第053話 私も皆と一緒

「疲れた……」


 疲労困憊と顔に書いて外の客が居る時に使用するダイニングに入ってきたのは雫姉。


 と、


「OH!!良い匂いデスね!!」


 対照的に元気なリスティスだった。


 僕は仕事をしていたんだけど、すでにご飯が出来上がる所だったので緋色が呼びに来た。多分先にリスティス達を呼びに行った後、僕の部屋にやってきたんだと思う。


「雫姉、お疲れ様」

「うん、疲れた。コーチは鬼コーチだった……」


 椅子に座った雫姉に声を掛けると、雫姉は息も絶え絶えと言った様子だ。


「ご飯食べれる?」

「お腹は凄く空いている」

「それなら大丈夫かな」


 食欲もないくらいに疲労しているなら横になった方が良いと思ったけど、食欲があるならまだ大丈夫だと思う。


「リスティスはそこに座ってね」

「はい。ありがとうございマス先生」


 どこに座ればいいか分からないであろうリスティスに僕は席を指定する。こういうのはこっちが指定してあげた方が相手も楽なはずだ。


 海外の人もそうなのかは知らないけどね。


「リスティス、雫姉はどんな感じ?」

「中々筋がいいですよ。これならオリンピックも狙えマース」

「おお!!それは凄い」

 

 僕の質問にニコニコと話すリスティス。


 練習一日目にしてオリンピック四連覇の元最強の選手にここまで言われるなんて雫姉は流石だ。


「コーチ。ほめ過ぎ」

「シズクったら照れて可愛いですネ」


 雫姉は顔を赤らめてリスティスに抗議すると、リスティスは微笑ましく笑った。


「はーい、お待たせ。今日はパスタにしてみたよ」


 話をしていた僕達の元に夏美姉ちゃんと緋色が本日のメインディッシュであるパスタを両手に持って運んできた。


 綺麗に敷かれたランチョンマットの上に料理を乗せていく。


「OH!!これは美味しそうな料理です!!」


 リスティスが綺麗に盛り付けられたパスタを見て呟いた。


 いわゆるボロネーゼというパスタ料理っぽい。付け合わせのサラダなどと合せて彩りが鮮やかで華々しい。それに雫姉はお腹を空かせて戻ってくることを予想していたのか、雫姉の料理が皆よりこんもりしている。


 数時間も泳いでいてあまり食べないと痩せてしまいそうだから、あれくらいがちょうどいいかもしれない。


「それじゃあ食べようか」

「うん!!」

「ええ」

「そうね」

『いただきます』


 俺達は全員が席に着くとお互い顔を見合わせてから食前の挨拶をしてご飯を食べ始める。


「OH!!これが日本のイタダキマスですか!!私もやりまーす。イタダキマス!!」


 俺達を見ていたリスティスが感動したように俺達の真似をして挨拶をしてパスタを食べ始める。


 俺達は夏美姉ちゃんの料理を美味しく頂いた。


「……zzz」

「雫ったらもう寝ちゃってるね」

「よっぽど疲れたみたいね」


 ご飯を食べてるときからウトウトしていた雫姉。食べ終わると、遂にはそのまま眠ってしまった。


「たっくん、寝室に連れてってくれる?」

「分かったよ。ほら、雫姉起きて……」

「んん……拓也……?」

「そうだよ。寝るなら部屋に行こ」

「……分かった」


 夏美姉に言われて雫姉を起こして肩を貸してなんとか歩かせて連れていく。僕がもっと力があればお姫様だっこでもして連れていくんだけど、そんな力はないのでしょうがない。


「それじゃあ、リスティスはプライベートエリア以外は自由に使っていいから。何か分からないことがあったら二人に聞いて」

「分かりマシた」


 僕はリスティスに必要な事を伝えて、雫姉を泊めようと思っていた部屋に、半分寝ている雫姉を連れていく。


 全くこんなに無防備を晒して僕が襲ったらどうするんだ……。


 それほどに雫姉は警戒心を持っていなかった。

 雫姉もハーレムメンバーになったとは言え、そんなにすぐ警戒心ゼロというのも考えな気がする。


「ほら、雫姉部屋に着いたよ」


 部屋に辿り着いてベッドの近くに辿り着いたので寝かせるために声を掛けた。


「ん……んん?ここ違う」

「え?ここ雫姉の部屋にする予定なんだけど?」


 しかし、雫姉は首を振り、僕は意味が分からずに首を傾げる。


「……寝る場所は一つだけ……拓也のベッド」

「はぁ……了解」


 朦朧とする意識の中でもそれだけは譲れないとばかりに僕の寝室のベッドを指定する。幼馴染から恋人になって拒む理由もなくなった僕は、呆れるように溜息をついて自分の部屋のベッドに雫姉を寝かせた。


「おわっ」


 僕は雫姉から離れようとしたけど、雫姉が僕の服を話さなかったせいで僕もベッドに倒れ込む。

 

「うふふ。拓也の匂い」


 雫姉は横に倒れてきた僕に抱き着いて思いきり匂いを吸い込む。


「ちょっと止めてよ雫姉。恥ずかしいから」

「それ……」


 僕が雫姉の行動に抗議すると、彼女は僕から顔を離して突然真面目な顔になって嘲笑の分からない指示語で呟いた。


「え?」

「私も姉付けるのやめて……」


 僕はよく分からなくて間抜け面を晒すと、雫姉は悲し気に答えた。


 あぁ……そっか、そういうことか。


 雫姉だけがまだ呼び捨てになっていなかった。

 そりゃあ不安にもなるよね。


「そっか、そうだね。雫……これでいい?」

「うん、ありがと。大好きだよ、拓也」


 僕が呼び捨てにすると、雫姉は普段あまり変わらない表情を思いきり嬉しそうに歪ませて再び僕に愛を囁く。


「僕も好きだよ雫」

「ふふふ……zzz」


 僕の返事に満足した雫はそのまま眠りに着いた。僕も気づけば意識を落としていた。

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