第034話 搬入
「それじゃあ着替えてくるから、これでも飲んでて」
「え、あ、うん、ありがと」
僕は緋色さんをリビングに案内し、ソファーに座らせると、キッチンからジュースを持ってきて緋色さんの前のテーブルに置いた。そしてすぐに、荷物を置いたり、着替えたりするために寝室に向かった。
―ピンポーンッ
僕は着替えて再びリビングに戻ろうとすると、インターホンの音が鳴る。そこに映っていたのは、爺ちゃんの知り合いである宅配業者の立浪のじいちゃん達だった。僕は波じいと呼んでいる。
爺ちゃんとは小さいころからの幼馴染で親友の間柄。爺ちゃんが最も信頼している友人であり、僕も可愛がってもらったし、信頼できる人間であるので、プライベートルームへの大きな荷物の運搬や設置はおじさんの所へ任せている。
僕一人でも住める状態にするために家具やら家電やらを買った時も一旦、波じいの所で受け取ってもらって、その後内に運んでもらっていた。
そう言えば、今日姉ちゃんの家具を含め、客室の家具類も届く予定だった。
僕は急いで部屋に備え付けれられたインターホンに出る。
「波じい、いらっしゃい」
『おう、拓坊。頼まれていた家具とか持ってきたぞ。門を開けてくれ』
「了解」
『あ、たっくん、私もいるよ~』
僕はインターホンのボタンを操作して、外の門を開けた。外の門はボタン一つで自動で開閉する。そしてそこに丁度夏美姉ちゃんがインターホンに割り込んできた。買い物が終わったらしい。夏美姉ちゃんには勝手口のカギを渡しているのでそっちから入ってくると思う。
『それじゃあ、持っていくわ』
「よろしくね。玄関の鍵は夏美姉ちゃんが明けてくれると思うから」
『おうよ』
返事をした波じいはすぐにカメラに映っているトラックに戻ると、運転席に乗り込んで邸内に乗り込んだ。
その後門が閉じるところまで確認すると、緋色さんを待たせっぱなしだったことを思い出し、すぐさまリビングに戻ると、そこには俯いた様子でソファーに腰掛けたままの緋色さんが待っていた。
うっかり忘れていた。緋色さんはさっき男たちに酷いことをされそうになって不安になっていたんだった。
「ごめん、緋色さん。遅くなっちゃって。不安だったよね」
「う、うん。心配かけてごめんね」
僕はすぐに緋色さんの隣に腰掛けて謝罪すると、緋色さんは気丈に振る舞おうとするけど、完全に無理しているのが丸わかりだ。
「ううん、大丈夫だよ。それからちょっと家に僕の知り合いが家具とか持ってくると思うけど、信頼できる人だから安心してね」
「え、ええ、分かったわ」
「僕も今はここにいるし大丈夫だよ。もうすぐ夏美姉ちゃんもくるから」
「あ、ありがと」
僕や夏美姉ちゃん以外の人間が家の中に入ってくると分かった緋色さんは、身を強張らせた。それが分かった僕は、出来るだけ安心させるように、悪いとは思ったけど、背中を擦って安心させるように語りかけると少しだけ落ち着いてきたようだ。
―ティロリロリンッ
「あっ。ちょっと出てくるね」
「え、ええ」
再び別の音がなったので僕は席を立ち、インターホンとは別の備え付けられた画面を見る。それはプライベートルームに入る際のインターホンの様なものだ。そこには先程と同様に波じいと、さっき映ってなかった波じいの息子さんたちが映っている。
全員一度会っているので顔見知りなので問題ない。何かあった時は波じいと爺ちゃんが責任をとるまで言っているので大丈夫だろう。
「もしもし、波じい、開けるね」
『おう、たのまぁ。しばらくドアあけといても大丈夫か?』
「うん、大丈夫だよ。夏美姉ちゃんの部屋に関しては夏美姉ちゃんに本人に聞いてね」
『了解。それじゃあ、運び込むな』
ドアを開けておかないと家具とかを持ってこれないからそれは仕方がないし、今現在ここには信頼できる人間しかいないので問題ないだろう。
「よろしく」
僕が返事をしたら波じいたちは持ってきていた家具を運び込み始めた。
「ただいま~」
それと同時に夏美姉ちゃんがリビングに入ってくる。
「姉ちゃんおかえり」
「うん、緋色ちゃん大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です」
夏美ちゃんが緋色さんに話しかけると、力のない笑みを浮かべる。
「あんまり大丈夫じゃなさそうね。それじゃあ、私が波じいに指示をだしてくるよ」
「え、僕がやるよ!?」
夏美姉ちゃんがすぐに緋色さんの本心を見抜いたようで買って出る。僕は夏美姉ちゃんにそんなさせるわけにもいかないので声を上げた。
「だぁかぁらぁ、そんな状態の女の子を一人にしておくっていうの?」
夏美姉ちゃんが僕の返事がお気に召さない様子で腰に手を当てて腰を曲げて僕を叱る。
「いや、さっきとは状況が違うし、そういうのは同性の夏美姉ちゃんのほうが良いんじゃないの?」
さっきは僕が矢面に立ったし、クラスメイトだっていうのもあるし、姉ちゃんよりも直接の親交があるっていうのもあった。でも、また襲われるかもしれないという漠然とした不安は、同性と一緒にいた方が安心するような気がするけど、違うのかな。
「それじゃあ、聞いてみましょうか?」
「えっと、緋色さんは、夏美姉ちゃんのほうがいいよね?」
顎で暗に僕に聞けと言ってくる夏美姉ちゃんに勝てるわけもなく。僕は尋ねた。
「で、できれば、拓也君が居てくれた方が……」
「ほらね」
緋色さんは言い切らなかったが確かに僕にいて欲しいといった。その言葉に夏美姉ちゃんはニヤリと口端を吊り上げる。
何がそんなに嬉しいんだか。
でもこれで夏美姉ちゃんが正しいということになる。
「夏美姉さま、ごめんなさい」
緋色さんは僕を選んだことを夏美姉ちゃんに謝る。
半ば強制的に答えさせられたのだから、そこまで気に病む必要もないような気がするけど、申し訳ないんだろうな。
「いいよ!!それじゃあ、行ってくるね!!」
「わ、分かったよ。お願いね」
緋色さんの謝罪に夏美姉ちゃんはにこりと笑って返事をすると、波じい達の下に向かった。
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