第026話 クラスメイト
「幼馴染ってだけでそれは酷いんではないかい、二人とも」
僕はいきなり裏切り者扱いされたので不満げに答える。
「バカも休み休み言えよ、この野郎!!」
「そうですぞ、桐ケ谷氏!!お二人の幼馴染になりたくても我々はどうやってもなれないんですぞ!!」
二人は僕の反論にふざけるなとばかりに激昂する。
「そんなこと言われたって仕方ないじゃないか。夏美姉ちゃんは従姉弟だし、雫姉は夏美姉ちゃんと仲良かったし」
鬱陶しい事この上ないけど、僕は顔を背けて唾から顔をガードしつつ返事をした。
「従姉弟!?ちょ!?おまえそんなエッチな関係を築いていいと思ってんのか!?」
「いや、従姉弟ってエッチな関係じゃないから」
雄二が驚愕を顔に張り付けて意味不明なことを叫ぶ。僕はその叫びを首と手を横に振って否定した。
いつも思うんだけど、雄二の頭の中は一体どうなってんだろうか。
「何言ってんだよ!!従姉弟の年上の美人なお姉さんなんて、エッチを体現したような存在じゃないか。合法的に一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たりできるだろうが!!」
「い、いや、従姉弟って理由だけでそんなこと出来るわけないから。雄二はエロゲのやり過ぎだ」
雄二がイケない想像でもしているのか、だらしのない表情を浮かべた後、真剣な顔で僕に詰め寄った。
僕は雄二の言葉にドキッとする。
だって大体合っているから。ちゃんと入ったわけじゃないけど、一緒に風呂入ったし、一緒に寝たし。
しかし、出来るだけ感情に出ないように答えた。
「関谷氏の言うことは放っておくとして、あの二人はこの学校の中で、いや近隣も含めて、圧倒的人気一位と二位に君臨する女神。五大美姫とはいうものの、あの二人は完全に別格ですからな。そんなお二人と一緒に、しかも腕を組んで登校できるポジションが羨ましくないわけがないのですぞ」
「そう言われてもなぁ。最近まで疎遠だったし、久しぶりに会ったからね」
「疎遠になっていたのにあの距離感。羨ましすぎる」
僕と姉ちゃんたちが腕を組んで歩いていたのをどこかで見ていたのか、雄二が恨めしそうな顔で僕を睨む。
「どっちも姉みたいな人だからね。僕を弟みたいだと思ってるだけだよ」
「久しぶりにあった弟が見ない間に大きくなっていて……」
「はぁ……ないから」
僕が肩を竦めて答えると、また変な物語を語りだす雄二。僕はため息を吐いてそんな僕に都合の良さそうな未来を示唆する物語を否定した。
「あんたたちも懲りないわねぇ」
僕達に話しかけてきたのは、クラスメイトの篠宮緋色。世にも珍しい赤みががった黒髪の毛を地毛に持つ少女。生意気そうだけど、整った容姿をしている。その美しいロングヘアーをたなびかせ、僕達の会話に割り込んでくる。
「篠宮氏、おはようですぞ」
「こ、これは篠宮さん。こんなむさくるしいところへようこそ」
「あ、緋色さん、おはよう」
「仁、雄二おはよう。た、拓也君、おはよう」
彼女はクラスカースト最上位にいるにもかかわらず、こうして僕たちに話しかけてくる奇特な人だ。二人には普通に挨拶するのに、僕に挨拶する時だけそっぽを向いてなんだか恥ずかしそうに挨拶をする。
緋色さんとは僕が落とした携帯を拾ってもらってから話すようになったんだけど、なぜかあんなふうに恥ずかしそうにするんだよね。
僕は緋色さんとの出会いを思い出す。
「は、はい、これ……」
「え、あ、うん、ありがとう!!えっと……」
僕がボーっとしていて落とした携帯を、近くを歩いていた彼女が拾って埃を払った後、僕に手渡してくれたんだっけ。
僕はお礼を言おうと思ったんだけど、雄二と仁以外のクラスメイトとは縁遠かったから緋色さんの事も知らなかったんだよね。
それで名前を言いよどんでしまった。
「あ、あんた、私の名前知らないの!?」
「ご、ごめん」
彼女は自分の名前を知られていない事に驚き、僕はその声に僕は怒らせてしまったのかと思って頭を下げた。
「あ、いや、べ、別に怒ったわけじゃないのよ。ビックリしただけ。い、いいわ。わ、私は篠宮緋色。よろしくね」
「あ、うん。僕は桐ケ谷拓也。篠宮さんよろしく」
お互いに自己紹介した僕達。
ずっとモジモジしながら彼女が話しているので、トイレでも我慢しているのかなぁとか思ってたっけあの時。でも、そんなこと直接伝えるわけにも行かなくて困惑したっけなぁ。
「ひ、緋色でいいわ」
「え?」
僕には彼女の言葉の意味が理解できなかった。
「だ、だから、緋色で良いって言ってんの!!」
「わ、分かったよ。僕も拓也って呼んでね」
もう一度繰り返す彼女に、下の名前で呼ぶように言われていることをようやく理解できた。
僕にはクラスカースト最上位の彼女に逆らう度胸なんてないから、それ以来名字を呼びそうになるのを堪えて、名前で呼ぶように気を付けている。
「ちょ、ちょっと聞いてるの?拓也君」
「え、ああ聞いてるよ」
僕が彼女との出会いを思い出していると、少し怒ったような彼女の顔が近づく。
「そ、それで、夏美姉様と雫姉様と、良い仲というのは本当かしら?」
「はぁ!?」
しかし、急にもじもじしながら顔と視線を少し逸らして尋ねる彼女の言葉に、僕は思わず周りに人がいるのも忘れて大声で叫んでいた。
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