第2話 アナスタシーヤとこの世界
「うるっさいなぁ、今何時だと思ってんの!」
修道服を着た少女が部屋の扉を開けた。というか日本語通じるんだ。聞き忘れていた懸念事項が一つ解消された。
「転移者が一人来ることは聞いてるわ、でも大声出さないで!まだ日の出前なの」
確かに窓から外を見てみると日は昇っていなかった。部屋が当たるかったのは蝋燭、と言いたいところだが室内照明の明かりだ。あと君の声も響いてるぞ
「ごめんさい。もらったものの中身に驚いてしまってつい…」
「そう、まぁ突然のことだろうししょうがないわ、私の名前はアナスタシーヤ。あなたは…名前聞いてなかったわね」
「あっ、はい、私は江口一太郎といいます。友人にはスマイルと呼ばれていました。ここに来る前は日本という場所で生活していました。」
アナスタシーヤっていうのか、少し茶色が混じった金髪を肩甲骨あたりまでの長さで切りそろえ、青い目をしている。元の世界だと北欧の人のようだ。かなりきれいだったので少し緊張してしまい日本のことまで言ってしまったがまぁ私が転移者ということを知っているようなので問題はない、はず。
「スマイル…フフッ、何でもないわ。イチタロウね、よろしく。あと転移者であることはあまり言わないほうがいいわよ。いないわけではないけれど極少数だから」
そう言うと少女は部屋を出て行った。
日が昇り始め遠くから鐘の音が聞こえた。扉越しにいくつかの足音が聞こえ始めた頃アナスタシーヤが部屋にやってきた。働かざる者食うべからずというところだろう、裏手の井戸から水を持ってくるよう小さな水瓶を渡された。井戸に行くとアニメで見たことがあるような井戸があったが滑車がなかった。ロープの端を隣にある木に括り付けていた。ここで初めて身体能力上昇の恩恵を感じた。
「うおっ、軽い」
大体4,5Lほど入りそうな桶に水が並々まで入ったものを10mほど引き上げたのだが全く重く感じない、滑車もないのに。そういえばこの水はどこにもっていけばいいのだろう。聞くのを忘れてしまった。
水瓶をもって調理場へ持っていった。渡り廊下を歩くアナスタシーヤを見つけたから、あとはついていったら調理場だった、ただそれだけの理由だ。
「ありがとうイチタロウ。ただその水は雨水、料理には使わないわ」
そう言うとアナスタシーヤの腕につけているバングルが小さく発光し、鍋に水を貯めた。転移して初めて魔法を見た瞬間だったがあまりにも派手さがない。
「えっと今のは魔法であってる?」
「ええそうね見るのは初めてよね。昔は魔術師もいたらしいのだけれどもう今はいないみたいね。基本的に魔導具に頼りきりよ」
聞くところによると、術石という石を様々な形の導具に入れて魔力を流せば誰でも使えるらしい。それぞれ等級があり下は15上は0まであるとの事だ。等級が高いほど良いもので高価になりアナスタシーヤの水の術石は4等級、120ルーもするそうだ。1ルーが日本円でいくらになるのか分からなかったのでただただ自慢しながら料理をするアナスタシーヤが可愛かったという感想しかないが。
「さぁ料理はできたけど2人しかいないしここで食べて良いわよね」
朝食はパンにキャベツを刻んでコンソメで味付けをしたスープだった
「そういえばさっき他の人の足音が聞こえたけどその人たちは食べないの?」
「あぁ機械人形のことね、電気の術石を入れたら動く人形だから食事はしないわ。それともあなたの世界の機械人形も食事をとらないでしょ?」
「あぁ、食べないな」
なら構わないか、と思いつつ朝食を食べる。神界で聞いたとおり食事は普通においしかった。なんなら材料の名前も料理名も変わらない。水道がないコンロがない、だが機械はある。ローテクなんだかハイテクなんだかわからない。
汲んできた水で教会の清掃をし終えて日が高く昇ったころアナスタシーヤ先生による異世界講義が始まった。
まずは硬貨についてだ。下から『ラー』『リー』『ルー』『レン』『ロン』ラ行だった。『ラー』が1の位をしめし、『リー』から千、万、億、兆となるようだ。日本円の1000万円は1リールーとなる少々面倒くさい。
次にこの世界についてだ。この世界は8つの大陸があるらしいがしっかりとした地図がない。また海を渡っての貿易もあるが近くの大陸とのやり取りしかないため人伝いに聞くしかなく確定情報ではないとの事だ。私がいるのはユー大陸の中都市ウィルというところで近隣の3大陸と貿易があると言っていた。
冒険者組合についての説明も受けた。これに関しては私の希望だ。この世界のことがよくわからないからどんな仕事あってやってみたいかわからない、またせっかく銃も貰ったので出来れば使っていきたいと考えたからだ。組合にも等級はあるようで術石と同じく16階位に分かれている。入会時のテストで10~15級に分けられ、後はよくあるクエストの達成数、達成率によって昇格審査を通知、受けることが出来る。なお昇格審査は座学と面接だ。異世界に転移しても勉強からは逃れられないようだ。
日も傾き始めた頃、異世界講義が終わった。
「ここまでで何か分からないことはある?無いようならとりあえず終わるけれど」
そういえば気になったことがあった
「そういえばここには時計はないのか?」
そう、ここに来て時計を見かけていないのだ。基本的に日の傾きで動き鐘は日の出で一度鳴ったきりだ。
「この世界に時計というものはないわ。時間という概念すらないのかも…。もしかしたら他の大陸にはあるかもしれないわ」
ちょうど日が沈み鐘が鳴った。1日に2度鳴るようだ。
「じゃあ私は家に帰るからこれで、明日には神父が来るからわからないことがあったら聞きなさい」
そう言いアナスタシーヤは教会を出た。あっ、晩飯考えてなかった。確か3ルーと5リー硬貨が荷物に入ってたはず。外食にでもしようかと考え部屋に戻り荷物を見て思い出した。
荷物の中に弾が入っていなかったことに。
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