第052話 万事解決

「ハ、ハーレムって……確かに夏美と緋色とは恋人になったけど、そんな大仰なものじゃ……」

「違うの?」


 僕が慌てて言い訳がましく述べると、雫姉は不思議そうに首を傾げる。


「うっ……」


 そんな純粋に不思議そうな表情をされると、僕の罪悪感が膨れ上がった。


 確かにどんなに言い繕ったところで、複数の女性とお付き合いしているというのはハーレムと言われても仕方ないの無い事だよね。


 僕は雫姉の言葉を認めるしかなかった。


「そ、そうだね……ハーレムだね……あはははっ……」


 僕は乾いた笑みを浮かべて返事をする。


「だよね……それで……私は入れてもらえないの?」

「うっ……」


 俺を潤んだ瞳で恐怖を抱えて怯えながら再度問う雫姉。


 そんな表情をされるとオッケーしてしまいたくなるけど、夏美と緋色にも話を聞かずに決めてしまうのは駄目だと思う。


「それとも……私の事嫌い?」


 悲し気に問う雫姉。


 雫姉にそんな顔をさせたくない。


「そ、そんなわけないよ!!好きだよ!!昔からずっと!!僕の大好きなお姉ちゃんの一人だよ」

「じゃあ入れてくれる?」


 そんな一心で言葉を紡いだら、雫姉は再び僕に問うた。


 雫姉は魅力的な女性だし、夏美姉ちゃんみたいに恋をすることはなかったけど、とても大好きな女性に変わりはない。多分夏美姉ちゃんがいなければ彼女に恋をしていたであろう程に。


 雫姉も彼女に出来ると言うならそれは男として嬉しい事だけど、僕は一体どうすれば……。


「たっくん何を悩んでるの?オッケーすればいいじゃない」

「そうよ?雫姉様なら大歓迎よ?」


 悩んでいる所に二人の女神が舞い降りる。それは夏美と緋色、僕の悩みの当人たちだった。というか二人の結論が早すぎる。


「え?だって二人に話を通しておかないと悪いかと思って……勝手に増やしたら嫌でしょ?」


 でも流石になんの相談も無しに決めるのはどうかと思うので二人に確認を取る。


「そりゃあ知らない相手だったら私も嫌かもしれないけど、ずっと一緒だった雫だもの。なんの問題もないよ」

「夏美の言う通りよ?私は夏美と雫姉様とあなたの間に割り込んだようなものだもの。何も言うことなんてないわ」


 結果、僕の考えに同意を得られることはなかった。僕の完全に取り越し苦労だった。


 悩んでいた僕は一体……。


「あははっ。でも私たちの事を考えてくれたってことだから嬉しいよ」

「そうね、ちゃんと私たちの事を考えてくれてる証拠だもの、気にしないで」

「あはははっ。ありがと」


 落ち込む僕に二人が慰めるように声を掛けてくれる。本心からそう思ってくれてるようなので僕も少し気持ちが軽くなった。


「それで拓也、私も入れてくれるってことで良いの?」

「え、えっと、雫姉が夏美と緋色と一緒でも嫌じゃないなら、ぜひお願いします」


 一気に悩みが解決してしまった所に、雫姉が僕に確認を取る。優柔不断で申し訳ないけど、僕は少し首を向けて照れ笑いを浮かべた。


「嬉しい……!!よろしくね拓也!!ちゅ!!」

「~~!?」


 雫姉が僕の返事を聞くなり僕の胸に飛び込んできて僕の唇に柔らかな感触が重なった。


 僕は驚愕で顔を歪める。


 それは雫姉の唇だった。


 唇を重ねるだけのキス。だけど雫姉は暫く僕から離れなかった。


 これが僕のファーストキスだった。


「あぁ!!雫ったらズルい!!私もまだしてないのに!!」

「雫姉様ズルいです!!」


 僕と雫姉の傍に夏美姉ちゃんと緋色が駆け寄ってきて雫姉に抗議する。


「うふふ。早い者勝ち」


 二人の言葉で僕からようやく唇を離した雫姉は勝ち誇った顔をした。


「私もたっくんとちゅーする!!ちゅっ」

「私も!!ちゅっ」


 雫姉から引き離された僕は、夏美姉ちゃんと緋色からもキスされる羽目になった。


 嬉しいけど、これから気が休まらなさそうだ。


「OH!!先生はもうハーレムを作ってるんですか!!流石デース!!」

「いやぁ……はははっ。僕なんかに恐れ多いんですけどね」


 僕たちの様子を見ていたリスティスが嬉しそうに僕を持ち上げる。僕はいたたまれない気持ちになって苦笑いを浮かべて頭を掻いた。


「何を言ってるんですか?先生程の男ともなれば女の三人くらい囲っていて普通デスよ。私もあと十歳若ければ立候補していたデス」

「流石にこれ以上はちょっと……」


 舌なめずりをして僕を見つめるリスティスの誘いを丁重にお断りする。


「うふふ、冗談デス。それはそうとシズク。練習始めましょう。時間は待ってくれませんよ」


 リスティスは僕の返事にニコリと笑うと、急に真面目な顔になって雫を見て練習に誘った。


「分かりました。よろしくお願いしますリスティスコーチ」


 雫姉も気持ちを切り替えて真剣な表情になり、リスティスに頭を下げる。


「OH!!コーチ、なんともいい響きですね。先生、プールに案内してもらえマスか?」

「分かったよ」


 一瞬先の真面目な顔と雰囲気はどこにいったのか、コーチと呼ばれることの嬉しさで体をくねらせるリスティス。


 彼女に案内を頼まれたので僕は二人をプールに連れて行った。 

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