第038話 超急展開

「うふふ、邪魔しちゃって悪いけど、ご飯出来たよ」


 夏美姉ちゃんに緋色さんを泣かせてしまった事をニヤニヤしながらからかわれる僕。


「そんなんじゃないからね!!ね、緋色さん?」

「……」


 僕は否定してほしくて緋色さんに尋ねるが、緋色さんは俯いて何も言わない。


「え!?緋色さんなんで何も言わないの!?」

「やっぱりそういうことなんじゃないのぉ?このこの!!たっくんたらいつの間にジゴロになったのかな?」


 何も緋色さんに驚いている所に夏美姉ちゃんが隣からスススーっと忍び寄ってきてニヤニヤしながら僕を肘で突いて再びからかう。


「いやいやいや、そんなものになった覚えはないから!!」

「なろうとしてなるようなものでもないからね~、にしし」

「緋色さん、なんとか言ってよ!!」


 僕は必死に否定しようとするんだけど、夏美姉ちゃんはさっきからニヤニヤ笑って面白がっている。僕は困って緋色さんに振った。


「わ、私はずっと前から拓也君が好きよ!!」

「えぇ~!!一体どういうこと!?」


 緋色さんからの突然告白。


 僕は緋色さんの言っている意味が分からなくて、いや理解したくなくて、思わず聞き返してしまう。


「だから好きだって言ってるの!!私をどん底から救ってくれたあなたをどうして好きにならないと思うの!?」

「えぇ!?ちょっと待ってくれる?と、とにかく一旦深呼吸して落ち着こ!!」

「わ、分かったわ」


 勘違いだと思いたかったけど、もう一度告白されたことでそれは間違いない事実であることを理解した。


『ス~、ハ~。ス~、ハ~』


 僕はあまりの急展開についていけなくなって深呼吸をする。緋色さんも同じように深呼吸をして気持ちを落ち着かせていた。


「えっと……それで、緋色さん、その話は本気なの?」

「も、もちろんよ。拓也君、大好き。傍にいさせてほしいの」

「~~!?」


 僕は少し落ち着いた状態で再び確認すると、緋色さんは先ほどの事があり、恥ずかしくなったのか、頬を染めて少し目を逸らして三度目の告白をした。


 あまりに真っ直ぐなその言葉に僕は思わずドキリとして赤面する。


 でも僕はその気持ちを受け取ることが出来ない。


「ご、ごめん。僕は夏美姉ちゃんが好きなんだ」

「そ、そうだよね……」


 僕は素直に答えて頭を下げると、緋色さんは泣きそうな顔になって俯いてしまった。


「え?」

「あ」


 しかし、突然聞こえてきた間抜けな声にとんでもないことを言ってしまったという事実に気付いて同じように間抜けな声を上げた。


 そうこの部屋には夏美姉ちゃん本人が普通にいたのである。しかも隣に。


 僕がブリキの人形のごとくギギギと首を隣向けると、顔を真っ赤にした夏美姉ちゃんが立っていた。


「たっくん……それホント?」

「う、うん」

「嬉しい……私も勿論大好きだからね!!」


 夏美姉ちゃんがモジモジしながら僕に問いかけるので、僕は嘘をつくことも出来ずに素直に頷いた。


 夏美姉ちゃんは目瞑って手を胸に抱いた後、首を軽く傾げて大輪の花のような笑顔を見せた。


「え!?嘘じゃなかったの!?」

「あぁああああ!!ひっどい!!そんな訳ないじゃない!!私はいつだって本心でしゃべってたのに!!」


 僕は夏美姉ちゃんの言葉がいつものようなからかいの一部だと思っていたら、いつもの言葉が本心だという。


「え!?ホントに?」


 僕は目を見開いて尋ねる。


「うんそうだよ?」

「そ、そうなんだ。嬉しいな……」


 さも当然といった表情で軽く首を傾げる夏美姉ちゃん。僕は少しずつ相思相愛だという事実が理解できてきて、嬉しさが込み上げてきた。


 しかし、僕はまた忘れていた、そこには緋色さんがいたということを……。

 

「お、おめでと……」


 緋色さんはそう言って部屋を出る為に駆け出そうした。


「あ、待って緋色ちゃん!!」

「ぐすっ……離してください!!」


 しかし、夏美姉ちゃんが緋色さんの腕を掴んで引き止める。睨みつけて振り解こうとする緋色さんの顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。


「そう言わずに話だけでも聞いてみない?」

「ぐすっ……なんですか?」


 優しげな微笑みを浮かべて緋色さんに提案する夏美姉ちゃん。その表情になにかを感じたのか緋色さんは立ち止まる。


「緋色ちゃんも一緒にたっくんの彼女にならない?」

「はぁ!?」

「え?」


 夏美姉ちゃんからの驚愕の一言のせいで緋色さんだけでなく、僕も素っ頓狂な声を上げた。


「だからね、緋色ちゃんもたっくんの彼女にならない?たっくんも緋色ちゃんのことは嫌いじゃないと思うし、そうすればお互いハッピーじゃない?私は緋色ちゃんも一緒だと嬉しいなぁ」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ姉ちゃん!!」

「たっくん、ちょっと黙ってて」

「あ、はい」


 夏美姉ちゃんがもう一度より詳しくさっきと似た言葉を繰り返す。僕は聞き捨てならなくて話を止めようとするが、夏美姉ちゃんの有無を言わせぬ表情に何も言えなくなった。


「ねぇ、緋色ちゃんどうかしら?」

「…………ぐすっ…………い、良いんですか?」


 夏美姉ちゃんの質問に緋色さんは恐る恐る聞き返した。


「勿論よ。だってたっくんはもっと沢山の女の子を幸せに出来るからね!!私一人だなんて勿体ないよ!!それよりも、緋色ちゃんはたっくんを独り占めできなくてもいいの?」

「ぐすっ……私は夏美姉様と雫姉様達の間に入れるとは思ってなかったですし、ぐすっ……お二人は好きなので……」

「なら決まりね!!」


 夏美姉ちゃんは本気で二股を問題ないと思っているみたいで、逆に緋色さんにそれが嫌じゃないか問い返すと、緋色さんも満更でもない様子で返事をすると、夏美姉ちゃんはパンと胸の前で手を叩いた。


「ということでたっくん、私達二人を彼女にしてくれる?」


 二人がこっちを向いて夏美姉ちゃんが代表して僕に問いかける。


 そんな質問ある?


「い、いや、僕は夏美姉ちゃんが好きで……」

「たっくんは緋色ちゃんの事が嫌いなの?」


 僕が言いよどむと夏美姉ちゃんがそんな答えにくい質問を僕にする。


 そんなことは言うまでもないことじゃないか。


「嫌いじゃないよ?むしろ友達としては好きだし」

「ならいいじゃない!!男ならハーレムに憧れるでしょ?」

「え!?」


 僕はあたりさわりのない返事をしたら、また夏美姉ちゃんの二次元発作が始まった。僕は思わず驚愕する。


 男はハーレムに憧れる。


 それはあくまで空想の話だし、リアルでやろうと思う人はいないと思うし、僕は全く憧れていないんだけどなぁ。


「駄目ならその時に考えればいいじゃない。それにたっくんが好きな私のお願いなんだけどなぁ」

「わ、分かったよ!!二人とも彼女にするよ!!」


 夏美姉ちゃんが僕の目の前で屈んであざとく上目遣いで見上げてくると、そのあまりの攻撃力の高さに僕は降参して二人とも彼女にすることに同意した。


 夏美姉ちゃんは言い出したら止まらないからなぁ……。


「やった!!」

「いいの?」


 無邪気に喜ぶ夏美姉ちゃんと、本当にそれで大丈夫なのかと僕に問いかける緋色さん。


「いいよ、緋色さんの事は好きだし、そういう関係になれるかは分からないけど、真剣に向き合ってみるね」

「うん、分かった。ありがとね、これからよろしく」


 緋色さんはそのぐちゃぐちゃになった顔をくしゃりと歪ませて、僕に飛び切りの笑顔を見せた。その笑顔には嬉しさと安堵が見て取れた。


「こちらこそ、よろしく」

「さぁさ、そうと決まったら、皆でご飯にしましょ!!お腹が空いたよ!!」

「そうだね」

「はい、ご相伴に与ります」


 僕は突然二人の彼女が出来ることになり、その彼女達とご飯を食べることなった。

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