)はい、棍棒です」


 私の相棒となる銃は棍棒になりました。すまねぇいつか銃弾作って銃として使ってやるから待っててくれよ。


「えーっと。お名前イチタロウ、年齢22歳、武器は棍棒で術石は無し、えっ!!解体出来な!!どうしましょうか…、とりあえず後回しにしてコードネームなんと登録されますか?」

「コードネームですか⁉そんなものあるのか、じゃあスマイルで登録してください」

「かしこまりました。組合からの強制クエストの際にコードネームでクエストが発行されますので忘れないようにしていてください。ではこちらの術石に情報を登録しましたので無くさないようお持ちください。等級は15級になります。」


 まさかの一番下だった。事前にレッドフォードに聞いていた話だと15級はほとんどありえないと聞いていたのだが…。


 「では昇格の道のりを簡単に説明しますね。まず解体の講習を受けていただきます。とはいっても食肉用ではなくモンスターの討伐証明となる部位の説明と実技になります。それが終わりましたら14級へと昇格、都市内でのクエストを受けていただきます。13級以降は採取、単体討伐、複数討伐とこなしていただいて最後に10級への昇格審査を受けていただきますと、晴れて一人前の組合員となります。」


 一番最初にラスボスが現れました。警備経験かれこれ4年一度も事故現場に遭遇した経験がないのでグロ耐性は皆無なのである。


「イチタロウ君解体出来なかったのか~。これは申し訳ない」


 ニヘラっとするレッドフォードの横腹を小突き講習を受けるべく3階へと向かう。

その講習が想像を超えることになるとは微塵も考えず。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る