第020話 ベッドがまだ届いてない
「それじゃあ、私達はお風呂に入ってくるね」
「ずっと見ていたかったけど、行ってくるね」
「い、いってらっしゃい」
執筆の休憩に夏美姉ちゃんと雫姉とお茶を飲み終えると、二人は立ち上がる。雫姉は名残惜しそうにしていたけど、夏美姉ちゃんに連れられてお風呂へと去っていった。
「夏美姉ちゃんもなかなか個性的だけど、雫姉も負けてないな……」
僕はため息を吐いて再び机に向かった。
「ふごっ」
それから暫くして気づくと僕は頬を誰かに挟まれていた。
「たっくん、そろそろいい時間だよ。お風呂入っちゃいなさい」
それは夏美姉ちゃんだった。
相変わらず強引な気が付かせ方だ。
「もう……もうちょっと優しくならないの?」
「だってたっくん何度呼びかけても全然気づかないだもん。これでも結構優しく気づかせようとしたんだよ?ね、雫」
「そうね。私はずっと見ていたいから別によかったんだけど、なつがダメだって言うから」
僕が困惑しながら問いかけると、夏美姉ちゃんの後ろには雫姉。二人とも少しかがんで僕に目線を合せている。
雫姉はお風呂上がりで夏美姉ちゃんのパジャマを借りている。よく見れば夏美姉ちゃんもパジャマに着替えていて、二人とも胸元がきついのか開け放っていて四つの丘が顔を覗かせていた。
二人の上気した肌が水滴を弾き、艶めかしさを際立たせ、しっとりと濡れた髪の毛が背筋にゾワゾワと寒気のような刺激を走らせる。
「そ、それはごめん」
僕は直視できずに顔を反らして謝った。
「いいよ、それよりもたっくんもお風呂入ってきなさい。そろそろ寝ないと明日に響くよ」
「分かったよ」
僕は夏美姉ちゃんの言葉に従って、パソコンの電源を落として寝室に戻り、着替えをもってお風呂に向かった。
「ふぅ~、今日は来ないみたいで助かる」
僕は湯船につかってぐったりとして夏美姉ちゃんが来ないことを安堵しつつ、心のどこかで残念に思った。
そして昨日の光景を思い出し、体の一部が固くなってしまったので、戻る前に吐き出させる羽目になった。
我ながら体は男子高校生としてとても健全すぎて困る。
お風呂から上がった僕は寝室へと向かった。
「あ、おかえり、たっくん」
「おかえり、拓也」
そこにはなぜか夏美姉ちゃんと雫姉がベッドに腰かけて待っていた。
あ、そうだ。まだ夏美姉ちゃんのベッド来てないんだ。
予定では明日到着予定だったかな。
ということは、ここに二人がいる理由は……。
僕は物凄く嫌な予感がした。
「それで二人がここにいるのは……」
「うん、そういえばまだベッド来てなかったし、昨日私がたっくんと一緒に寝たって雫に言ったら、私も一緒でいいっていうから連れてきたの」
「うん、昔みたいに三人で川の字に寝るの楽しみ」
僕が「なんで?」と最後まで言えずに言い淀むと、夏美姉ちゃんがその理由を述べた。夏美姉ちゃんの言葉に同意するように頷く雫姉。
「いやいやいや、いいよ僕は!?それに百歩譲って夏美姉ちゃんは親戚だからいいとして、雫姉は親戚でもなんでもないじゃん」
僕は夏美姉ちゃんに反論する。
本当なら百歩譲る気もないんだけどね。
「何言ってんの?ずっとちっちゃい頃から一緒に育ったんだから親戚みたいなもんでしょ」
「夏美姉ちゃんそれは流石に暴論だよ!!」
何食わぬ顔でそんなことを言う夏美姉ちゃんに僕は思わず叫んだ。
「拓也は私と一緒に寝るのそんなに嫌なの?」
僕と夏美姉ちゃんが言い合っていると、件の雫姉があまり変わらない表情を悲しげなものに変えて、僕を見上げる。
「うっ。いや、これはそういう話じゃなくて……」
僕はその泣き出しそうな顔に思わずたじろいでしまった。
「ほら、雫も一人だけ仲間外れも可哀想じゃない。一緒に寝ましょうよ」
「いや、なんで夏美姉ちゃんはしれっと僕と寝ることになってんの?雫姉と夏美姉ちゃんが一緒に寝て僕が一人で寝る選択肢だってあるじゃん」
何故か我関せずと言わんばかりに、夏美姉ちゃんが僕と一緒に寝ようとしている事実に戦慄を覚える。
「それはない!!」
僕が提示した選択肢をドヤ顔で胸を張って一刀のもと切り捨てた。
その際、二つのたわわな果実がプルンと揺れる。
「なんで!?」
夏美姉ちゃんに僕は困惑した。
僕と一緒に寝ることにこだわらなくてもいいじゃないか。
「私がたっくんをギュッとして寝たいからに決まってるじゃない」
「はぁ~……」
終始ドヤ顔の夏美姉ちゃんの答えに僕はため息しか出ない。未だに雫姉は悲しそうに僕を見つめる。
女の子のそういう表情に僕は弱いんだよなぁ。
どうにかしてあげたくなっちゃう。
というか夏美姉ちゃんもさっきのはあまり本気じゃないというかこうなることを見越してのどや顔だったのかもしれないな。
全く夏美姉ちゃんには敵わないや。
「分かったよ。分かりました。雫姉も一緒に寝よ」
「いいの?」
僕が観念したように答えると、雫姉が僕に問い返す。
まだ悲しそうな顔をしている。
「いいよ」
「拓也は私と一緒に寝るの嫌じゃない?」
再び僕が質問に肯定を返すと、さらに不安げな表情で問い返す雫姉。
「嫌じゃないよ」
「分かった。ふふふ、拓也、ありがと」
「ど、どういたしまして」
ここまで言って初めて悲し気だった雫姉が柔らかく微笑み、僕はその可愛らしさにドギマギしながら返事をした。
ふぅ悲し気な表情じゃなくなってよかった。
「うふふ、雫よかったね」
「うん」
夏美姉ちゃんと雫姉ちゃんはお互いに笑いあって喜ぶ。
その二人の姿に、二人が笑顔になるのなら、僕が少し我慢するくらいなんてことはないかなと思った。
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