第030話 姉ちゃん無双
「へへへへ、やっと見つけたぜ、AKANEちゃーん!!」
「前の配信に入っていた音で大体この辺だと思ってたんだけどねぇ~。やっと見つけたよぉ!!」
「あんなエッチな格好で誘ってるんだもん、俺達の事を待っててくれたんだよねぇ?」
男たちは緋色さんを囲んでいて、その中の如何にも悪人面の若い男が緋色さんの腕をつかんで上に無理やり上げさせて壁に押し付けていた。
「は、離しなさいよ!!人違いなんだから!!私はAKANEなんかじゃないわ!!」
「そんなことないんよぉ~。ちゃぁあんと画像で比較したんだから。間違いなく君はコスプレイヤーのAKANEたんだよぉ~」
どうやら緋色さんはコスプレイヤーとして有名で、配信なんかもやっている人で、その配信に入っていたこの地域特有の音で特定されてしまったということらしい。
しかし、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「おい、何をしてるんだ!!」
僕は気持ち悪い笑みを浮かべる男たちに叫ぶ。
「なんだ、お前は?お前みたいな陰キャはひっこんでな」
「お、そっちの娘もめっちゃ可愛いね。後で相手してあげるねぇ」
「凄いよぉ!!そっちの子僕のめっちゃ好み。可愛がってやるよ!!」
男たちは目敏く夏美姉ちゃんに目をつけてふざけたことを言い始めた。
「ふざけんなよ!!夏美姉ちゃんに指一本触れさせてたまるか!!それよりもそっちの子の手を放せ!!」
僕は夏美姉ちゃんにその汚らしい視線と言葉を向けられて激昂する。
夏美姉ちゃんに手を出して絶対に許さない!!
そんなことをしたら、僕が持ちうるすべてを使って生きてることを後悔させて見せる。
「ああん、お前には関係ないだろ?すっこんでろよ。これは俺達とAKANEたんとの問題なんだよ!!」
「そうだそうだ、AKANEんは俺達を待っていたんだぉ」
「AKANEたんはファンである俺達と楽しいことをするんだよ」
僕の言葉を意に介することもなく、あざ笑うように答える男達。
「そうなの?」
「ち、違うわよ!!こいつらが勝手に言ってることよ!!」
僕は気を静めて本人に尋ねると、緋色さんは否定する言葉を叫んだ。
どちらの言葉を優先するかなんてどう見ても分かる。
「誰が喋っていいっつったんだぁ、このクソォアマァ!!」
「きゃああああああああああああ!!」
手を掴んで緋色さんを持ち上げていた男が緋色さんの頬を思いきり引っ叩いた。
「女の子になんてことするんだ!!警察呼ぶからな!!」
「ふざけんなよ、てめぇ!!」
僕が携帯電話を取り出して脅すと、男たちの内一人が激高して僕に突っかかってくる。
「誰に手を出そうとしてるの?」
しかし、僕の前に影が差し、誰かが立ち塞がった。ポニーテールをたなびかせ、颯爽と現れたのは勿論、僕の従姉である夏美姉ちゃんだった。
「なんだぁ!?相手してほしいのかぁ?」
「バカも休み休み言ってくれる?誰があんたなんか相手にするの?」
夏美姉ちゃんは相手の厭らしい顔を呆れるように睨んで肩を竦める。
「はぁ!?ふざけやがって!!」
その言動が気に障った男は、夏美姉ちゃんが現れたことで緩めたスピードを再び高めて夏美姉ちゃんに襲い掛かった。
「それじゃあ、ばいばい」
姉ちゃんは軽く微笑んで別れの言葉を告げる。直後、男は姉ちゃんの動きについて行けず、姉ちゃんに背後を許してしまい、神崎家特有の動きで放たれた蹴りを受けてしまった。
「はっ?」
すると、その男は何が起こったのか分からないと言った顔をしながら、カクンと膝を落とし、腕を力なくだらんと垂らして、口をパクパクとさせている。
「来るんじゃねぇ!!」
夏美姉ちゃんはそいつだけじゃなく、他の二人にも近づく。しかし相手は緋色さんを縦にして姉ちゃんの攻撃を止めようした。
「え?」
しかし、そんな脅しは姉ちゃんに通じることも無く、軽くトントンと蹴っただけのように見えるのに、緋色さんを人質に取っていた男も崩れ落ちて動かなくなった。
「お前、こいつらに一体何しやがったんだぉ!?」
「何ってあんたたちに必要ない物を消してあげたんじゃない?感謝してよね?」
二人が崩れ落ちて動けなくなっているのを見て、太った男が姉ちゃんに怒り気味に尋ねるが、姉ちゃんがどこ吹く風と言った感じで肩を竦める。
「ふざけるなぁ!!」
「バカね……」
二人が何もできなくなっているのを見て、そのまま逃げればいいものを、丸々と太った男はキレて姉ちゃんに襲い掛かった。
そんなのただの姉ちゃんの餌食だよ……。
僕は少しその太った二十台半ばくらいの男が哀れに思えた。
「ほ?」
姉ちゃんは再び素早く男に近づいて、二、三発軽く蹴りを入れた。男は他の男達と同様にその場に崩れ落ちた。
夏美姉ちゃんホント強すぎる。
「ね、ねえちゃん……」
「あ、ごめん。つい、たっくんに手を出そうしたからやっちゃった」
僕が声を掛けると姉ちゃんは可愛らしく舌を出して申し訳なさげに頭を軽く下げた。
「ごめんね。僕が弱いから守ってくれたんだよね」
「気にしないの。適材適所だよ。たっくんは自分が弱いと分かってても彼らの所業を見逃さなかった。その気持ちはすっごい事だと思う。だから、私は私の出来ることをやっただけ。分かった?」
僕が申し訳なさそうに肩を下げると、夏美姉ちゃんは僕に言い聞かせるように囁く。
そうだ。こういう時は言葉が違うんだった。
「う、うん、そうだね。やっぱり姉ちゃんは強いや、ありがと」
「えへへ、嬉しい。それよりも」
僕が笑って夏美姉ちゃんに礼を言うと、夏美姉ちゃんは嬉しそうに頬を染めた後、緋色さんの方に視線を送った。
「ああ、そうだった」
慌てて今の状況を思い出した僕は、緋色さんの所に駆け寄った。
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