第046話 不穏な二人

「拓也君、屋上行きましょ?」

「うん、そうだね」


 今日から僕と夏美姉ちゃんと緋色は一緒にお昼ご飯を食べる事にした。


 二人とも恋人なんだからと言うので恥ずかしいし、同級生のヘイトを高めそうだけど、そんなことで遠慮するつもりはないよね。


 だって二人は彼女なんだから。


「え?今日はここで食わないのか?」

「うん、ちょっと姉ちゃんに呼ばれててね」


 特に僕から付き合っていると二人に言うつもりはない。


 この二人は信頼できないわけじゃないけど、普通に言いふらすからね。

 そうなったら非常に面倒なことになると思う。


「でも、なんで篠宮氏が?」

「私も夏美に呼ばれてるのよ」

「そ、そうなんですかな。失礼しました」


 仁は僕だけならともかく緋色も呼ばれていることが疑問だったらしく彼女に尋ねたんだけど、緋色が呼び方を変えていることに気づいたらしく、もう何も言わなくなった。


 仁は人の気持ちの機微になんだかんだ鋭いので、僕たちの関係がある程度伝わったかもしれないね。


「うわ、女の子二人と昼食とか完全に裏切者だ!!異端審問を要求する!!」


 一方関谷は全く気づくこと無く、僕が夏美姉ちゃんと緋色と一緒にご飯を食べることを羨ましがって理不尽な要求をしてくる。


「なんだよそれ。姉ちゃんとは元々幼馴染なんだから別におかしくないじゃん」

「羨ましいものは羨ましいんだ!!畜生!!俺も女の子とお昼ご飯を食べて青春を謳歌したい!!」


 僕が正論で言い返すと、関谷は叫びながら机に突っ伏して泣き始めた。


 そういうことをするから周りのクラスメイト、特に女子と僕たちの距離が開くんでしょうに。


 緋色も僕たちの所に来るたびに他の女子たちに心配されているらしいからね。


 それに声がデカいから僕の事も全部伝わっちゃったじゃないか。そのせいで他の男子のクラスメイトからは嫉妬の視線を感じるし、女子たちからは羨望と怒りの視線を受けている。


 男子は分かりやすいとして、女子は夏美姉ちゃんと一緒にご飯を食べられることが羨ましい人と、僕が夏美姉ちゃんや緋色と相応しくないと思っている人たちだろうね。


 僕もそう思うんだけど、二人が思ってるくれるのならこれから僕は二人にふさわしい人間になろうと思う。


「まずはその考えと、その考えを大っぴらにしちゃう癖を止めないとね」

「うっ。いいんだいいんだ。俺は自分のありのままを受け止めてくれる人を探すんだ!!」


 僕が再び真っ当な意見を言うと、開き直って椅子にもたれかかって思い切り背筋をそらし、天井に向かって叫んだ。


「はいはい、それじゃあ、僕は行くね」


 僕は付き合いきれなくなったので席を立ち、緋色と二人で連れだって屋上に向かった。


「え?あの二人ってまさか?」

「あの篠宮さんがあの男と付き合ってるの?」

「そんなぁ。あんな男に負けるなんて……」


 ランチ時間で僕と緋色が似たような弁当箱を持っているのを目撃して推測をひそひそと述べている。


「気にしない事よ。私が好きな事実は誰にも曲げられないわ」

「う、うん。ありがとう緋色。分かってるよ」

「わ、分かってるならいいのよ」


 僕が少しオドオドした態度を取ったのが分かったのか、緋色が僕を安心させるように呟く。僕が感謝を伝え、名前を呼んだら、まだ慣れていないらしく、頬を赤らめ、そっぽを向いた。


「あ、たっくんきたみたいだね。こっちこっち」


 僕らが屋上に着くと、夏美姉ちゃんが屋上の扉を開けてやってきた僕達を見つけて声を上げる。


 他にも屋上でご飯を食べている連中がいるので、夏美姉ちゃんの声によって周りの視線が僕たちに集まる。


「え!?夏美お姉さまが待っていたのってあんなさえない男なの?」

「ホントだ。なんだか陰キャっぽいよね」

「なんであんな男と?それに緋色さんもいるようだし」


 僕の顔を見ながらひそひそと話をしだす周りの人たち。


「全く聞こえないと思ってるのかな?私の耳は結構いいんだけど」


 僕が夏美姉ちゃんに近づくと、夏美姉ちゃんが少し大き目な声を出す。それが聞こえていた周りの人たちはビクリと肩を震わせて大人しくなった。


「ホント私がああいう人達と仲良くしたいと思う訳ないのにね。困っちゃうよ」

「ははははっ。相変わらず夏美は辛らつだね」


 夏美姉ちゃんは不機嫌そうに近づいてきた僕に話しかけてくる。勿論声は大きいままだ。僕はその言葉に苦笑いを浮かべる。


「だって上辺で取り繕って付き合っても、どこかで陰口言ってるんじゃないかと思うじゃない?そんな連中と付き合いたくないし、同じに見られたくないじゃない」

「同感ね」


 夏美は言葉をつづけ、緋色も同じくらいの音量で答えた。


 完全ここにいる人たちと付き合いを持つことはありませんという拒絶だった。


「とりあえずそんなことはどうでもいいよ。ご飯食べよ」

「そうだね」


 僕たちは和やかにご飯を食べだした。


「あーん」

「あーん」


 二人にあーんをさせられながら。流石にこれは恥ずかしかった。


「ん?」


 二人に食べさせてもらいながら、僕の恥ずかしい時間が終わり、少し二人と雑談していると、僕はフェンスから下をおもむろに眺めた先に、校舎の裏に歩いていく雫姉と男の教員か何かが視界に映った。


 雫姉は思いつめた顔をしていて、男の方が何やら良からなぬことを企んでいそうな顔をしている。


「夏美、緋色ごめん、僕ちょっと先に行くね!!」

「どうしたの?」

「どうしたのよ?」

「ちょっとね。それじゃあ、また後で」


 僕はそそくさと弁当箱を片付けて二人が入り込んだ場所に向かった。

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