第025話 裏切者!!

「おい、あれ見ろよ」

「ああ、あれが例の神崎さんが一緒にいた男か」

「でも、今日は水上さんまで一緒いるぞ?どうなってんだ?」

「なんでもアイツが殴られた現場に居合わせたらしいぞ」

「はん、なんであんなやつなんかに……ひっ」


 学校の校門を辺りに来ると周りに居るのは同じ学校の在校生ばかりだし、密度も増える。彼らが口々に噂しているのが嫌でも耳に入ってくる。


 僕は思わず眉をしかめた。僕の反応を見ていたのか、夏美姉ちゃんと雫姉が睨みつけると、彼らも口を噤んだ。


 この二人。久しぶりに会ったけど大概過保護なんだよね。


 可愛がってくれてる証拠だから嬉しいんだけど、僕も一人の男なので女の子である二人に守られているのが物凄く恥ずかしい。


「ふふふ、たっくんもモテモテね」

「何言ってるの。夏美姉ちゃんたちがそうしてるじゃないか」

「別にいいよ。言わせておけば」


 夏美姉ちゃんは面白そうに笑いながら僕の頬をつつく。二人のおかげで僕は完全にこの学校の注目の的だ。これからの学校生活を平穏に過ごすことが出来るか物凄く不安になってくる。


 雫姉も夏美姉ちゃんに同意するように頷く。


「言葉だけで済めばいいけど。昨日みたいなやつがいないとも限らないんだし」


 そういうところが本当に心配だ。


 言葉だけで言ってくるやつは別にいい。


 でも、実際に実力行使に出来てくるやつとか、いじめに発展させるやつとかがいると、そうも言ってられない。


 僕は昨日のよく分からない男の事を思い出す。


「大丈夫。たっくんに何かしてみなさい。絶対に後悔させてやるから」


 しかし、夏美姉ちゃんはカバンを持っている方の手を折り曲げて力こぶを作って見せると、なんだか悪寒を感じる笑みを浮かべていた。


―ゴクリッ


 周りにいた人たちが一斉に息を飲む音が聞こえた。


「何かあったらすぐ私に言うのよ?」

「わ、分かったよ」


 言い含めるような言い方をする夏美姉ちゃんに逆らうことが出来ず、姉ちゃんの剣幕怯えながら僕は首を縦に振った。


「私も水泳部の後輩が確か拓也と同じクラスメイトだったと思う。何かあれば教えてもらう」

「それもいいわね」


 二人で話しながら、何だか僕のための情報網が勝手に構築されていく。


「別にそこまでしなくても……」

「いいから、たっくんは黙ってて!!」

「そう、拓也は言われた通りにすればいいの」

「あ、はい」


 僕が恐縮しつつ二人を止めようとすると、二人に叱られて何も言えなくなった。


「それじゃあ、僕上だから」

「ええ、また後でね」

「うん」


 僕と雫姉は階段の前で夏美姉ちゃんと別れて二階に登っていく。


 この学校は一年生が三階で二年生が二階、そして一年生が一階に教室がある。一年生が一番大変な三階に登っていく仕組みだ。


「それじゃあ、またね」

「うん。雫姉もまたね。雫姉だったらいつでもウチに遊びに来ていいから」

「分かった」


 二階についた僕達。僕は雫姉とも分かれて三階へと階段を登っていく。


 そしてようやく一日ぶりの教室に辿り着いた。


「うぉおおおい!!桐ケ谷氏!!どういうことなのか説明してもらえますかな!?」

「そうだぞ!!たくやん!!俺にも分かるようにきっちり教えてもらおうじゃないか!!」


 僕が教室に入り自分の席に着くなり、二人の人物が僕に突撃してく来る。


 前者が今時牛乳瓶みたいな眼鏡をかけて小太りな大友ひとし。後者はそこそこ顔は整っているのに、エロい事ばかり話しているので女の子に嫌煙されている関谷雄二。


 彼らは僕の数少ない友達だ。


「一体何のこと?」


 僕は二人が聞きたいことがなんのことか分からずに首を傾げる。


「しらばっくれるのですかな!?もちろん我らが学園の正統派ヒロイン神崎氏との同伴登校についてですぞ!!」

「そうそう。水泳界が誇る姫。乳上様、あ、間違えた、水上様とも一緒だったと聞いたぞ!!いったいどういうことなんだぁ!?」


 二人が僕に詰め寄って捲し立てる。


 唾が飛んでくるのでもっと離れてほしい。


「ああ、そのことか」


 まさか二人に夏美姉ちゃんと雫姉の事を聞かれるとは思っていなかったので、何のことか分からなかったけど、腑に落ちた。


「何を落ち着いてるのですかな!?この学園の五大美姫の内のぼくちんの推しである神崎氏と一緒に居た理由をさっさと吐くのですよ!!」

「そうだぞ!?あのおっぱい……こほん、俺の推しの水上様と一緒にいる理由を話してもらおうか、畜生め!!」


 僕が慌てる様子もないことにいら立ったのか二人がさらに顔を近づけて詰め寄った。


「もう近いよ!!二人とは幼馴染なんだよ。高校は行ってからは疎遠だったけど……」

「な、なんですと!?あの皆の頼れる美人お母さんである神崎氏と幼馴染ですとぉおおお!?」

「ば、ばかな!?あのおっぱい神と言われる、水上様と幼馴染!?」


 二人は僕の言葉に信じられないことに直面したような表情になった。


 学校入ってからずっと会ってないから、そういえば夏美姉ちゃんと雫姉の話を二人にしたことはなかったな。


 暫く放心していた二人だったけど、口を揃って僕にこういった。


「「この裏切り者!!爆発しろ!!」」


 と。

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