第040話 ご奉仕とラッキースケベ

「そうそう、そしたらたっくんがさぁ……」

「へぇ、そんなことがあったのね。羨ましいわぁ……」


 なんだか遠くから誰かが話している声が聞こえる。


 僕はぼんやりとした意識の中、徐々に状況を理解し始めた。


 ああ、僕はリビングにやってきてソファーで横になったテレビを見ていたら、寝落ちしてしまったのか。それにしても頭の下が妙に柔らかいような気がする。


 ソファーらしい素材とは違ってなんだかぷにぷにするような……。


 僕は頭の下に手を伸ばす。


 その柔らかい何かは少しひんやりしていて、もちもちした感触があった。


「きゃっ!?」

「え?」


 僕は柔らかい何かに触れてすぐに聞こえた悲鳴に急速に意識が覚醒する。


 すると、僕の目の前には恥ずかしそうに口を噤んで、僕を睨む緋色の顔をあった。


「えっと……どうなってるの?」

「ふふふ、たっくんおはよう。今緋色がたっくんを膝枕してるんだよ?」


 僕は緋色に向かって質問したはずだけど、僕の頭の上から夏美姉ちゃんらしき声が聞こえた。


 緋色に関しては同じ年だからまだいいんだけど、夏美姉ちゃんとは付き合いが長いし、長年呼んでいたくせは中々抜けだせないので心の中では、今まで通りに呼んでしまう。


 僕は夏美姉ちゃんの声を反芻する。


 緋色が僕の膝枕をしているという。つまり僕の頭の下にあるの緋色の太腿!?ということは僕が触ったのは、緋色の太腿だったのか!?


 どおりでモチモチしててスベスベで肌触りが良いと思った。


 可愛いの女の子太ももだったのなら納得だよね。


 って!!そういうことじゃない。


「ご、ごめん」

「べ、別にいいわ。か、彼女だもの、このくらい」


 僕は緋色に膝枕されたまま謝ると、彼女は恥ずかしそうにそっぽを向き、腕をくんで返事をした。


「そ・れ・よ・り・も!!緋色の膝枕はどうだったかな?」

「え、えっと、それは……」


 僕たちの微妙な雰囲気も何のその。夏美姉ちゃんはニヤニヤしながら僕の顔を覗き込む。僕は答えず楽て目を逸らして言いよどんだ。


「緋色も感想聞きたいよね?」

「え、ええ。そうね、どうだったのかしら?」


 言いよどむ僕を見て夏美姉ちゃんは緋色に尋ねると、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめつつも僕の顔を見つめた。


 流石にここは変な事を言ってはいけない場面だ。

 こんな時どんなことを言えばいいのか分からない。


 助けてください、神様。


「えっと、枕よりも柔らかくて物凄く安眠で来たよ。ありがと」


 僕は分からないので率直な感想を言って礼をいった。


「ふ、ふーん。そ、そう、それなら良かったわ」

「緋色良かったね」

「う、うん」


 それが正解だったのかは分からないけど、緋色は嬉しそうに顔を赤らめて恥ずかしそうに夏美姉ちゃんと笑いあった。


「今何時?」

「そろそろ八時だね」

「うーん!!それじゃあ僕は目を覚ますためにお風呂に入って仕事するよ」

「分かった」


 僕は頭の後ろに残る感触にドギマギしつつ、お風呂へと向かった。


 今日はお風呂に突撃してくる、というサプライズもない……


―ガラガラガラッ


 という訳にはいかなかったらしい。


 僕は振り返ると、そこには歩いてくる緋色の姿があった。

 

「ど、どうしたの?」

「な、夏美にご奉仕してきなよって言われたのよ……」


 僕がもじもじしながら尋ねると、彼女も顔を逸らしながら顔を赤らめて言う。


「別に無理してこなくても……」

「む、無理なんかしてないわ。し、したいから来たのよ」

「え?」


 僕は夏美姉ちゃんがニヤリと小悪魔のように笑う姿を思い浮かべ、思わず苦笑いを浮かべたけど、彼女の言葉に呆けてしまった。


「だから拓也君にご奉仕したいからきたの!!」

「そ、それはその……」


 喜々となかったわけじゃないけど、再び繰り返す彼女に僕は何かを言おうとするけど、言葉にならなかった。


 夏美姉ちゃんも変なことを緋色に教えてくれちゃってもう。


「と、とにかく大人しく私に洗われてよね」

「わ、わかったよ」


 緋色はスポンジを手に持つとそれに液体せっけんを染みこませて泡立たせた後、僕の背中をこすり始める。夏美姉ちゃんのように柔らかな体の一部で現れなかったことが嬉しいような悲しい様な、そんな微妙な気持ちになった。


「どうかしら」

「うん、気持ちいいよ」

「えへへ、そっか」


 うんしょうんしょと僕の背中をこする緋色が、僕に尋ねるので答えると、嬉しそうな声色が浴室内に木霊する。


 喜んでいるならまぁいいか、と暫く洗われてお湯で背後を流された。


「ありがとう。もういいよ」

「そう?分かったわ」

「それじゃあ、また後でね」

「ええ」


 頃合いを見て緋色に声をかけ、僕は自分の前の洗い出した。


「え?きゃぁああああああ!!」


 しかし、後ろでいきなり悲鳴が上がる。僕はすぐに振り返ると、濡れた床で滑って今にも後ろにひっくり返りそうな緋色の姿だった。


「緋色!!」


 僕はすぐさま叫びながら頭を打たないように彼女を支えようと、身を乗り出す。


「うわっ!?」

「きゃああああああああ!!」


 しかし、僕も踏ん張りがきかずにすっ転んでしまい、彼女を支えられずに倒れ、僕の上に彼女が倒れた後、もつれて転がった。


「いたたた……」


 僕はすぐに身を起こそうとするけど、体が動かない。動くのを何かに阻まれている。それに、頬にとてもいい匂いで柔らかい感触を感じる。僕は手でペタペタと確認すると、どうやら緋色を押し倒している状態になっているらしい。


 それじゃあ、僕の顔が包み込まれているこの柔らかい物体は……!?


 我に返った僕は体を起こそうとするんだけど、緋色の手足が僕を離すまいと絡みついていて動くことが出来ない。


「緋色、緋色ってば!!」

「う……」


 緋色は打ち所が悪かったのか、起きる気配がない。こんな所を夏美姉ちゃんに見られたら絶対勘違いされる、そう思った矢先の事だった。


「緋色!!大丈夫!?凄い悲鳴が聞こえたけど!?」


 夏美姉ちゃんが浴場に駆け込んできて叫ぶ。


「……たっくんたら、だいたーん!!」


 そして僕を見るなり、しばらく沈黙した後、ニヤリと小悪魔の様な笑みを浮かべた。


 案の定、僕は夏美姉ちゃんに物凄い勘違いをされることとなった。

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