第024話 痛いほど突き刺す視線

「あの二人とも……物凄く恥ずかしいんだけど……」

「いいじゃない別に。ね、雫?」

「うん」


 僕は今両腕が使えない状態になっている。


 それものそのはず。左腕を夏美姉ちゃん、右腕を雫姉ちゃんに取られ、腕を組まされている状態になっているからだ。


 二人ともギュッと密着してくるので、両腕に幸せな感触が広がり、大変嬉しいんだけど、昨日よりも沢山の人が僕の方を見てくるので、滅茶苦茶恥ずかしい。


 恥ずかしいのは僕だけで二人は全く気にしてないし、なんだか楽しそうなのでそれ以上は言わないけど。


「そういえば、雫姉は水泳やってるよね」


 僕はふと思い出して雫姉に問いかける。


「うん。最近は色々あって伸び悩んでるけど……」

「そうだったんだ……。ごめんね、変な話して……」


 水泳の話をすると、なんだか雫姉が沈んだ表情になってしまった。僕はいたたまれなくなって雫姉に謝る。


「ううん、いいの。それで、水泳がどうしたの?」


 少し沈んだ顔を振って元の無表情に戻った雫姉。


 あまり気分が良くない話なら続けたくないけど、雫姉が先を促すので僕は続ける。


「いや、うちにプールもあるから使ってもいいよって言おうと思って。今誰も使ってないから水入れてないけど、雫姉が使うなら水入れようかなって」

「え!?たっくんの家ってプールもあったの?」


 雫姉は僕の言葉に驚く。

 

 そういえば雫姉には見せてなかったっけ。うちに来てそのままプライベートルームに行って、後は全部そこで家の中でする行動は済むから他の所には行かなかったからか。


「うん」

「ホント拓也凄いね」

「いや、そんなことないよ。僕もひょろひょろだから、ちょっと泳いでみようかなと思って。外に泳ぎに行くのは恥ずかしいし、家にプールがあったら便利かなって」


 雫姉の素直な賞賛に僕は恥ずかしくなって顔を俯かせて呟く。ホントは頭を掻きたいところだけど、二人に腕を取られているので掻きたくても掻けない。


 作った理由に関しては第一に夏美姉ちゃんのためだけど、今言っていることも嘘じゃないので大丈夫なはず。


「そっか。でもちょうどいいかも。今度使わせてもらおうかな」


 何かを考え込みながら答える雫姉。


 僕には雫姉が何を考えているかは分からないけど、悩みを解消するきっかけになったらいいな。


「うん。いつでも遠慮なく使っていいからね。なんなら今日でも」

「うん……。使いたくなったら言うね」

「分かった」


 何やら思いつめながら返事をする雫姉に僕は頷くことしかできなかった。


「たっくんたら、雫の事を考えてあげるなんて流石ね!!」

「いやいや、僕は使ってない施設を有効に使ってもらえたらなって思っただけで」


 夏美姉ちゃんが僕と雫姉の会話に割り込んで僕の頭を撫でて褒める。


 僕は急に恥ずかしくなって慌てて俯く。


「うん、拓也ありがとね」


 そんな僕の頭に雫姉の落ち着いた優しい声色と優しい手つきが落ちてきた。


「いや、だからそんなつもりじゃ」

「たっくん照れてる。可愛い」


 僕は二人に撫でられてさらに恥ずかしくなり、もっと縮こまる。


「うわっぷ」


 そんな僕を見ていた夏美姉ちゃんが僕の頭を抱え込むようにして抱きしめ、僕は夏美姉ちゃんの胸に溺れてしまい、変な声が漏れた。


 柔らかい。けど、苦しい……!!


「ちょ……てよ……姉ちゃん」

「あ、ごめんごめん!!」

「ふふふ。二人が揃うと相変わらず賑やかね」


 僕がタップをすると、夏美姉ちゃんが腕の力を緩めてくれて、そんな僕たちの様子を見て、少し沈んていた雫姉ちゃんの表情も明るくなった。


 そういえば、昔も三人で遊んでいる時はこんな感じだったかもしれない。


 一方で、学校が近づくにつれて集まる視線が、昨日以上に強まっている気がするのは気のせいじゃないと思う。


 夏美姉ちゃんだけでもかなり目立つのに、それと同じくらい容姿に優れていて、競泳界の姫とまで呼ばれている雫姉とも一緒に登校しているとなれば、注目を集めてしまうのも無理はない。


 しかも二人がどこの誰とも知れない、パッとしない僕と腕を組んでいる。


 そうなれば、必然的にその視線がとげとげしいものになるのも仕方がないと思う。


「雫もやったらいいよ」

「うん、やってみるね」

「え!?いや、やらなくていいから!!ふぎゅ!?」


 なぜか夏美姉ちゃんが僕の頭を解放されたかと思えば、何故か雫姉の方に僕を差し出し、雫姉も夏美姉ちゃんの言葉を素直に受け取り、僕の叫びは虚しく、頭を抱え込まれてしまった。


 夏美姉ちゃんより、小さい身長にもかかわらず同サイズの雫姉ちゃんのたわわは、僕を優しく包み込み、雫姉の柑橘系のような甘酸っぱい匂いで僕を溶かす。


『ちっ』


 その瞬間、周りから物凄い舌打ちが聞こえた気がしたけど、気のせいだろうか。


「ふふふ、たっくんは抱きしめやすくていいのよね」

「なんとなく分かる」


 二人は分かり合っているけど、そろそろ離してください。


「雫たっくんが苦しそうだからそろそろ離してあげて」

「あ、分かった」


 僕はようやく腕の中から解放され、息をすることができた。もう少しで本当の天国にお迎えされるところだった。


「ぷはぁ……はぁ……はぁ。ほ、ほら、早く学校行こうよ。遅れちゃうよ」

「あ、いけないいけない!!」

「忘れてた」


 僕たちはかなりスローペースで歩きながら、時折こうして止まっていたので、結構な時間が経っていた。


 僕は二人を促して通学を急いだ。

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